第19話 惨劇

-今朝 屋敷内の寝室-




…っと…

ちょっとリアと喋り過ぎたかも…

さすがに、そろそろアリシアちゃんが残りの2人を連れてここに戻ってきてもいい頃だよな。

今のうちに、突然何かが起こったとしても、なんとかなりそうな程度にはステータス値を上げておくか。



スラッシュは目の前に映しだされている画面の中に表示されている設定というボタンをタップする。



とりあえずは攻撃力と防御力あたりだよな。

え~っと…

上限値は9999か…

てか、初期設定値低っ!

ステータスオール10って弱過ぎだろ!

まぁ、あれか…

一応はオレ、この世界の管理者で不老不死ってことになってるから、そんなの必要ないって感じなんだろうな。

だが断る!!!

オレは確かに異世界ものが好きだが、まったり系スローライフよりも、俺TUEEE系のバトルもののほうが好きだからだ!

…あ!でも…

アニメとか見てる分にはいいけど…よくよく考えてみれば、実際に体験するとなると自分だけが強過ぎててもなんか面白くなさそう…

ていうか、そもそもの話、平和ボケした日本でずっと暮らしてきたわけだし…

いくら死なないからって、バトルになるような厄介ごとに自分から首を突っ込みたくはないよな…

それに、さっきのリアの話だと、あまり目立ってしまうと、他の世界から来た奴らにバレてヤバいことになるかもしれないし。

…ここは無難に平均よりもちょっと強いくらいの6000にしておくか。

もし何かあったらMAXにすればいいだけの話だし。




-シエルスの町 冒険者ギルド-




「クフフ…

さすがは我が君、我の期待を裏切らぬのぅ…」



エレオノーラは笑いながらそう呟くと、指をパチンと鳴らす。



「シルヴィーよ。

先程、我が君を笑っていた連中は覚えておるか?」


「うん、もちろん覚えてるよー!」


「なら、そやつらをぶっ飛ばしてきても構わぬぞ」


「え、本当にいいのー!

ボク、主がバカにされてたみたいで、すっごく腹が立ってたんだー!」


「ちょっと待って下さい、シルヴィー」


「なに?アリシアー。

やっぱりぶっ飛ばしたらダメなのー?」


「いえ…

ぶっ飛ばすだけでは気が収まりませんので、もう殺しちゃって下さい。

シルヴィーも久しぶりに生肉が食べたいでしょう」


「え?」

「え?」



アリシアの口から出た予想外の発言に、エレオノーラとシルヴィーが反応する。



「確かに私はご主人様が与えてくれた設定が影響してるようで、ヒューマンに対して友好的なのですが…

それと今回の話は別のこと。

あの男は、事もあろうに我々の神であるご主人様に手を挙げたのです。

それは万死に値します。

そして、あの男に同調した者達もまた同罪。

そうは思いませんか?

我が親愛なる信徒たち」


「クフフ…

久方ぶりに我の知っておる本当のアリシアに再会した気分じゃ」


「だねー!

じゃ、そういうことみたいだし!

ボク行ってくるねー!」



あどけない顔で2人にそう告げたシルヴィー。

だがその直後、彼女の目は同一人物だとは思えない程に鋭くなり、先程までは綺麗に整えられていた爪は長く鋭利なものへと変化した。

そして、まるで獣のような四足歩行の体勢になると、目標目掛けて机の上をジャンプしながら移動する。

彼女は突然1人の冒険者の首筋に鋭い牙で噛みつくと、そのままその肉を喰いちぎり貪る。

そしてすぐさま、違うターゲットを見つけると、今度はヒューマンでは決して敵わないという獣人の腕力でその者の骨を粉々に砕いた。

そんな行動にでた彼女を止めようと立ち向かっていった者達もいたが、まるで歯が立たず、その切れ味の良い爪によって肉を切り裂かれ絶命。

その様子を目撃し、決して敵わないと悟った者達は必死で外に向かって逃げようとする。

が、扉の前には紅い目をしたエレオノーラが立ち塞がる。


「ヴァ…ヴァンパイア!!!」


「逃げようとしても無駄じゃ。

万が一、我の隙をついたとて、先程このギルド内全体に障壁の結界魔法を施しておいたからのぅ。

我を倒さぬ限り、外に出ることは不可能。

我が君を愚弄した者には死を。

それ以外の者は、大人しく我が君の沙汰を待つのじゃな」



う~ん…でもなんだろうなぁ…この感じ。

明らかに人を殺してしまったっていう事実には驚いたけど、人を殺してしまったこと自体にはなんの罪悪感もないというか…

感覚的には、虫を殺した時のような感じかなぁ?

それに、なんかさっきからシルヴィーがめちゃくちゃ人を殺してるのを見てるけど、特に何とも思わないんだよなぁ。

なぁ、リア。

なんでだと思う?


<おそらくですが、それはマスターの種族による影響かと>


ああ、あの謎だったアレか…

確かに言葉通りだとするなら、オレって普通の人間じゃないみたいだもんな。

まぁ、それはそうとして…

こいつ本当に弱かったよなぁ。

どうなってんだ?


「鑑定発動」



スラッシュがそう呟くとスキルが発動される。

すると、アドミニストレーター発動時と同様、何もない空間に画面が表示された。


【HP】:0/18



0ってことは、やっぱり死んでるのは確かみたいだけど…

弱っ!

最大HPが18って。

他のステータスは…

…なるほど、そりゃ弱いわけだ。

こいつのステータスで20超えてるもの何も無いじゃん。


「鑑定解除」


それにしても…派手にやってくれたなぁ…



スキルを解除したスラッシュがギルド内を見回す。

大半の冒険者達は既に息絶えており、彼らから流れ出ている大量の血と酒や料理が一面に散乱しており、酷い有様であった。



「主ー!

ボクねー、さっき主のことをバカにした人達がいたから、お仕置きしておいたよー」



スラッシュの前にやって来たシルヴィーは、大きくてフサフサした尻尾を左右に振りながら満面の笑みでそう伝える。



う~ん…やってることは大量の猟奇殺人だし、人を殺してこんなに嬉しそうにしてるとか、明らかにサイコパスだって思う気持ちもあるにはあるんだけど…

ただ、シルヴィーが悪いことをしたってオレも全然思わないんだよなぁ。

むしろ逆に、よくやってくれた、っていうか…

それに、なんだか褒めて欲しそうな感じだし。

そもそも、シルヴィーはオレが愛でてた子だものな。

それなら、ちゃんと可愛がってあげないと。



「そっかそっか。

ありがとな、偉いぞ、シルヴィー」



スラッシュがシルヴィーの頭をわしゃわしゃと撫でると、彼女はとても嬉しそうな顔をしながら彼に甘える。

一方、そんな和やかな場面とは対照的に、生存しているヒューマン達は怯えきった表情で彼らの様子を窺っていた。

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