第9話 神聖ルーデシア

「アリシアよ、今日は何年の何月何日じゃ?」



スラッシュと会話をしていたはずだったエレオノーラが、唐突にアリシアに尋ねる。

すると、彼女は一瞬だけ躊躇ったような表情を見せたが、すぐに答えた。



「…今日は神聖歴667年の6月6日です」



「は?

…えっ?!

神聖歴???

しかも、667年って…

この世界って、オレの創作物を元にして創られてるんじゃなかったのか?」


「そなたが驚くのも無理はない。

我らも最初に知った時は驚愕したからのぅ。

じゃから先刻、世界規模だと言ったであろう」


「たしかにそうは言ってたけど…」


「ご主人様の小説だと、物語が始まるのはイース歴777年。

主人公であるアリオス・グランベインが生まれた年でしたよね」


「そうだけど…

暦からして違うって…

ここって本当にオレが書いてたラノベの内容とかに近い世界なのか?」


「近いかどうか?という問題はさておき、この世界が我が君の創作物に影響されて構成されているのは間違いないじゃろう。

我らが初めてこの世界で目覚めた場所は、大精霊の森の中にある湖のほとり。

そこがフリーデン王国領であることはすでに確認しておる」


「じゃあ、ここはトラキア大陸で、7つの大国でできてるっていう設定は合ってるんだな」


「違うよー、主。

この世界はねー、8つの国に分かれてるんだよー」



これまで、ほとんど会話に入ってこなかったシルヴィーがスラッシュに対し得意げにそう告げる。

元々獣人というのは、そこまで賢くないという設定にしていたことが影響しているのか?

それとも、まだ幼い状態ということが影響しているのか?

とにかく、彼女は難しい話が苦手なのである。



「8つって!

1つ増えてるじゃん!」


「そうなんです。

ご主人様の知っておられる7つの大国に加え、もう1つの国が大陸の中心に存在します。

それが神聖ルーデシア。

一応、正式な国と認められているわけではありませんが、実質は1つの国家として機能していますし、この世界の人々もそういう認識です」


「神聖って…」


「我が君が思うておる通りじゃ。

この世界ではルーデシアが人類の覇権を握っておる状況。

であるからして、それを示すかのように暦の名称が神聖となっておる」


「なるほど…

オレの知らない国が存在する世界か…

ん?

だとすると…

ちょっと聞きたいんだけど。

大陸の中心にもう1つの国があるってことは、地形的にも変わってるってことか?」


「いや、地形自体は変わっておらぬ。

この世界の文献によると、6つの大国がそれぞれに領土を割譲して成立したのが始まりとなっておったからのぅ。

要は、国境線が変化しただけじゃ」


「そっか…

てか、6つの国って言ったよな。

てことは、そのルーデシアに土地を譲らなかった国があるってことか?

いや…まぁでも、そんな国なんて1つしかないか…」


「クフフ…

さすがは創造主、我が告げるまでもなかったようじゃな」


「…まぁ、エレオノーラ様の言うとおり、世界規模でオレの知ってる世界とは様変わり…と言っていいのか?はわからないけど、変化してるってのはわかった。

でもさ、それがなんでオレにとって都合が良いものとは限らないんだ?」


「それはその教義にあるんです!

彼らはヒューマン至上主義を掲げているんです!」



アリシアが憤った様子でスラッシュに告げる。



教義かぁ…

神聖って名前が付いてるくらいだから、宗教が絡んでるとは思ってたけど…


「まぁまぁ、アリシアちゃん、落ち着いて…」


「あっ、申し訳ありません」


「てかさ、アリシアちゃんがそこまで怒るってことは、ヒューマン以外の種族は、例えば迫害を受けているとか?そういった感じなのか?」


「それは国によって度合いが異なるが、大体はそんなところじゃ。

決して良い待遇をされているとは言えぬな」


なんだって!

許すまじ、ルーデシア!

せっかく異世界転生したってのに!

オレの大好物の獣人やエルフ、その他諸々も存在するであろう愛でるべき種族を迫害するとは!

てか、そもそもオレの構想にすらなかった宗教国家の分際で何勝手なことしてくれてんだよ!


「もしかして、アリシアちゃんがエルフ耳を魔法でヒューマンっぽくして隠してたのって、それが理由?」


「はい、そのほうが何かと便利ですので」


「我が君よ、1つ提案なのじゃが。

百聞は一見に如かずというであろう。

食後の散歩がてら、町の様子を見ながら話を続けるというのはどうじゃ?」


それもそうだな。

まだ外の様子がどうなってるかもわからない状況だし。

それに、ここでこのまま話だけ聞いてたら、それだけで1日が終わってしまいそうだしな。


「確かに、それは名案だね。

そうしよう」



スラッシュがそう答えると、エレオノーラはパン!と大きな音を立てて手を打った。

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