第27話 闇ギルド
「てなると…
さっき言ってたザックってのはその闇ギルドの人ってことになるのかな?」
「はい、その通りです。
ザックさんはそこのギルド長ですね。
だから、他の人たちには全く関心がないエレノアさんも、ザックさんの名前だけはちゃんと憶えているみたいですね」
「確かに…言われてみれば。
てことは、日頃から結構色々と闇ギルドと関わりがあるわけ?
てか、そもそもどういう経緯で闇ギルドと?」
「えっとですね、まず…
ザックさんたちは私たちがこの屋敷で暮らすようになってからも、色々とお手伝いをしてくれていますよ。
例えば、シルヴィーが外に出るときに付ける隷属の首輪のニセモノもあの人たちが用意してくれましたし。
それに、騎士団の中にスパイを送り込んでくれてますので、そういった情報も流してくれてるみたいです。
ただ、その辺りに関しては私の担当じゃないんで、あまり詳しくは知りませんが。
あ、ちなみにですが、闇ギルドの担当はアルファさんです」
「だから、ベータでもガンマでもなく、一応はメイド長なのにアルファを指名したのか」
「かもしれません。
それで、次のご質問の答えなんですが…」
-1年程前 シエルスの町住宅街-
夜の町に忍び込んだエレオノーラ、
「我はこれから屋敷に向かう。
そなたたちは町の様子を見つつ、
黒髪は闇ギルドとやらを。
青髪は食料と衣服の調達。
白髪は赤子の面倒を見ることができ、拠点となる得る条件を満たしている場所を探せ」
「かしこまりました、マイレディー」
3人は同時にそう返事をすると、それぞれが異なる方向に向かって歩いて行った。
それにしても…この町に闇ギルドってあるのかしら…
もしあるとすれば、人気が少なくて治安の悪そうな場所だとは思うのですが…
アルファは住宅街とは別に、できるだけ人が居なさそうな場所を見つけては、そちらの方へと一人歩いていく。
「こんばんわぁ~綺麗なおねえさ~ん。
こんな夜道を女1人で歩くなんて危ねぇぜ~
もしかしたら俺達みたいな悪いヤツに襲われるかもしれねぇぞ~」
「兄貴、こいつ黒髪ですぜ。
攫って売り飛ばせば、かなりの高値で取引できるんじゃねぇっすかね?」
「バカか、てめぇは。
こんな上玉滅多にお目にかかれるもんじゃねぇんだぞ。
そうなりゃ、取引もクソもねぇだろ」
やっとそれっぽい連中に遭遇したけれど…
こんなチンピラみたいなのが闇ギルドのことを知ってるのかは疑問ね…
まぁ、いいわ。
「あなた達、闇ギルドの場所は知っているかしら?」
「あ?
闇ギルドだぁ?
そんなこと聞いてどうすんだよ?
てか、姉ちゃん、今の自分の状況がわかってねぇみたいだな」
男はそう言うと、懐に隠してあったナイフを取り出した。
するとアルファは大きな溜息を吐いた。
「はぁ…これだから昔から馬鹿な人は嫌いなのです…
あなた、今のは私の質問の答えになっていませんよ」
「んだと、てめぇ!
1回痛い目をみなきゃわからねぇようだな!」
「やはりあなたでは話になりませんね。
もう結構です」
雑踏もなく静まり返った薄暗い路地裏で、何かがボトッと落ちるような音がした。
彼女の足元に落ちてきたのは、兄貴と呼ばれていた男の首。
あまりにも一瞬の出来事だったので何が起きたのか?が理解できないでいたもう1人の男だったが、一拍置いた後、彼女の紅い瞳とその手から滴り落ちる血を見て状況を把握したようだ。
直後、彼はその場で腰を抜かしガタガタと全身を震わせていた。
「あなたはご存じなのかしら?」
「…あ…あ…」
「そうですか。
答える気がないのでしたら、もう…」
「し!
