第17話 冒険者ギルド
【冒険者ギルド】
元々は商人たちが結成した商業組合。
この世界には魔物が存在するため、本来の役割は商品輸送時などに同行する護衛の手配である。
冒険者という名が付いているのは過去の名残。
出資元が商人のため、当時は未開拓の地、或いは未知なる物などを先んじて入手・独占し、利益を得るために彼らを派遣したことに始まる。
簡単に言えば、フロンティア開拓要員であり、彼らには発見した情報やモノなどに応じて、それに相当する価値の額を報酬として与えていた。
そして、この制度は、彼ら冒険者にとっては夢のような一攫千金のチャンスであり、双方互いの需要と供給のバランスから大陸全土に「冒険者ギルド」という名で広まることとなる。
それから時が流れ、今となってはフロンティアもほぼ消滅し、現在では、いわゆる「何でも屋」のような扱いとなっている。
なので、昔のようにギルドと直接雇用契約を結んだり、長期契約を交わしている冒険者は非常に少ない。
基本的には、ギルドに持ち込まれた依頼を冒険者たちに斡旋する場所となっており、報酬も出来高制のため安定した収入を得ることは難しい。
そのため、冒険者というのは、いわゆる日雇い労働者のような職業であり、また、魔物を相手にする依頼が大半なため、腕っぷしが強く気性が荒い者が多いということも相まって、社会的ステータスは高くない。
うわぇ~…めっちゃオレのこと睨んでるよ…
しかも、あいつら以外にも、まだ昼間だってのに普通に酒飲んで酔っ払ってるやつまでいるし…
スラッシュの正面の先には受付らしき女性がいるカウンターが設置されていた。
だが、その場所以外の空間の大半がまるで居酒屋のような造りとなっている。
「クフフ…
ギルド内は言わばならず者の巣窟。
ここで起きたことに関しては、聖騎士達も滅多に出張っては来ぬ様子。
…さて、我が君よ。
ここで何をするつもりじゃ?」
え?なに?
エレオノーラ様…もっすごい悪そうな顔しながら聞いてくるじゃん…
「なにって言われてもなぁ…
普通に冒険者登録でもしとこうかなって」
「それだけか?」
「え?
それだけだけど」
「なんじゃ…つまらんのぅ…」
いやいや!
何を期待してたんだよ!
「ちなみにじゃが、我が君よ。
我は冒険者なぞに興味はないからパスじゃ」
「え?そうなの?
じゃ、アリシアとシルヴィーは?」
「えっと…ご主人様が登録しろと仰るのでしたら…」
「あ、いや…別に無理して登録なんてしなくていいよ。
で、シルヴィーは?」
「冒険楽しそー!
主と一緒に冒険するー!」
「そっかそっか、オッケー!」
って、獣人ってギルドに登録できるのか?
そもそも一応は奴隷っていう設定だしな。
ま、受付で聞いてみるだけ聞いてみよ。
「じゃ、サクッと登録だけしてくるから、みんなはそこらへんの空いてる席にでも座って待ってて」
スラッシュは彼女たちにそう告げると、1人で正面にある受付カウンターへと向かう。
が、その途中、先程アリシアに絡んでいた男達の中の1人が席を立ちあがり彼の間近まで詰め寄ってきた。
うわぁ~マジか~
めっちゃ顔と顔がぶつかりそうなくらい近い距離でガン飛ばしてきてるじゃん…
おまえは昭和のヤンキーかよ!
そんな粋がるような年でもないだろ…
あ~めんどくさ…
こういうのは無視するのが一番だな、うん!
「あの…いらっしゃいませ…
えっと…初めての方…でよろしいですよね…」
受付の女性はスラッシュに尋ねる。
彼女がたどたどしい口調になっている原因は、明らかに彼の真横でガンを飛ばし続けている男である。
「エレノアー、あいつ主にケンカ売ってるー!
ぶっ飛ばしてきてもいい?」
「さすがに、ぶっ飛ばすのはどうかと思いますけど…
ねぇ、エレノアさん、私たちが止めに入ったほうがいいんじゃ?」
「クフフ…
いや、このまま様子を見ようではないか?
我が君があれにどう対応するのか、見物ではないか」
「はい。
実際にギルドに来るのは初めてなので、どういった仕組みなのか?があまり良くわかってないんですけど。
とりあえず、どうすれば冒険者登録ってできますか?」
「…え?
…登録…でしょうか?
依頼ではなくて?」
「ワハハハハハ!
おい、みんな~!
こいつ、冒険者登録をしに来ただとよー!」
スラッシュの隣でケンカを売っていた男は、受付でのやり取りを聞き彼をバカにする。
その大声を聞いた他の冒険者達も、男に同意するかのように爆笑したり失笑する者達が大半であった。
だが一方、当人であるスラッシュはキョトンとした顔をしている。
「あの~お姉さん、すみません。
なんで、みんな笑ってるんですか?
オレ、何かおかしなこと言いました?」
「いえ、冒険者登録はどなたでもできますので、おかしなことは何も言ってませんよ。
ただ、ここは辺境の地ということもあって、魔物討伐などの依頼が大半を占めますから…
その…あなたのような身なりも良くてスラっとした方はほとんどいませんし、武器等の類を何も装備されていないからだと思います」
受付の女性は他の冒険者達とは違い、彼をバカにすることなく真面目に答えていた。
「あ~、そっか。
そういえば、朝、鏡を見たけど、オレの見た目って確かに弱そうだったもんな…」
「あ~?
弱そうに見えるだ~?
おめぇは弱ぇんだよ!
きっと俺様の足元にも及ばねぇはずだ!
ワハハハハハ!」
男が大声で笑うと、先程と同じようにギルド内のあちこちから笑い声が聞こえてきた。
中身おっさんだから、大人の対応をしてきたつもりだけど…
さすがにちょっとイラっとしてきたぞ…
「う~ん…
もしかしたら今の状態は弱いのかもしれないけどさぁ…
少なくともあんたよりかは強いと思うんだよなぁ」
「あ?
お前、今なんて言った?
そんな華奢な体で俺様より強いだと?」
「ちゃんと聞こえてるじゃん。
それと、人を見た目だけで判断してたら、いつか痛い目に遭うからやめといた方がいいと思うぞ」
「っ!!!
てめぇ!!
俺様を舐めてんのか?!
ぶっ殺す!」
男が叫ぶと同時に、その太い右腕から繰り出された拳がスラッシュの顔面に直撃した。
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