魔女は不敵に微笑む。

RERITO

魔女は不敵に微笑む。


「もう、こんなことやめようよ。アクタ、カツミお姉ちゃん」



「今更何言ってんの。」


「兎を捕まえて、魔女を誘き出す!!そんでもって、魔女に問い詰めるっ!!それができなかったら、肉が取れて一石二鳥だっていう計画だったでしょっ!!ファクは、怖がりなんだからっ!!」



「カツミお姉さん、なんだかんだ言って来てくれたから、ファクは勇気あるよ。」


「でもずっとこの調子じゃ、森の中に入れないって!!」



「大丈夫。私、興奮する薬をお母さんから盗んできた」



「な、なに、その薬...僕飲まないからね」



 草原を歩く三人の影が、松明に揺られてユラユラと伸びる。


 僕は、闇の中からなにかが飛び出してくるんじゃないかと、薬屋の娘 アクタの後ろに隠れる。


 松明を持って、先へと歩いていく女の子は、一昨年に移住してきた騎士の家系の娘のカツミ、陽気で明るくていつもみんなを笑顔にしてくれる。


「薬を飲まされたくなかったら、黙ってついてきてよね。」


「......う、うん。」



 服の裾を握っていた僕は、そっと手を離した。


 なるべく、闇の中を見ないように、松明をじっと見つめていた。そうしてると、自然と落ち着いてくるような気がしたから。


「それにしても、麦が取れなくなるんじゃないか?って本当?」


「うん...お父さんと、お母さんがこっそり話をいるのを聞いたんだ。」



 土の中に、紫と赤の奇妙な石がそこら中に見られた。夜になると、際立って光り輝くらしい。


 もしかしたら、生命力を吸ってるんじゃないか?って話をしていた。


 それが、魔女のせいだって、言ってたんだ。


「パンが食えないなんてありえないっ!絶対許さないわっ!!魔女っ!!」


「カツミお姉さん、落ち着いて」


「で、でも、僕たち、魔女に対抗する力なんてないよ。」


『.........』


「な、なに」


「ファクは、置いていくとするかっ!!」

「うん。そうしよう。ファクは、興奮剤も上げちゃいけない。」


「ちょ、ちょっと、待ってよっ!!」


 僕は、魔女のことはあまりよく知らないけど。


 協会の神父はよく、「 魔女が俺のライバルだ。」とか言って、筋トレを祈りながらしてるし、傭兵たちは不幸なことが起こると魔女の性だっ!!なんてよくささやいてる。


 そんな人たちに、「魔女って、どこにいるんですか?」と聞くと、大抵...村から見える森を指して、あそこだよ。と不敵に笑う。


 ただし、最後には真剣な表情で釘を刺す。絶対に行くんじゃないぞ?と...



