第8話 魔法
「なるほどのぅ…」
スラッシュが説明を終え、エレオノーラがそう呟くと彼女の瞳は元の紫色へと戻る。
そして、その様子を見て、彼だけではなくアリシアとシルヴィーも安堵したような表情を浮かべた。
だが、それ以降、各々考えるところがあったようで、しばらくの間沈黙が続く。
「あの…
先程のご主人様の話だと、ここはご主人様の作った世界ではあるけれど、全てがそうじゃない
…ってことでいいんですよね?」
「オレに聞かれてもよくわからないんだけど、リアから聞いた話だと、そういうことになるかな。
そもそも、異世界に転生したって言われても、まだこの家の中だけしか見ていないから、あまりピンと来ないけど」
「そうですよね…失礼しました。
でも、なんだか納得できた気分です。
だから、全く知らない魔法なのに、私には使うことができるんですね…」
「そういえば、アリシアもエレノアもボクの知らない魔法、いっぱい使ってるよね。
ボク、元々は魔法が使えないから、よくわかんないけど。
…主~!
ボクも魔法使いたい~!」
魔法が使えるようになりたいと駄々をこねるシルヴィー。
「いや、オレにそんなこと言われてもなぁ…」
【シルヴィア・エーベルヴァイン】
獣人族。
シルヴィーという名は幼少期の愛称。
この世界での獣人たちは基本的にファーストネームしか持たないのだが、彼女の場合は後にエーベルヴァインの姓を与えられることになる。
容姿は、気持ち青みがかった白い毛を持ち、犬のような獣耳と大きな尻尾が特徴。
性格が非常に人懐っこいため、とある事件をきっかけに主人公と行動を共にするようになるのだが、ある日の戦闘で瀕死の状態に陥る。
その際、自身の中に眠っていた力が覚醒し、一気に大人に近い状態にまで進化した。
外見や性格から、本人だけではなく主人公も犬の獣人だと思っていたが、実は神獣フェンリルの血を引いている狼の獣人。
覚醒後は、魔法剣士として活躍し、リストリア王国の近衛騎士団長となる。
ん?
てか、魔法剣士なのに、シルヴィーだけが魔法が使えないのは、やっぱりまだ覚醒してない状態だからだよなぁ…
多分…
「まぁ心配しなくても、きっと大人になったら魔法が使えるようになる…はずだよ」
さすがに「一回、死にかけてみたら」なんて、とても言えない!
「…それよりも、アリシア。
全く知らない魔法が使えるって、どういうこと?」
「そのことについてなのですが…
どう説明すれば良いのか…
…なんとなくですが、こういう魔法、私使えるはずって感覚でわかってしまうんです。
それで、使おうとすると自分でもわからない言語での詠唱が無意識に口から出てしまいます」
「ああ、さっきの時もそうだったね。
耳を人間に耳に変化させてたのって魔法の力だよね」
てか、解除する時にも詠唱が必要なのか…
オレのスキルが、声に出さないと発動や解除ができないのと一緒みたいだな。
「はい。
それで、なのですが…
ご主人様はさっき私が使っていた魔法や言語のことはご存じないのですよね。
前世でのご主人様の創作物は全て目にしていたはずですが、全く記憶にはないもので…」
「そうだね、オレも初めて聞いた言葉だったし、そんな魔法を設定した記憶はないかなぁ」
「我が君よ。
それはつまり、形として物にする以前に頭の中で考えていた、ということもないとわけじゃな?」
「そうなるね」
「なるほどのぅ…
我が君よ」
「ん?
どうしたんだよ、そんな真面目な顔して」
「いや…
この世界は、我が君の創作物を元にして創られた世界だというのは、この1年程ここで暮らしてきた我らも理解はできておる。
が、必ずしもそなたにとって都合の良い世界ではないかもしれぬ、ということじゃ」
「どういう意味だよ?」
「そうじゃのぅ…
我らもまた我が君と同じ転生者ということになる。
つまり、我らも創作物の内容を知っておるということじゃ。
先刻会話をしていたシルヴィーの件を例に出すと、我らは3人とも彼女が瀕死になれば覚醒し、魔法が使えるようになると思っておったのじゃ」
「思っておった…
って、なんで過去形?
おいおい、まさか!」
「ああ、察しの通りじゃ。
あまりにもシルヴィーが魔法が使いたいと喚くのが鬱陶しかったのでのぅ…
一度半殺しにしてやったが、何も変わらなんだ」
あんた鬼かよ!
…てか、元々のエレオノーラ様の設定は、魔王軍の幹部だったか…
「つまり、オレたち転生者は、必ずしもストーリーや設定通りの展開にはならない、ってことが言いたいのか?」
「それもある。
じゃが、我が言いたいのは、もっと世界規模でのことよ」
世界規模って…
何だか話が大きくなってきたな…
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