知ってます!」
アルファが言い終える直前であったため、彼の命は首の皮一枚で繋がった。
「そうですか。
では、案内をお願いします」
「え…えっと…
こ…ここからもう少し先に進んだところに…いつも見張りが立ってる建物があって…
その中が酒場になってるらしくて…
そ、そこで聞いてみたら…
多分…いえ…きっと…わかると思います…」
「そうですか。
貴重な情報ありがとうございます。
ですが、私はあなたに案内をお願いしたはずです。
…それに、あなた。
私に「知っている」と嘘を吐きましたね」
アルファが告げたその次の瞬間、子分の首は繋がっていた胴体と離れることになった。
いずれにしても、この瞳を見てしまった時点で生かしておくつもりはなかったのですけどね。
それにしても…
村で聖騎士達を皆殺しにしても何とも思わなかったのは、復讐心や怒りの影響だと思っていましたが…
そういった恨みのような感情もなく、ただ絡んできた相手を殺しても何も感じない。
やはり、私は本当にヒューマンをやめてしまったようですね。
しばらく道を進むと、彼女は入り口のドアを挟むように2人の男が立っている建物を見つける。
「中に入ってもよろしいでしょうか?」
「会員証はお持ちでしょうか?」
「いえ」
「では、お通しすることはできません。
それに…あまり大きな声では言えませんが…
あなたのような普通の女性が1人で来るような場所ではありませんので」
「そうですか…では、仕方ありませんね」
アルファはそう呟くと門番の2人にそれぞれ金貨を1枚ずつ手渡した。
「これでも中には入れてもらえないでしょうか?」
その問いを聞くと、彼らは顔を見合わせ黙って頷いた。
「今回は特別にお通ししますが…
あまり目立ったことをしないようにして下さい」
「一応、忠告はしておきましたので、あとは自己責任でお願いします」
「2人とも、ありがとうございます」
彼女は2人にそう告げると建物の中へと入る。
中の造りは冒険者ギルドと似ているが、机や椅子などの諸々は全て上等そうなものばかりで揃えてあった。
だが、アルファはそんな高価な物には全く興味がないかのように、執事のような恰好をした男性がいる受付へと向かう。
「いらっしゃいませ、どういったご用でしょうか?」
「闇ギルドについて教えて欲しいことがありまして…
いえ、もしかすると、ここが闇ギルドなのかしら?」
「恐れ入りますが、まずは会員証を拝見してもよろしいでしょうか?」
「そういったものは持っていませんね」
「では、こちらを紹介して下さった方のお名前は?」
「そういった知り合いもおりません」
「左様でございますか…
先程のご質問についてですが…
失礼かもしれませんが、私には何を仰られているのか?がよくわかりません。
こちらは会員制の高級酒場となっておりますゆえ」
「そうですか…
こんな治安の悪い場所にこのような高級な店があるのはあまりにも不自然だと思い、ついそう思ってしまいました。
では、闇ギルドについて何か知っていることを教えては頂けませんか?」
「そう言われましても…
なぜ闇ギルドについての情報を?
もしかして、ルーデシア聖騎士団の方なのでしょうか?」
男の言葉にアルファが反応する。
「私が…
この私が…あの忌々しいルーデシアの聖騎士か?…ですって!」
彼女の豹変ぶりに驚いた様子で、受付の男が身構えた姿勢になる。
「…と…私としたことが…失礼しました。
ただ、次に同じことを言えば殺しますよ。
…とは言ってみたものの、闇ギルドについての情報を教えて頂けないのでしたら、同じ結果になりますのでご注意を。
ご存じなのでしょう?」
受付でのやり取りを聞いていた者、何人かがアルファの周りを囲む。
が、その時声が聞こえた。
「やめておけ、お前ら。
さっきの眼は何の躊躇もなく人を殺せる眼だったぞ。
それに、たった1人でこんな場所に来るなんて普通じゃねぇ」
「あなたは?」
「俺はザック。
ここの闇ギルドでギルド長をやってるもんだ。
あんたは?」
「名乗らなければならないですか?」
「いや、別に言いたくなきゃそれでも構わねぇさ」
「お心遣い感謝します。
そちらが名乗っているのに、こちらが名乗らないのは失礼に当たるということはわかっています」
「ま、ここに来る奴らなんて皆なにかしらの事情がある連中ばかりだしな。
で、あんた。
闇ギルドに何か用があるんだろ?」
「はい。
今回は取引して頂きたい物がありまして。
…それと、今後も協力関係を継続できそうな方々なのかどうか?を見定めに」
「闇ギルドを相手にやけに上から目線だな…
だが、それが気に入った!
取引なんだろ?
奥の部屋で詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
ザックはアルファを連れて、奥の方にあった個室へと移動した。
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