第22話 エレオノーラ
-1年程前の夜 マルクス辺境伯の屋敷-
エレオノーラは屋敷内の一室にいた。
彼女には様々な特殊能力があるため、周囲に気付かれずに行動し、建物内に忍び込むことなど造作もないことであった。
おそらく…こやつが…
「おい、童、起きよ」
「ん…んん~」
エレオノーラが起こそうとしているのは寝室で眠っている少女。
一瞬だけ少女は彼女の声に反応を示したが、目を開けることはなく、そのまま寝返りを打つとまたすぐ眠りに就こうとした。
まさか、この我の呼びかけを無視するとは…
「おい!童!起きぬか!」
ほんの少し不機嫌そうな顔をしたエレオノーラが、今度は先程よりも大きな声で眠っている少女の耳元で言った。
体をビクッとさせ大きな反応を示した少女。
両目は丸く見開いているが寝起きということもあり、一体何が起こっているのか?がまるでわかっていない様子でエレオノーラを見ている。
「やっと起きおったわい…
童、お前に聞きたいことが…」
「ちょっと、あんた誰よ!
無礼な人ね!
あたしを誰だと思ってんのよ!」
エレオノーラが言い終える前に、食い気味に少女が言う。
「目が覚めたばかりじゃというのに、やかましいやつじゃのぅ…
そんな大きな声を出さぬともちゃんと聞こえておるわ」
「別に大声なんて出してないわよ!
これがあたしの普通なのよ!
って、それよりもあんた見ない顔ね?
最近入ってきたばかりの使用人?
というより、気持ちよく寝てる私を叩き起こしてあんたタダで済むと思ってんの?!」
「その点に関しては問題ない。
我は強いからのぅ」
「え!
あんたって強いの?!
ねぇねぇ!どれくらい?!
もしかして、王都にいる騎士とかよりも強かったりするわけ?!」
「その王都の騎士とやらが、如何程のものかは知らぬが、まぁ余裕じゃろうな。
…って、そんなことはどうでもよい。
童、我の質問に答えよ。
お前の名は、なんという?」
「え?
ユリア・マルクスだけど。
ん?
私の名前を知らないってことは…
あんたって泥棒?
それとも、もしかして誘拐犯?」
「どちらでもないわ。
盗みをするつもりも攫うつもりもない。
ただ、お前の名前が知りたかっただけじゃ」
「えー…それだけ?」
「なんじゃ…我に何かを期待していたような言い方じゃのぅ」
「だって~!
自由に外に出られない生活なんて、もうイヤなの!
いっつも護衛とか誰かが私のそばにいるし!
そんなんだから、一緒に楽しく遊べる友達なんて誰もいないのよ!
というわけで!
あんた、あたしをここから外に連れ出しなさい!」
「断る」
「えー!
あんた、なんとな~くだけど良い人そうに感じたから、もしかしたらって思ったのにー!」
なるほどのぅ…
大体の状況は掴めてきたわい…
であれば…
「今は断る、という意味じゃ。
我も忙しいものでのぅ」
「そうなの…まぁわかったわ!
じゃ、いつなの?!」
「1週間以内にこの屋敷で働きたいというメイドの娘がやってくるはずじゃ。
名はアリシア。
彼女をお前の専属メイドにするがよい。
さすれば、ある程度の望みは叶えてくれるはずじゃ」
「アリシア…ね!
わかったわ!」
「では、我はそろそろ行くとするかのぅ」
「ちょっと待って!
あんたとは、また会えるのかしら?!」
「我の言った通り、ちゃんとアリシアをメイドとして雇い入れるのであれば、そう遠くはないうちにな」
エレオノーラはそう言い残すと、その場から一瞬で消えてしまった。
まさか我が君の創作物に登場する人物が、本当にその名で存在するとはのぅ…
であれば、あやつらもこの世界にいる可能性が高いというわけじゃな…
「クフフ…
我はなかなかに面白そうな世界に来てしまったようじゃ…」
エレオノーラは、不気味な笑みを浮かべ独り呟いた。
-夜 屋敷の庭-
白い鎧を身に纏った者達が次々と倒れていく。
そして、その様子を玄関先で観戦しているのはスラッシュとエレオノーラであった。
これって間違いなくアルファとベータ、ガンマの仕業なんだろうけど…
全然見えない…
動くの速過ぎじゃね?
なぁ、リア。
なんとか見えるようになんないかなぁ?
