第10話 メイドたち

ドアをノックする音が聞こえ、一拍置いたタイミングで食堂の扉が開かれた。

部屋の中に入ってきたのは1人の女性。

メイド服を着てはいるが、それはいわゆる一般的なものであり、アリシアが身に着けているものとは全く異なるデザインをしている。



「お呼びでしょうか、マイレディー」


「ふむ。

これからシルヴィーも連れて外に出ようかと思うてな」


「かしこまりました」



エレオノーラと簡単なやり取りをすると、彼女は自分がすべきことを察したかのように一礼をして部屋から出ていった。



「エレオノーラ様のことをマイレディーって言うってことは…

もしかして、彼女がさっき言ってた眷属か?」


「そうじゃ、まぁ、あやつだけではないがのぅ。

この屋敷の管理や、身の回りのことは全てあやつらに任せておる」


「なるほどね…

って!

エレオノーラ様の眷属にあんな美人でクールっぽいお姉さんキャラなんていたっけ?!」


「いや、我が君の作品の中では登場しておらぬ。

まぁ、それはメイド長であるあやつだけではないがのぅ。

この町…いや、世界中で暮らしておる者たちもまた同様であろう」


「…それってつまり、オレの知らないキャラクターが五万といるってことか…」


「左様。

しかも、我らのように我が君が設定した性格などをベースとしておらぬ存在がな。

世界観は創作物が元となっておるみたいじゃが、我らのように作中に登場する人物以外は、以前の世界と同じく、そなたにとっては全く見知らぬ赤の他人。

何を考え、いつどこで何をするのか?など知る由もないということよ」


おいおい…そんな状態で、この世界を管理しろってか?

でも…まぁ、よく考えてみれば、普通によくある異世界転生ものみたいな感じか。

世界の管理者って言っても、全部が全部思い通りにできても面白くないものな。

それに、そもそも神でもコンピュータでもないオレに、そんな膨大な数や量を個々に管理するなんて到底無理なことだろう。

ん?

…オレはこの世界に面白さを期待しているのか…?


「それはそうと、さっきメイド長って呼んでたのは、何者?

エレオノーラ様の眷属だってことはわかったけど…

一見、一応は人間ぽかったけど、あと名前とかは?」



スラッシュの問いに答えたのはアリシアであった。



「丁度1年前、私たちが大精霊の森の中を移動していた時です。

偶然、メイド長たちが聖騎士団に襲われているところに出くわして、それがきっかけで今に至ります」


「ごめん、アリシアちゃん。

ちょっと話を端折り過ぎててイマイチ理解できないんだけど…」


「あ、申し訳ございません。

えっとですね…

何から話したらいいんだろ…

あ、さっき感覚で魔法が使えるって言ったのを覚えていますか?

それと同じように、あの森の中がどうなっているのか?がわかってしまったんです。

多分ですけど、ご主人様の創作されていた世界の中では、18の歳になるまで私はあの森の中で暮らしてたことが影響してるんじゃないかな…と思っています」


なんだか、ややこしいな…

今ここにいるアリシアちゃんの魂は前世にいた時に誕生してて…、オレと同じような転生者ってことになるんだよな。

でも、その体は今のこの世界に予め用意されていたもの?になるのか。

それも、オレの作品の影響を色濃く受けてる…

てことは、何か?

魂は転生者でありながら、肉体はこの世界のものだから、なんとなくわかってしまう…

ってことでいいんだろうか?


「う~ん…ま、いいや。

それで?」


「はい。

この町に来る途中、彼女たちが聖騎士団に襲われていたんです。

これは後で聞いた話なんですが、彼女たちは大精霊の森の近くにある村に住んでいた普通のヒューマンで、昔から精霊を信仰しているそうなんです」


「あ~なるほどね。

なんとなく見えてきた。

ひょっとして、異教徒に対してなら何をしてもいい、みたいな考えの連中がメイド長たちを襲ってたから助けた…って感じかな?」


「聖騎士団に関してはそうなんですが…

実は、結果的に助けることになってしまった…とでも言いましょうか…」


「ん?どゆこと?」


「あやつら、アリシアを見るなりこちらに襲い掛かってきおったので、我が返り討ちにしてやったのじゃ。

まぁ丁度、実際に魔法とやらも使ってみたいと思っておったからのぅ」


「ねぇ主ー!

エレノアの魔法凄かったんだよー!」


まぁ、そりゃそうだろうな。

なんたってエレオノーラ様は、オレが作った世界の中じゃ、5本の指に入るくらいの強者だからな…


「でも、なんで急にアリシアちゃんを見て、こっちに攻撃を仕掛けてきたんだ?

そもそもは、メイド長たちを襲ってたんだよね?」


「エルフとは精霊。

やつらにとっては、異教徒の信仰対象じゃからのぅ。

しかも、ルーデシアはヒューマン至上主義を掲げとるんじゃ。

その聖騎士を名乗るのであれば、ある意味、それは当然の行動じゃろうて」


「なるほどね…

そこまではわかったけど、なんで彼女…というか、メイド長以外にもメイドがいるようだから彼女たちになるのか。

が、エレオノーラ様の眷属に?」


「エレノアさんが倒したのは、聖騎士団の追っ手だったんです。

メイド長の村は騎士団の武力によって壊滅させられ、そこから命からがらに逃げてきたところだったそうです」


「そこで事情を聴いた後、我が提案したのじゃ。

我の眷属にならぬか?とな。

まぁ、帰る場所も行く当てもない彼女らに選択肢は無かったのかもしれぬが。

じゃが、我の力の一端を得ることができる上、信仰対象であるエルフも我の友。

なかなかに良い条件ではないか。

こちらとしても、この世界の情報を得ることができようし、世話係も欲しかったからのぅ」


…なんとなくだけど…

エレオノーラ様は、とりあえず身の周りを世話してくれる眷属が欲しかった、というのが一番の理由な気がしないでもない…



おそらくこの推測は正しい。

なぜなら、スラッシュがエレオノーラという存在を生み出したからである。

そして、彼がそのようなことを考えていると、再びドアをノックする音が聞こえてきた。

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