第28話 アルファ
ザックに案内されてアルファがやってきたのは応接室のような場所。
彼は先に彼女を高級そうなアンティーク調のソファに座らせると、対面にあった自分の席へと着いた。
「で、取引したいものっては?」
「こちらが出すのは、聖騎士77名分の装備等一式です」
「は?!
…いや…
嘘…を言ってるわけではなさそうだな…」
「当然です。
なぜ私がそのような嘘を吐かなければならないのですか?」
「まぁ、それもそうだな。
わざわざ闇ギルドまで来るくらいだしな。
けどよぉ、聖騎士っていやぁ、皆一応それなりの力を持ってる部隊だぜ。
しかも、厄介なのがそのミスリルでできた装備。
1人倒すだけでも面倒だってのに、77人分だっけか?
まず、そんなもんどうやって手に入れたか?を教えてくれ」
「簡単に言えば、全滅させたから、ということになりますね」
「聖騎士団を全滅って…」
「信じられないのも無理はありません。
当然の反応だと思います。
ですので、まずはこちらを…」
アルファはそう言うと、天板が大理石でできている豪華なテーブルの上に、ブローチのような物をそっと置いた。
「これは…?」
「どうぞ、手に取ってご確認下さい」
ザックはその言葉を聞き、それを指で挟むと隅々まで見る。
しばらくすると、それをテーブルの上にそっと戻した。
「如何でしたでしょうか?」
「…信じられねぇ…」
「それを見てもまだ疑うというのでしたら…」
「いや、そういう意味じゃねぇんだ」
ザックは慌てて彼女の発言を止める。
「誤解させて悪かった。
これは間違いなく本物のミスリルで聖騎士…しかもその団長が身に着けているマント留めで間違いねぇよ。
俺が信じられないって言ったのは…
…そうだな、あんた。
これに書かれてる数字の意味って知ってるか?」
「数字の意味…ですか?
あまり気にしていませんでしたが、確か8という数字が小さく刻まれていましたね。
なので、第8聖騎士団といった意味だと思うのですが」
「確かに、あんたの言う通りで間違いは無いんだが…
問題なのは数字が1桁だってことだ。
これは部隊ができた順に与えられる番号じゃなくて、その団の強さを示してる。
上から順に1、その次が2っていう風にな。
でだ、この1桁台の騎士団はシングルナンバーズって呼ばれててだな…
冒険者のランクで例えると、Aクラスの集団に相当するってのが俺達の認識だ。
だから、信じられねぇって思ったんだよ」
「そうだったのですね。
教えて頂きありがとうございます。
1つ勉強になりました。
つまり、Aランクの冒険者も大したことはないということですね」
「え…」
「それで、取引の件はどうされますか?」
「も、もちろんお受けします」
「良い返事を聞くことができて良かったです。
わざわざここまで足を運んだ甲斐がありました」
「それで…その装備品というのは?」
「取引をする相手も見つかっていない状態でしたので、今は持ってきておりません。
かなりの量で嵩張りますしね。
ですので、明日の午前中には再びこちらに馬車で来ます。
と言っても、訳あって私はその時にはおりません。
なので、最初は私どもの主人たちが訪れることになるでしょう」
「…どういった方なので?」
「私と同じ黒髪の女性ですので、すぐにわかるかと。
あと、具体的な取引価格などの商談はその際に」
アルファはそう告げるとスッと席を立ち、部屋を出て行く素振りを見せる。
「あの…」
「まだ何か?」
「あ…いえ…」
「でしたら私はこれで失礼させて頂きます。
…と思いましたが、あなたとはこれからも上手くやっていくことができそうなので、最後に1つだけ忠告しておきます。
私どもの主人に無礼な真似をしようものなら、命がいくつあっても足りませんよ」
そう言い残し彼女はドアの向こう側へと去って行った。
-時は再び戻り マルクス辺境伯の屋敷-
「…という経緯でザックさんたちと出会ったみたいです。
私は町の外にいたので、その場にはいなかったんですけど、アルファさんがそう言ってました」
さっき見たアルファのステータスで、騎士団の中でのトップクラスを相手にしてもそういう感じになるんだったら、本当に聖騎士団って大したことないんだな。
それよりも…
ミスリル来たー!!!
異世界ものによく出てくる謎の金属!
あ、そっか。
それで、騎士団ってフルアーマープレートみたいなごつい装備してるのに、普通に馬に乗ったり、身軽に動けたりしたんだ。
軽くて丈夫な金属ってイメージはオレのラノベやゲームの設定にかなり近いみたいだな。
てことは、気持ち程度には魔法耐性の効果なんかも付与されてるのかな?
「そういや、オレの中じゃミスリルって結構高いイメージがあるんだけどさ。
どれくらいの金額になったの?」
「申し訳ないのですが、ちょっと私にはわかりません。
お金の管理に関しては基本的にアルファさんが担当していますので」
「ん?
エレオノーラ様じゃなくて?」
「はい。
アルファさん、テオの村に移住するまでは商人だったみたいですし。
エレノアさんもその手腕をかなり買っているようですよ。
と言っても、エレノアさんは基本的に面倒臭がりというのもあるのでしょうけれど」
確かに元々はヒューマンで黒髪だから、リディアスの血を受け継いでるってことだもんな…
だったら、商人だとしても全くおかしくはないか。
「それはそうと、テオの村って?」
「アルファさん、ベータさん、ガンマさんの3人が住んでいた村の名前です。
大精霊の森の近くにあって、私たちもこの町に来るまでの数日間そこにで暮らしていました」
あ~なるほど。
その村の名前がテオっていうことね。
第8聖騎士団が邪教徒狩りで村を滅ぼしたっていう…
で、エレオノーラ様の眷属になった3人が皆殺しにしたっていう流れか。
「そうだったんだ。
でも、なんでわざわざこの町に?
村じゃダメだったの?」
「いくつか理由はあるんですけど。
まず、村だと魔物が襲ってくる頻度が高いですから、町のほうが確率が下がるということですね。
この辺りに住む魔物自体は脅威ではありませんけど、ご主人様がまだ赤ん坊だったということもあり万が一を考えまして。
それに、エレノアさんもずっと結界を張ったままというわけにもいきませんから。
あとは単純に不便でしたからね。
この世界の情報はある程度そこでアルファさんたちから聞いて知りましたが、この屋敷にあるような書庫などはありませんでしたし。
なので、3人の家族や恋人、友人を埋葬して弔い、気持ちの整理ができた頃に、必要な食糧や馬車などを確保してこの町に来たというわけです」
アリシアは丁度説明が終わったタイミングで食堂の扉を開いた。
この世界には魔物が存在するため、基本的に集落にはその対策が為されている。
これといった定義というものは無いが、村、町、街、都市の違い、外観の目安はこうである。
【村】;集落を囲むように木の柵が施されてある。
【町】;村のような木の柵ではなく、外部からの侵入を阻害するような形の鉄柵が使用されている。
【街】:中が見えない程度の高さまでレンガや石壁などを築き集落を囲んでいる。
【都市】;いわゆる城壁。街に比べかなりの高さがあり、都市の規模にもよるが何重にも壁や堀が造られている。
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