<マスター、その原因は魔眼をパッシブスキルにセットされていないからでは?>
え?
魔眼ってそんな効果があるの?
オレの中じゃ、なんか相手に呪いをかけたりとか、そういう魔術的な感じの設定にしてたかと思うんだけど。
<そのことは承知しています。
ですが、女神様からの情報だと、動体視力が向上するだけではなく、通常では見ることができないものも視認可能となるようです。
あと、通常スキルとして使用すれば、先程マスターが言っていたような効果も得られるみたいです>
それって、パッシブスキルにセットしてる状態ても、通常スキルとして使えるってことか。
マジっすか!
魔眼パネェな!
じゃ、早速セットしてみるとするか。
「アドミニストレーター」
スラッシュはユニークスキルを発動させると、その画面を色々と触りだす。
「我が君よ。
何をしておるのじゃ?」
「いや、ちょっとスキルをね…」
「ほう…それが他者には全く見ることできぬというそなたのスキルか」
彼はセットし終えると再び周辺を見渡した。
おおー!すげー!
これが結界か!
こんなのまで見えるんだ!
それに、さっきまで全然見えてなかったのに、普通に戦ってるとこ見えちゃうじゃん!
ん?
なぁ、リア。
あの3人からオーラみたいなのが出てるんだけど。
アレってなに?
<あれは魔力みたいですね。
通常は見えないもののようですが、魔眼をセットしたから見えるようになったと推測します>
魔力ねぇ。
そういや、ステータスに【MP】ってあったけど、オレ魔法使えるのかな?
なんか、こういった魔眼とか鑑定みたいなスキルは最初から持ってるみたいだけど、魔法とか必殺技的なものって全然見当たらなかったんだよなぁ。
<これは推測ですが、そういった類のスキルや魔法はこの世界の中で、自分で手に入れないといけないようになっているのかと>
なるほどねぇ…
まぁ、【HP】とか【不老不死】のパッシブスキルなんかもう無敵だし、攻撃力とか防御力もステータス値を設定できるから問題ないか。
まだ初日だし、追い追い手に入ればいいかなぁって感じだな。
あ、そうだ。
あの3人と聖騎士達のステータス値ってどうなってんだろ?
ギルドで倒した男…なんか名前が上の方に表示されてた気もするけど全く覚えてないな…
じゃなくて…
あいつの数値めちゃくちゃ低かったから参考にならなかったんだよな。
「鑑定発動」
ん?
なんかおかしいぞ…
なぁ、リア。
これって魔眼発動させてるのに、更にスキル使ったからバグってるとかか?
<それはあり得ません。
加えて言えば、魔眼はパッシブスキルとしてセットしていますので、通常スキルを併用しても何の問題もないはずです>
え?
本気で言ってる?
じゃあ…
例えばベータのステータスだけどさぁ…
【HP】:150
【攻撃力】:120
【防御力】:140
みたいな数値なのに、騎士団を圧倒してるってことは、あいつらのステータス…
最高で40いかないくらいかな…
っていうのもバグじゃないってことか?
<そうなります>
え?
じゃあ、オレの6000って、もう完全に化物じゃん!
<不老不死のパッシブスキルがあるだけでも十分に化物の条件は満たしているとは思いますが、どうやらステータス値もそういうことになるみたいです>
いやいや!
この世界じゃ目立たないようにした方がいいよね…みたいな感じでリアも言ってたのに!
<その点については私も同感です。
ただ、女神様へのアクセスで得られる情報の大半が、マスターに関することと、この世界の概要についてです。
ですので、種族の能力値などといった細かい情報は得ることができません。
ヒューマンやヴァンパイアの眷属のステータス値がここまで低いというのは、私にとっても予想外であったということです>
そっか…
じゃあ、まぁ…あとでステータス値の修正でもしとくか…
あ!
そういや、エレオノーラ様のステータスってどうなってんだろ?
スラッシュはスキルを発動させたまま隣にいたエレオノーラを見る。
【警告】鑑定不可!
え?!
なにこれ?!
「どうしたのじゃ?我が君よ。
我の顔に何か付いておるのか?
…それとも、我に見惚れておったのかのぅ?」
「あ、いや、別になんでもないっす!
…ていうか…
もう終わったみたいだぞ」
スラッシュが庭先に目をやる。
すると、自分たちの仕事を終えたのであろう3人が彼らのいる玄関先に向かってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます