第13話 シエルスの状況

-1年前 大精霊の森-




「ねぇーアリシアー、まだ着かないのー?」


「あともう少しです。

あそこに見える大きな樹まで行けば、そこから村まで繋がってる獣道があるはずですから」


「それはそうと…結構距離を詰めてきおったな…

シルヴィー、お主も気付いているのであろう?」


「もちろんだよ。

やっぱり敵なのかなー?」


「え?!

2人とも何の話をしてるんですか?」


「…という話をしておるうちに囲まれてしまったようじゃぞ」



「これは意外だな。

私達が尾行していたのに気付いていたのか。

鼻が利く獣は別として、ヒューマンの小娘にしては大したものだ」



3人の会話に入ってきたのは、近くの木の上から飛び降りてきた女性。

アリシアと同じ形の耳をしているが、その肌の色は褐色。

いわゆるダークエルフと呼ばれる存在であった。



「貴様に褒められても微塵も嬉しくはないがのぅ。

…して、我らに何の用じゃ?」


「それはこちらのほうが聞きたい。

ホワイトエルフがいるから様子を窺っていたが、基本的にこの森に近づく他種族は排除の対象。

お前たちの目的は何だ?」



その言葉を聞き、アリシアが答える。



「そんなルール、聞いたことありません。

ドワーフや魔族なら、まだ話はわかりますけど」


「…私には、おまえが言っていることのほうがわからない。

そもそも敵対関係にあるヒューマンや、野蛮な獣人と共に行動している時点で理解不能だがな」


「敵対関係?!

それって、どういうことですか?!」


「どういうことですか…って…どうもこうもないだろうに。

本気で言っているのか?

もうかれこれ100年以上、エルフとヒューマンは争ってきたというのに。

まぁ、ここ10数年ほどは王国側がなぜか大人しくなったおかげで今は膠着状態ではあるが」


「なるほどのぅ。

じゃから、木の陰に潜んでおる者達も我らに狙いを定めてはおるが、襲っては来なんだ、というわけか」


「その通りだ。

明らかに武装した侵略者ならともかく、森の中で迷っている可能性がある丸腰のヒューマンをこちら側から襲ったとなれば、再び大きな争いの火種になりかねないからな。

それに、同胞であるホワイトエルフも一緒にいるとなれば、猶更迂闊に攻撃なんてできん。

それで…改めて問うが、おまえたちの目的は何だ?」


………

……




-時は戻り シエルスの町-



なぁ、リア。

ここって、一度死んだ人間でも、それこそゲームみたいに蘇ることができる世界なのか?


<それはあり得ません。

ゲームの要素が組み込まれている世界ではありますが、ここはゲームではなく現実の世界。

ルールから外れるような事象はヴァンパイアの眷属の話でもあったように世界が拒むはずです。

ですが、アリシアの話がもしも事実であるなら、考えられる可能性は…>


他の世界からやって来たっていう侵入者の仕業か、もしくはそのことによって生じている世界の歪の影響…か。


「う~ん…

わからないことが多すぎるから、とりあえず勇者の復活とか難しい話は置いといて…

まずはやっぱり、この世界がオレの知ってる世界とどう違ってて、どんな感じになってるのか?を知るところから始めなきゃね」


「確かにそれもそうですね、ご主人様」



スラッシュは大通りの左右に建ち並んでいる小洒落た西洋風の建物や民家を興味津々な顔で見ながら歩いていた。

だが、しばらくすると少しずつ雰囲気が変わる。

人通りも徐々に増え、ちらほらと屋台や出店のようなものが彼の視界に入ってきた。



てか、実際の異世界ってすげぇな…

一般の人たちに紛れて、普通に剣とか腰にぶらさげてる冒険者っぽいのが町を闊歩してるとか…

日本だったら銃刀法違反で即御用だぞ!

というよりも、海外でも拳銃を周りに見せつけながら町歩いてるやついねぇだろ…

もし、いたとしても、絶対にヤベーやつだろうな…

って考えると、この町はどうやって治安を維持してんだ?

とか思ったけど、よく考えてみりゃ、昔の日本だって普通に武士とか侍って帯刀してたし、そんな感じなのかな…


「おお!

ここがこの町の中央か!」



考え事をしながら歩いていた彼の目に飛び込んできたのは、大きな噴水。

その周りにはベンチなども用意されており、いわゆる憩いの場と呼ばれるような大きな広場となっていた。



「ん?

ねぇ、アリシアちゃん。

もしかしてだけど、あれってまさか…?」


「はい。

この町にあるルーデシアの教会です」


「え?

でも、オレの中でのリストリアは無宗教…というか、宗教は絡めてなかったはずなんだけど…

これも世界の歪の影響ってやつか…」


「おそらくはそうじゃろうな。

この大陸にあるヒューマンの国家には数多の教会が存在するようでのぅ。

つまり、この世界に住むヒューマンの大多数はルーデシアの信者というわけじゃ。

故に、我が君の作中では他種族に寛容であった王国もヒューマン至上主義となっておる。

じゃが、無宗教でいられることが許されておるだけ、この国はマシなほうじゃろうて。

…とはいえ、我が眷属となったアルファたちのように他の神を崇める者に対しては容赦無いみたいじゃがのぅ」


ルーデシアの影響力が半端ないな。

これが全種族に寛容な宗教ならまだしも、このままだと異種族間での対立が深まって、世界大戦じゃないけど、この世界が滅んでしまう可能性があるんじゃないか?


「…てかさ、エレオノーラ様」


「なんじゃ?」


「今、メイド長のことをアルファって名前で呼んでなかった?

ヴァンパイアってあまり眷属の名前とかに興味がないみたいな感じじゃなかったっけ?」


「確かに今まではそうじゃったが、我が愛しの君が与えた名じゃ。

我らの子をその名で呼ぶのは当然であろう」



ん???

今しれっと、エレオノーラ様に告白されたような気が…

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