第26話 裏との繋がり

-時は戻り マルクス辺境伯の屋敷-




う~ん…やっぱり、アルファにベータ、ガンマ…3人ともステータスは普通に表示されるよな。

…となると、アレって、鑑定スキルを阻害する力が発動した…みたいな感じなのかな?

まぁ、エレオノーラ様のことだし、そういった能力を持っててもおかしくないか。



スラッシュが振り返ると、玄関の前にはアリシアが立っていた。

先程ドアを開けた際、スラッシュはエレオノーラに呼ばれてそちらに向かったが、彼女は付いては行かずに、門番の役目を果たすかのようにその場に残っていた。



そういや、アリシアちゃんのステータスってどうなってんだろ?

ちょっと気になるな。

エレオノーラ様とかシルヴィーと違って、あんまり戦闘能力とか無さそうな感じだし。


【警告】鑑定不可!


え?!

アリシアちゃんもなの!

どうなってんだ…

もしかしてバグか?

…いや…そうでも無さそうだな…



スラッシュは周囲に目を向け庭に生えている木や屋敷を鑑定してみたが、特におかしな点はなかった。



スキル:【鑑定】


知りたいと思った対象の詳細を知ることができる能力であり、本人が知り得ない情報も表示される。

言い換えれば、スキル発動時であっても、スラッシュが知りたいと思わなければその情報は表示されない。

また、対象によって映しだされる形式が異なる。

生物であればステータス情報が表示されるが、それが普通の植物や物体などの場合においてはステータスが表示されない。

今回のケースであれば、屋敷のような人工物だと、建築様式やそれが構成されている材料などを知ることはできるが、築年数やどういった経緯で建てられたのか?といったような歴史的な背景は知ることができない。



「どうかされたのですか?ご主人様」


「ん?別になんでもないよ。

…それより、アリシアちゃん、良かったの?」


「良かった…?とは…?」


「いや、昼間聖騎士のお姉さんと親しげに話をしてたから…

どうなのかな?って思って」


「ああ、そのことですね。

いくら親しいからと言っても、ご主人様に害を為すのであれば、誰であろうとこうなるのは当然の報いだと思っていますのでご安心下さい」


オレのことになると、かなりドライになるみたいだね…


「あと、ご主人様が私に気を遣って下さったことはわかっていますので、一応お伝えしておくと、広場で遭った女性…イレーネさんというんですが、彼女はここには来てませんでしたよ」


「あ、来てなかったんだ。

聖騎士がたくさんいたし、結構上の人っぽかったから、てっきり…」


って…ん?

なんでアリシアちゃんはそれがわかるんだ?

あいつら全員フルアーマープレートだったのに…

確かに団長らしき人はヘルムを外してたけど、他は全員顔が見えなかったはずなんだけど。

もしかして、アリシアちゃんも魔眼とか鑑定みたいなスキルを持ってるってこと?



「我が君よ。

聖騎士の件も片付いたことじゃし、そろそろ今後の方針でも話し合わぬか?」


「それもそうだな。

ただ、その前にちょっとで一息入れてからでもいいかな?

オレもアリシアちゃんも丁度休憩しようかと思って食堂に向かってたところで騎士達がやって来たもんだから…」


「我が君は我が君のしたいことをすればよい。

それに、そろそろ夕飯時じゃしの。

…アルファ、ベータ、ガンマ。

そなたらは食事の準備をせよ」


「かしこまりました、マイレディー。

ただ、1点だけ申し上げてもよろしいでしょうか?」


「構わぬ、言ってみよ」


「あれらの処理はどうなさいますか?」


「ん?

ああ、あの屍の山か…それもそうじゃな。

…アルファ、そなたに任せよう。

食事はベータとガンマの2人でも問題はないしのぅ。

…もしザックらと合流するのであれば、夜が明ける前に処理を済ませおくのじゃぞ」


「ありがとうございます、マイレディー。

では、早速準備に取り掛かります。

あなたたちもすぐに食事の支度を」



アルファがそう告げると、ベータとガンマは屋敷の中へ、彼女は庭を足早に歩き建物の裏の方へと向かう。

眷属だちが行動に移ったのを確認したエレオノーラは、スラッシュとアリシアとは別行動をするためか、先に屋敷の中へと戻って行った。



「さ、ご主人様。

私たちも食堂に行きましょうか」



アリシアはそう言うとスラッシュの腕を組んでべったりと彼に密着する。



改めて思うけど…ホント可愛いよなぁ…

細身のエルフなのにこの巨乳!

まさかこんな日が来ることになるとは…

アリシアちゃんを設定にした自分自身を褒め讃えようではないか!



彼は自分の左腕を包み込んでいる豊満で柔らかい感触を堪能しながら、食堂までの廊下を歩く。

その緩んだ表情から察するに様々な妄想にふけっているのだろう、先程から2人の間に会話はない。



は!

ちょっと休憩したら大事な話をしなきゃならないのに、オレは何を考えてんだよ…



スラッシュがあまりにも喋らなかったのを心配してか、アリシアが彼の顔を見つめていると、その視線に気づき我に返ったようである。



「あ…えっと…そういえばアルファってどこかに行くの?

さっき朝までに帰ってこい、みたいなことをエレオノーラ様が言ってたよね?」


「その件でしたら、きっと聖騎士達が装備していた鎧とかを売り払うためにザックさんたちのところに行くのでしょう。

テオの村の時もそうでしたからね」


ああ、なるほどね。

向こうから襲ってきたから、追い剥ぎとはちょっと状況が違うけど、まぁ似たようなもんか。

…てか…

ザックって誰だよ!

それにテオの村って?

初日だからかもしれないけど、相変わらず自分の身の回りの状況がほとんどわかっていないのは結構ヤバいな。

まぁ、1つ1つ潰していくしかないけど。


「ねぇ、アリシアちゃん。

そのことについていくつか聞いてもいいかな?」


「もちろんです」


「じゃあ、まず…あの騎士達が着てた鎧とかってどこに売るの?」


「前回と同じなら、この町にある闇ギルドだと思います」


前回?

てか…闇ギルドって!


「えっと…

闇ギルドって、オレの中じゃ結構ヤバい組織だと思うんだけど…

アルファ1人で行っても大丈夫なの?」


「全然大丈夫ですよ。

特に私たちがこの屋敷に住むまでは、闇ギルドの人達に色々とお世話になっていましたし。

それにみんな仲も良くて、私なんか「アリシア姉さん」って親しみを込めて呼ばれてるんですよ」


その呼び方って…


「ちなみにだよ…

ちなみにだけど、エレオノーラ様って何て呼ばれてるのかな?」


「エレノアさんは「姉御」って呼ばれてますね。

それがどうかされたのですか?」


あ…やっぱり…


「ううん、大丈夫。

大体、わかったような気がしたから」


エレオノーラ様…すでに裏社会まで牛耳っていたのか?

さすがは魔王軍四天王…

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