004

 午前11時からお客がちらほら来店し、途切れる事なく、18時を回った。


「ルル、ここから晩飯組が来るぞ」


「解っているにゃー。また今日もお昼の賄い食べそこなったにゃー」


 笑いながら頭に巻いたタオルを巻き直す。このところ毎日昼の賄い食べさせてないな…あいつ等だけじゃなく部下まで連れて来るからなー……


 しかも交代制の勤務だったら食事を取る時間がまちまちになるし、結果お客が途切れる事が無くなるんだよな。そこは嬉しい事だが、別の不満もあるけどもな。


「そう言えばカイトさん、お嬢様と冥王はまだ来ないにゃ?」


「そうだな。つまり晩飯時に来ると言う事だ」


 あいつ等はメイド長の目を盗んで来店するから時間が全く読めない。


 メイド長は城のコックのご飯食べてくれって頼む。雇ったコックの立場もあるからな。たまにならいいけど、毎日はコック涙目になるだろ。


 カランカランと軽い鈴の音。誰か来たと言う事だ。


「いらっしゃいませー……レオンじゃにゃいか。今日は一人なのかにゃ?」


「おう。部下も来たがっていたけど、万が一があると飯が喉を通らないっつうからな。代わりに持ち帰りのギョーザと唐揚げ頼まれた」


 万が一か…今日は確実にそれがあるぞ。


「んじゃご注文承りますにゃ」


「エビワンタンの塩大盛り。んで、肉ギョーザ6つに肉野菜ギョーザが4つ、唐揚げ6人前持ち帰りで頼む」


「ず、ずいぶん頼まれたんだにゃ?」


「本当はラーメン食いたかったらしいが、持ち帰りメニューには無いだろ?」


 汁麺はどうしても持ち帰りが出来ん。させたくないって感情が先にあるが。なのでだ。


「ライオン丸、これ持って行ってくれ」


 チラシを数枚渡す。新メニューのソース焼きそばと塩焼きそばだ。


「これもうまそうだな……」


「これはテイクアウト可能だから、良かったらラーメンの代わりにどうだって言ってくれ。トッピングも選べるぞ。お前の大好きな海鮮もあるし」


「そう言えば、レオンはジンとエビワンタンか肉ワンタンかで喧嘩しそうになったにゃ」


「あの野郎、エビワンタンの旨さを知らねえから教えてやったのに、この俺に肉ワンタンが至高っつったんだぜ?おかしいだろ!?絶対にエビだって!!」


「で、カイトさんに、店で喧嘩すんなぶち殺されてーのか寧ろ死ね俺が殺してやろうか礼はいらねえぞとか言われたにゃ」


 当たり前だ。店で喧嘩されたら営業妨害の他何があるんだ。つうかな……


「エビワンタンも肉ワンタンも俺が作った「いらっしゃいませー」……おいライオン丸、万が一、やっぱあったぞ。今日はまだ来てないから、夕飯だろうと踏んでいたけど、ビンゴだ」


「ああ……おいカイト、注文変更していいか?俺のエビワンタンキャンセルして、この海鮮塩焼きそばのテイクアウトってのにしてくれ。俺もゆっくり飯食いたいから」


 それに快くOKを出す。そして出来上がるまで隅っこで気配を消してじっとしていろと促した。とばっちりが来る可能性が大だからだ。

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