第33話 決断した者たち

-昨日 夕暮れ時 冒険者ギルド-




そこにいる冒険者達は皆、ギルドの受付嬢セシリアが話し始めるのを黙って待っていた。



「この話を誰かにするのは、まだ何も知らない幼かった頃以来になるんですが…

実は私…メルリアの出身なんです」



彼女がその一言を発しただけで、周りがザワつき始める。

そんな中、1人の冒険者が質問を投げかけた。


「メルリアって、フリーデン王国に滅ぼされたっていうメルリア自治区のことか?」


「はい」


「…いや…でも…

15年位前のエルフの侵攻で、生存者は誰もいなかったって話だったはずなんだが…

おそらく、ここにいる皆もそういう認識だと思う」


「そうですね、仰る通りだと思います。

だからこそ、この話をした時の周りの反応を知って以降、今までずっと黙って過ごしてきました。

ですが、私個人としては、その話はルーデシアによる捏造だと思っています」


「…ルーデシアの?

セシリアちゃん…それってどういうことなのかしら?」



イレーネの言葉を聞いてから、少し間を置いてからセシリアは再び口を開く。



「話をするのは構わないんですが、それが真相…なのかどうなのか?はわかりません。

当時はまだ小さな子供でしたし…

ただ、その時に見たもの…記憶に残ってる場面、私がこうして大人になるまでの段階で得た知識を色々と考え合わせた結果、真実はこうだったんだろう…という推測になると思うんですが…

それでもいいですか?」



「今の俺達は真実が知りたいんじゃねぇ。

セシリアちゃんどう思ってるのか?を知りてぇだけだ。

だから、そんなに気負うことなんてねぇさ」


「ありがとう、バルデスさん。

じゃあ…

…あの時、あの場所にいた私の中での結論、それはルーデシアの聖騎士達によってメルリアは滅ぼされたということです」



彼女の周りに集まってきていた冒険者達、これまでの話の流れからある程度の予想ができていたであろう者、またそれとは逆に、予想外の展開に驚いたような表情をする者、など様々であったが、共通しているのは皆黙ったまま話の続きを待っているかのようであるということだ。



「おそらくですが、メルリア自治区はフリーデン王国と友好関係…とまではいかないにしても、休戦のための交渉をしていたと思います。

ですが、そういった行動を取っているメルリアをルーデシアは敵と見なしたのでしょう。

私の記憶では、ある日突然やって来て周りの人達を襲っていたのはエルフではなく、白い鎧の騎士達でしたから」


「メルリアに聖騎士が…?

わたし達が知ってる話と全然違いますね…

それにしても、そんな状況だったにも関わらず、お姉さんはどうやって生き残ることができたんですか?」


「父と従者達が聖騎士を足止めしている隙に、背中に傷を負った母が私を抱きかかえて必死にどこかへ向かって走っていた記憶があります。

もちろん子供だった私には、どこに向かっていたのか?はわかりません。

ただ、私の記憶に残っている母の最期の言葉は「どうかこの子をお願いします」です。

そして、その時に生まれて初めて耳の長い人間…エルフ族を目にしたんです。

ですが、その直後、すごく眩しい光ともの凄い音がして…

後々になって聞いた話を考えると、もしかすると、それがエルフ達が発動させたという大規模魔法だったのかもしれませんけど…

そこからの記憶はありません。

目が覚めると私はテオの村にいて、その時からこの町に来るまではそこで育ててもらいました。

多分ですけど、母の最期の願いを聞き届けたエルフの女性が私を村まで運んでくれたのだと思っています」


「…テオの村っていやぁ…確か精霊を信仰してるって噂の村だったよなぁ」


「ああ。

それで去年それがバレて、聖騎士団が邪教徒狩りに出撃したものの全員殺されたって話だぜ。

まぁ、騎士だけじゃなくて、村人も全員死んでたらしいけどな」


「その辺りがどうもピンと来ねぇんだよな…

聖騎士団を全滅させるなんて…一体、誰がそんなことできるんだ?」


「普通に考えればヒューマンと敵対関係にあって、森に近いっていう立地条件からエルフって線が濃いわよね」


「でもさ、メルリアの時は都市丸ごと消滅させてたんだろ?

だけど、今回は聖騎士達は身ぐるみ剝がされたままて村の外に放置状態、逆に村人たちは埋葬されてたらしいぜ。

以前と遣口が全然違うって、なんかおかしくないか?

