第5話 命名
名前かぁ…
この流れだと、今から入力する文字が、きっとこの世界でのオレの名前になるんだろうな。
<その通りです>
だよな。
…今までの話を聞いた限りだと、オレってこの世界じゃかなり重要な存在だろうし、せっかくの異世界転生だ。
ベタな名前はやめておこう。
そうだな…例えば、デルタとかゼータとか?
名前の響きとかカッコイイし。
でも、なんかサブキャラっぽい感じがするし、ラノベの世界じゃ結構ありふれた名前だよなぁ…
「よし!決めた!」
男は声に出してそう言うと、自分の胸元辺りに表示されていたキーボードの映像に触れる。
何も無い空間のはずなのに、彼がタッチしたキーの部分は青白く光る。
と同時に、電子音のような音が鳴った。
なんだか違和感が凄いな…
物質に触れてるわけじゃないから、指がそのまま下の方にすり抜けていく。
だけど、これも慣れだろうな。
「これで、よし!」
男が新たな自分の名を入力し終えると、映像が切り替わり、キーボードは消えてしまった。
今度はまるでタッチパネルをタップするような画面となる。
彼は頭の中で会話をしながらも、その視線と指先は常に目の前の映像にあった。
ちょっと聞きたいんだけど…
これって完全にゲームってわけじゃないんだよな?
なんか、ステータス画面みたいなのが出てきたんだけど…
<ゲームではありません。
今、そこに表示されている情報は事実となります。
先程も伝えましたが、この世界はゲームの要素も組み込まれている、というだけの話です>
いやいや…
だとしたら余計にツッコミどころが満載なんだが…
<と、言われますと?>
色々あり過ぎるんだけど、例えばだ!
この
【HP】:∞
ってなんなんだよ!
何かの条件を満たさないと、ダメージが全く与えられないラスボスかよ!
<そうですね。
マスターの言っていることは、あながち間違いではありません>
え???
…どゆこと?
<そこに表示されているように、マスターはこの世界の創造主であり世界の管理者なのです>
確かに
【クラス】:創造主
【称号】:世界の管理者
ってなっているな…
だから、ユニークスキルの名称がアドミニストレーターなのか。
<はい。
ですので、そういった存在であるマスターが、この世界に住まうような一般的な生物と同様、怪我や病、寿命などによって命を落とされては困るということです>
なるほどね…
じゃあ、オレって無敵じゃん!
<残念ながら、必ずしもそうではありません>
いやいや…
さっきから色々と見てるけど、逆にどうやったら、このステータスで死ねるのか聞きたいくらいチートなんだけど…
<現状で考えられるマスターが消滅してしまうパターンというのは2つあります。
まず1つ目が、この世界が崩壊または消滅してしまい、マスターの存在意義が無くなってしまうこと。
2つ目のケースは、マスターが他の世界へ行ってしまうこと、或いは連れ去られてしまうことです>
それって、つまり…
この世界とオレはリンクしているってことか。
だけど、2つ目の連れ去られてしまうってどういうことだよ?
<これから数日もすれば判明すると思いますが、この世界の成り立ちの根源は、前世のマスターによって創造された世界ではありますが、マスターの知っている世界ではありません。
他の世界から何者かが侵入していて、この世界に歪が生じているのです。
その目的が何であるのかは現在のところ不明ですが、仮に、マスターもしくは、この世界の消滅が目的なのであれば、他世界に拉致される可能性も十分に考えられるということです>
なんだか物騒な話だな…
てか、死んで転生したかと思ったら、最初から命狙われてるとかどうなのよ?
<先程の例は、もしもそうだとしたら、という仮説です。
この世界に侵入してきた者たちの目的が別のものであるという可能性も0ではありません。
ですが、用心するに越したことはないかと>
なるほど、確かに…
話を聞きながら、情報を見たり、操作できる場所を探していて発見してしまったんだけど…
今は管理者権限でステータスを化物じみたものにして目立つのは得策じゃないな…
様子を見ながら必要に応じて調整していくか。
<それが良いかと>
そういえば、君とはいつでも会話ができるんだよな?
<はい。
今回はこちらからアプローチしましたが、今後はマスターからの呼びかけがあった場合にのみ対応します>
それは助かる。
考えていること全てに反応されたらどうしようか、とか思ってたんだよ。
それはそうと、名前は?
呼び出す時、どう呼べばいいんだ?
<名前はありません>
マジか!
って、オレもついさっきまで名前が無かったんだよな…
にしても、名無しっていうのはちょっと不便だよな…
今からオレが名前を付けてもいいか?
<構いません>
じゃあ、そうだな…
あ、一応念のため聞いておくけど、声からして…女…でいいんだよな?
<私に性別はありません。
そもそも実体がありませんので。
ですが、私はマスターの中に存在していますので、マスターが女性だと判断されたのであれば、きっと女性に近い存在なのでしょう>
だったら、女ってことにしておく。
名前は…リアに決めた!
<承知しました。
以降、私の名はリアと認識します>
名付けをしてからも、男とリアは会話をしていたが、程なくして部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「アドミニストレーター解除」
男がそう呟くと、それまで見えていた映像が消えた。
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