第34話 謁見

-夕方 マルクス邸-




屋敷正門の前には30名程の人々が集まっていた。

彼らは昨日冒険者ギルドにてスラッシュたちが引き起こした事件を目撃した者達である。

が、その装いはその時とは違い、皆普通の服を着用しており誰一人として武装している者はいない。



「アリシアさん…あなた…本当にエルフだったのね…」



来訪者に気付き、それを迎えるため外に出たのはアリシアとシルヴィー。

彼女たちの姿を見たイレーネが呟くような小さな声でそう言った。



「私のことが嫌いになりましたか?イレーネさん」


「いえ…そんなことはないわ。

ただ、純粋に驚いただけよ…」


「嫌われてないなら良かったです。

それに、こうしてご主人様に従う意思を見せてくれているので猶更です」


「アリシアー、ここでお喋りしててもいいの?」


「そうでしたね。

皆さん、ご主人様がお待ちです。

案内致しますので、私に付いて来てください。

…あ、それと一応。

無いとは思いますが、変な真似をしようとは思わないで下さいね」


「えー、アリシアー!

なんで言っちゃったのー?!

せっかくお肉食べれるかと思ってたのにー!」



この場にいるのは昨日の現場にいた冒険者達。

獣人少女の力を知っているからこそ、彼らは彼女達たちのその会話を聞いて息を飲む。



「ご安心下さい。

ここにいる皆さんは魔王様に従うという決断をした人ばかりです。

もし、そのようなことをする愚かな人がいるなら、それは自殺行為も同然。

自業自得だと思います」



そう告げたのはセシリアであった。

昨日の様子とは違い、何かを決意したかのような覇気のある話し方である。

アリシアはその言葉を聞くと、彼らに背を向け屋敷の中へと先導した。




-屋敷 3階-




うわぁ~…思ってたよりも結構いるなぁ…

朝オレが寝てる時に対応したエレオノーラ様がそこそこの人数がいるとは言ってたけど…



3階建ての洋館、その最上階。

そこは大広間となっており、中世ヨーロッパのような世界観を考えると、ここは客を招いての貴族達のイベント、舞踏会などに使われる場所なのであろう。

出入口となっている扉から見て一番奥にある壇上にはスラッシュたちがいた。

彼の隣にはエレオノーラとユリア。

そして、彼らがいるステージの下にはメイドの3人、アルファ、ベータ、ガンマの姿もあった。



「えー、皆さん…よく来て下さいました。

最初に言っておきたいのですが、余程のことがない限りこちらから危害を加えるつもりはありませんので楽にして下さい、いつも通りで結構です」



スラッシュが話しだすと、冒険者達は「意外だな」というような表情をし、黙ったままではあるが互いの顔を見る。



「じゃあ、遠慮なく普段通りにさせてもらうぜ。

俺は堅っ苦しいのが嫌いでね」


「ちょっと、バルデスさん!」



バルデスがスラッシュの言葉を真に受けたのを止めようとするセシリア。



「別に大丈夫ですよ。

えっと…あなたは昨日ギルドにいた受付のお姉さんですよね?」


「はい、私はセシリア・フローレスと申します。

今日はあなた様に従おうと思いやって参りました」


あ~やっぱりそうだよなぁ…


「えっとですねぇ…

確かに昨日、この町を支配下に置くとは言いましたが、無闇矢鱈に皆さんを虐げるつもりはないですし、部下になれっていう意味じゃなかったんです。

ただ、オレたちに敵対しないほうが良いよっていうのと、他の種族も共存する町にしていくよっていう話で。

なので、今後はルーデシアが唱えるヒューマン至上主義は撤廃することにします。

だから、そこさえ反対じゃないなら今まで通り普通の生活を送ってもらっても全然結構ですよ。

と言っても、場合によってはこちらが介入する事態があるかもしれないので、必ずしも今まで通りの生活を保障するとは言い切れませんけど」


「じゃ…じゃあ、今まで通り冒険者を続けても?」


「いいですよ。

逆に冒険者がいないと、町の人達からの依頼を解決する人がいなくなってしまいますから。

それに、無理やり部下にされて、自分に合わない場所で働きながら人生を終えるのも嫌でしょう」


…前世、新卒で入った会社がブラックでマジで辛かったからなぁ…

半ば強引に辞めて転職したのはホント良かったと思ってるし…


「というわけなので、2回も来てもらってて申し訳ないんですけど、帰りたい人は帰ってもらっても大丈夫です。

一応念のため言っておきますけど、あなたたちの忠誠心を試すテストでもありませんし、ここを去るのを咎める気も一切ありませんから。

もちろん、今ここで皆さんで相談してもらって結構です。

…アルファ、お帰りになられる冒険者が決まったら屋敷の外まで送ってもらえる?」


「かしこまりました、マイロード」



スラッシュの言葉を聞き、冒険者達はしばらくの間色々と相談をする。

そしてその結果、大半の者が屋敷を後にした。

このことを言い換えれば、その場に残り続けた者達がいたということである。



残ったのは8人か…

エレオノーラ様とユリアが予想してた数よりも少し多いな…


「えーっと、セシリアさん…で良かったですよね。

ここに残った理由…それって、さっき言ってたようにオレたちに従う…つまり部下になりたいって捉えても良いのかな?」


「私はそうですが…」



セシリアはそう告げると、周りの者達の顔を見る。

すると、彼らは頷いた。



「わかりました。

では、これから1人ずつ面接をしましょう。

まずはセシリアさんからでも大丈夫ですか?」


「あ、はい」


「では、他の皆さんは別室で待機していて下さい。

…ベータ、ガンマ。

待機用に用意してる部屋への案内と…

あと、待ってもらってる間何もすることがなくて暇を持て余すだろうから、せめてお茶くらいは出してあげて」



「かしこまりました、マイロード」

「かしこまりました、マイロード」



彼らにとっては予想外の展開だったのだろう。

それこそまるで狐につままれたような顔になったまま、メイド達によって別室へと案内されて行った。

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