そもそも、エルフは数も少ないらしいし、近接戦は苦手だって聞くぜ…まぁ噂だけどな。

だから、まともに正面からぶつかっても勝てないって理由で、メルリアを都市ごと大魔法で消滅させたって話になってんじゃねぇのか?」


「…もしかしたら、あの方々かもしれませんね…」



セシリアがそう呟くと、今自分達が置かれている現状を思い出したかのように周囲にいた者達が口を閉ざす。



「えっと…今話したように私は、自分の両親や生まれ故郷を滅ぼしたのはルーデシアだと思っているんです。

だから、私はルーデシアが嫌いなんです。

その…皆さんの期待していた話とは多分違っていたと思うのですが…すみません」


「別にセシリアちゃんが謝ることなんて何もねぇよ。

気にすんな」


「そうよ。

それに、謝らないといけないのは私達のほうだわ。

辛いことを思い出せるような話をさせてごめんね」


「いえ、そんな」



バルデスとイレーネがセシリアに声を掛ける。



「それで、今までの話を聞いて聖騎士さんはどうするつもりなのかしら?

私はバルデスさんやお姉さんと同じように、魔王に従うと決めたわ」



1人の女性冒険者がイレーネに対しそう尋ねる。

と同時に、周囲の冒険者達が再びザワつき始める。

おそらく、まだスラッシュたちの軍門に下るべきかどうか?を決め兼ねているのだろう。



「私は…そうね…

今のところはエレノア様たちに従おうと思っているわ」


「今のところ?…ですか?」


「ええ。

私には夫や子供がいますので。

何の相談もなしにここで決めてしまうわけには…」


「じゃあ、あなた個人としては聖騎士をやめて魔王に従おうって考えなのね?」


「そういうことになるわね。

なぜ、そんなことを私に聞くのかしら?」


「警戒していたから、というのが理由です。

いくらルーデシアを信じないと言っていても、私はあなたのことを知らない。

つまり、信用できないということです。

だから、私が魔王に従うと言ったら、どういう反応をするのか?を知りたかったことが1つ。

それと、あわよくば、聖騎士の鎧を着たあなたが自身の口で魔王に従うと公の場で発言させようと思っていたことが理由の2つめです。

最初、あなたはお姉さんが魔王に従うと言った時、それを止めようとしていましたからね」


「そういうことね…」


「…お姉さん。

魔王に従うって話だけど、いつどうやってそのことを伝えるつもりなのかしら?」


「えっと…特に深くは考えていませんでしたが、今日はもう暗くなる時間ですので、明日の朝にでもお屋敷に出向こうかと思っていたのですけど」


「そうですか。

私も一緒に行こうと思っているのですが、時間は8時頃にここで、ということでもいいかしら?」


「え、あ、はい。

じゃあ、明日の朝8時にこの場所で」


「じゃあ集合時間も決まったことですし、私は部屋に戻ることにするわ」



女性冒険者はそう告げると、ギルドの階段を上り自分の部屋に戻って行った。

それを見て、一部の冒険者、或いはパーティーもそれぞれの考えをまとめるために自分達の部屋へと戻って行く。



「じゃあ、私もこれで失礼するわね。

家族の反対が無ければ、明日の朝8時にここに来るから」


「なら、俺はここで見張りでもしておこうか。

中には騎士団に密告する冒険者がいるかもしれねぇから、いつギルドが襲撃されるかわからねぇしな」



そういってバルデスは入り口に近い場所の席へと移動する。



「バルデスさん、足の震え収まったみたいで良かったですね」


「お、そう言われてみれば。

話を聞いてるうち、いつの間にか足の震えが止まってたみてぇだな」




-翌朝-




昨日セシリアの話を聞いていた冒険者達のうちの9割程が再び同じ場所に集まった。

その中には普通の服を着たイレーネの姿もある。



「…思っていたよりも多くの冒険者が魔王に従う決断をしたようですね。

それで、お姉さん…いえ、セシリアさん…だったかしら。

この大人数で屋敷まで押しかけるつもりなの?」


「そのつもりですけど、何か問題でもあるのでしょうか?」


「これだけの数の冒険者が一斉に行ってしまったら、魔王に敵襲だと思われそうな気がするのだけど…」


「あの青年…魔王様のことですから、きっと大丈夫だと思います。

って言いたいところですが、確かにそうですね。

もし危険だと思う方はここに残ってもらって結構です。

私が屋敷に出向いて状況を説明しますので」


「さすがに、お姉さんだけにそんなことさせられねぇよ。

ギルドの受付嬢に魔王と交渉させてる間、冒険者はビビって留守番してる…なんて、恥ずかしいからな。

だから俺は付いていくぜ」



こういった経緯があり、冒険者達は皆でスラッシュたちがいる屋敷を訪れることになった。



【冒険者ギルド】


1階には受付があり、酒場も兼ねている。

2階より上は冒険者達専用の宿になっており、格安で宿泊可能。

というのが、一般的な冒険者ギルドの造りとなっている。

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