第7話 矛盾
「さて、我が君よ。
そなたは、この世界でどのように立ち振る舞うつもりなのじゃ?」
皆で紅茶を飲みながら、まったりとした時間が流れる中、女は落ち着いた口調でスラッシュにそんな質問を投げかけた。
食後ということでリラックスしていたアリシアとシルヴィーだったが、その言葉を耳にし彼女の顔を見た途端に姿勢を正す。
それはスラッシュも同じであった。
場に緊張が走る。
なぜなら、先程までは紫色をしていた彼女の瞳が紅く光っていたからだ。
【エレノア・マキャヴェリ】
種族はヴァンパイア。
真名はエレオノーラである。
年齢不詳、文献から考えると500年以上は生きていると思われるが、その外見は黒髪に紫の目をした美少女。
ただし、何かに対して真剣になる、或いは過剰に集中した時などには、その瞳の色が紅く光る。
普通、その見た目からは考えられないが、実は魔王軍四天王の一角である。
物理的な攻撃力や防御力は他の四天王よりも劣るが、それらを補うことができる程の、高速再生や眷属召喚などといった能力を有している。
また、非常に頭の回転が速く賢いため、魔王の右腕として参謀の役割も担う。
そのため、四天王最強、魔王に次ぐ存在、として世界の人々から恐れられている。
というのが、スラッシュが前世で設定した彼女の概要である。
ここは真面目に答えないと…
この世界が本当にオレが作ったラノベやゲームを元にしてできているなら、エレオノーラ様は超弩級にヤバい存在だからな…
って…あれ??
確かにフィギュアを作って、そのエレオノーラ様を愛でてはいたけど…
なんで魔王軍幹部のはずのエレオノーラ様がオレのことを「我が君」なんて呼んでるんだ?
てか、そもそもこの世界じゃ魔王に仕えてないのか?
ストーリー上でも、主人公の仲間にはならないはずなのに…
それに、よく考えてみれば、あとの2人も…
「今のところは、まだ決めてない。
さっき起きたところだし。
それに、この世界に来てから、まだこの家の中しか見てないからね。
とりあえずは、町…でいいのかな?
外がどうなってるのか?とか、ある程度のことを把握してから決めようと思ってる」
スラッシュはエレオノーラの問いに対して、そう返答した。
が、その紅い瞳は彼の顔に向いたままで、何の反応も示さない。
おそらくだが、彼女は彼の口から今とは違う答えが出てくるのを待っているのだろう。
リアさ~ん、聞こえますか~?
<はい、お呼びでしょうか、マスター>
あのさ、エレオノーラ様がめちゃくちゃ怖いんだけど…
<彼女は設定上、非常に頭の切れる人物でしたからね。
マスターが何の目的も持たずに復活したとは考えていないのでしょう>
てことは、オレがこの世界の管理者とか、他の世界からの侵入者がいるってことに気付いてるってことか?
<いえ、それはないと判断します。
ですが、前世において、器から抜け出しマスターの創作物を見ていたはずです>
マジで?
人形に宿った魂って、そんなこともできちゃうの?
…って!
だから、アリシアちゃんはオレがPCに保存していたエロ画像がどこにあるのか知ってたのか!
<マスター、よろしいでしょうか?>
あ、ごめんごめん…
<つまり、先程マスターが考えていたように、今現実にあるこの世界と、前世で見ていた創作物の中にあった世界との間には矛盾が生じています。
ですので、その原因を知り得ることができるような何かしらの答えを待っているのでしょう>
って言われてもなぁ…
そんなのオレが知りたいくらいだよ…
ん?
リアはなんでこんな状況になってるのか、知ってるの?
<残念ながら私にも理解できません。
神の御業と世界の歪が影響しているとは推測できますが>
そっか…
結局謎だらけなんだな。
で、話戻るけどさ…
オレはエレオノーラ様に何て答えたらいいんだよ~
<マスターがこの世界の創造主兼管理者であり、他世界からの侵入者の影響もあり、世界に歪が生じていることなどを正直に話をされてみてはいかがでしょうか?
彼女は才女ですので、マスターの置かれている状況も汲み取ってくれるかと>
そりゃ、正直に話してもいいんだったら、そうしてみるけど。
でも、リアの存在とかバレたらマズいんだろ?
<別に構いません>
え?
そなの?
<はい。
彼女たちは前世のマスターが生み出した存在。
私は女神様によってマスターの中に生み出された存在。
どちらもマスターに関係する特殊な存在ですので、特に問題は生じないと判断します>
そっか。
なら、今から正直に話してみるよ。
ありがとう、リア。
<礼には及びません。
マスターを補佐することが私の役目ですので。
また、いつでもお声を掛けて下さい>
「えっと、エレオノーラ様。
もしかすると、信じてもらえないかもしれないけど…」
スラッシュはそう切り出すと、自身の能力やリアの存在、そして、これまでにリアから聞いていた情報を全て正直に彼女たちに伝えた。
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