第3話 手に入れた器

きっとオレはまだ夢の中にいるに違いない。

だって「魂が宿った」とか言われても全然信じられないし。

ただ、まぁ、せっかくだし、現実じゃないってわかってるんだったら、もうちょっと成り行きに任せてみるか。

もしかすると、小説のネタになるような出来事が起こるかもしれないし。



「それはそうと…

キミがオレの作ったフィギュアに魂が宿った存在、つまりアリシアちゃんだってことは…

まぁ、理解したけど…

でも、それだったら、なんで見た目がフィギュアじゃなくて、そんなにリアルなのか?っていう理由については?」


「その件についてなんですが、どう説明したら良いのか…

ふと気付くとフィギュアじゃなく、この体に宿っていたとしか…」


「ん?

ふと気付くと、って…

それって、いつ気が付いたの?」


「そう言えば、ご主人様って、ここ1年ちょっとの記憶が無かったんでしたね。

では、まずそこからお話させて頂きますね」


ん?

1年ちょっとの記憶が無いってどういうことだ?

言っている意味がさっぱりわからないぞ。

まぁ、とにかく聞いてみるとするか。


「えっと~

ご主人様がお亡くなりになられてから2、3か月くらい後だったかなぁ…

地球が滅びてしまったんです」


ちょっと待てぇい!

いきなりツッコミどころが多すぎるんですけど!


「え…オレって死んじゃったの?」


「はい」


「いつ?」


「体調が悪くて3日間会社をお休みになられていたのを覚えていらっしゃいますか?

あの時です」


「マジ?」


「はい。

みんなでご主人様の魂が消滅するのを見ておりましたから、間違いないと思います」


「………えっと…

ちなみにだけど、地球はなんで滅んじゃったのかな?」


「はっきりとした原因は私にもわからないですが、世界大戦が勃発して核ミサイルでも落ちたのではないでしょうか?

私たちが記憶している限りでは、まるで氷河期みたいな感じになっていましたので」


うん!

これは夢だ。

現にこうしてオレにはちゃんと意識があるのだから!

きっとそうに違いない!


「…それで?」


「ほとんどの生命が死滅し、それらの魂も消滅していたのに、なぜかご主人様に作られた私たちの魂だけは地球に存在し続けたんです。

そこで私たちは思いました。

もしかしたら、ご主人様は創造神だったのではないのかと!」


「お、おう…」


なんだか話がとんでもない方向に向きだしているぞ…


「なので、私たちは、神たる存在のご主人様が滅びるはずがない!そう信じました。

であれば、我々の魂が消滅していないのは、きっとこれからは何処かにいらっしゃるご主人様のお役に立つためではないのかと!」


さっきから思ってたけど、アリシアちゃん口調だけじゃなくて、なんだかキャラも変わってきてねぇか…


「なので、我々は必死に祈り続けたのです!

ご主人様のお役に立ちたいと!

そして、ついに私たち信徒の願いは女神様に届き奇跡は起こったのです!」


…ちょっと怖ぇよ…

何の宗教の信者なんだよ…


「あの、アリシアちゃん?

ちょっと力み過ぎてない?」


「あ、申し訳ありません、つい…」


「えっと…

それで、どうなったの?」


「あまりにも必死だったので、何がどうなって、そうなってしまったのか?は全くわからないのですが、私たち3人は今の体を手に入れた状態で湖のほとりに倒れていました」


3人?

てことは、アリシアちゃんみたいな存在が他にあと2人いるってことか…

誰のことなのか?は気になるけど、どうせすぐにわかるだろう。

とにかく今は話の腰を折らないでおこう。


「魂が体に馴染んできた頃、湖の中心に光が浮かびあがり、それがこちらにゆっくりと向かってきたのです。

眩しくてはっきりとは見えなかったのですが、そのシルエットから女性の姿をしているというのはわかりました。

そして、私たちに向かってこう仰られたのです」


「我が子のことを強く信じる者たちよ。

あなた方に最初の試練を与えます。

この子を守り抜きなさい。

今より丁度1年後のこの時、あなた方の主は復活を遂げることになるでしょう」


「そして、私たちは赤ん坊のご主人様をお母様からお預かりして今に至るというわけです」


母親じゃねぇよ!


「てことは、赤ん坊だったオレは、たった1年で中年のおっさんにまで戻ってしまったってことか?」


「中年?

ご主人様、何を言っておられるのですか?」



アリシアは男にそう告げると席を立ち部屋の奥に立てかけてあった姿見を持って戻ってきた。

そして、そこに映しだされた今の自分の姿を見ている男の目は丸く見開いていた。



え?!

これがオレ?!

嘘だろ…

若返ってるじゃねぇかよ!

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