 森の中は、虫の声と、時折駆け巡る動物の音が聞こえる。

 空を見上げれば、白く輝く月が浮かび上がっている。

 妙に風が吹き抜ける時の感覚が冴え渡る。


「ちょっとだけ怖いね。幻想的ではあるけどね。」


「なにも見えないし、幻想的もなにも...」


「ファクは、全然分かってないなぁっ!この空気が、いいんじゃん!」


「で、でも...やっぱり、怖いよ。今からでも帰らない?」


「ダメ。ここまで来たら後戻りはできない。」


「大丈夫だよっ!!いざとなったら、私の剣があるからっ!アクタ、この火を持ってて」


「うん。いいよ。」


 カツミは、松明をアクタに渡す。

 いつもの元気な様子とは打って変わって、慎重に脇鞘から剣を引き抜いた。剣を胸の前で構えると、上段から剣を切り下ろす。


「ハッ!!!」


「カッコイイ....ッ。カツミお姉ちゃんすげぇ」


 一度切り下ろしてから、背筋を整えると鞘にしまう。


「これでも、ファクは不安かな?」


「カツミお姉ちゃんは、凄いよ。うん...魔女なんかに、お姉ちゃんが負けるわけない。」


 不安気な表情から、にっこりと微笑む。

 アクタから松明をもらう と再び夜闇に鋭い目線を向けると、歩き出した。


「お姉さん、強い。私も頑張らないと」


「お姉ちゃん強いよな。僕も、あんな風になりたいな。アクタ?どうしたの眉間に眉寄せて」


「ん?ううん、ファクは、気にしなくていいよ。お姉さんに任せよう。」


「.......?」


アクタはカツミ姉ちゃんを僕とは違った憧れで見つめていた。カツミお姉ちゃん、やっぱりカツミお姉ちゃんすごいよな。


「....っ!?!誰だっ!!」


 唐突に、荒々しく剣を引き抜いたお姉ちゃんは、茂みの奥に目を向ける。葉がガサガサと音を立てて、中からそれが出てくる。


「あらあら、珍しい客人ね。どうしてこんなところに、子どもが来てるのかな?」


 白銀の髪が、月明かりに照らされて光り輝く。

 ただし、その髪はボサボサで身なりも動物の毛皮で作られた簡素な物で作られた服だった。


「魔女?」



「そんな名前で呼ばないでくれない?」


「動かないでっ!!魔女かもしれない。申し訳ないけど、動いたら切るっ!!」


「......待って、カツミお姉さん。この人、魔女みたいに見えないよ。」


 僕は、二人の話に入れなくて、お姉さんを見ると丁度目が合って手を振ってくれた。整った綺麗な顔に、思わず少し目線を逸らした。


「僕、君は話ができそうだね?君はなんていうのかな?」


「ファクです。」


「ちょっと、ファクっ!」


「.......ファク?」


「ありがとう。私の名前は、プラスカだよ。狩人だよ。君たちは、近くの村から来たんだよね?」


 僕たちは、顔を見合わせた。

 カツミお姉ちゃんが、僕の頭を撫でた。


「......むぅ」


「もう、しょうがないよ。アクタ警戒しないていいから。私たちは....」


 少しだけ間を空けると、カツミは一言呟いた。



「魔女を殺しに来ました。」




「へぇ、なかなか大きくでたじゃないか。魔女を殺すなんて」


「あ...え...」


「村の麦が、育たなくなってるから、当たり前」


 そんな話してない。僕が、反応しようとする前に被せるようにアクタも話す。なんで....


「その剣で殺そうっていうのかな?なら、やめておいた方がいい。魔女は、そんな程度じゃ倒せない。」


「なんで、そんなことっ!!」


「この森の奥にいるからさ。恐ろしい魔女がね。」


 ゴクリ、僕は息を飲んだ。アクタと、カツミお姉ちゃんも動揺が顔に現れる。


「なにも知らないんだね。とにかく、帰りなさい。村に私が付いて行ってあげるから。」


「......そんなことっ!ここまできて、納得できない!」


「私たちは、麦を収穫できるようにしてもらうためにここまで来たんだから」


 吐き捨てるように言葉を出すカツミお姉ちゃんと、感情のこもったアクタ。



「はぁ....しょうがない。そしたら、私の話を聞いてくれるかな?」


「なにをっ!!」


「魔女の恐ろしさっていうのを教えて上げるから」


 そうして、フラスカさんがある物語を話始めた。




 ある一人の貧乏な女の子が、森の中に住んでいる鹿や兎に目が眩んで中に入って行こうとしたと言う。


 村の人達は、必死に止めた。

 彼らにとって、女がどうしようが知ったことではなかったが、彼女によってなにか危害が及ぼされてしまうことを恐れたのだ。


 かと言って、彼女になにか施しを与えようとかはしなかった。


 なんだかんだいって、彼女は森へと向かうつもりはないだろう。と、心の中で当たり前のこととして考えていたからだ。


「....ハグッ、ハグッ」


 忠告をした日の、二日経ったある日のことだった。

 貧乏の女の子が、肉を食べていた。


「おい。その肉は、どうしたんだっ!!」


「........あんたらに、関係のないことだろ」



「お、お前っ!!もしや、森に入ったんではないだろうな?」

「返してこいっ!!」


「知らないよ。....これは、アタシのもんだ。」


「お、俺らに危害でも出たらどうするっ!!」

「ちっ、小娘がっ!!」


「.....っ.......」



 村の人達は、彼女を蹴りつけた。しかし、彼女が仕出かしてしまったことに、恐れを感じてはいるものの遠くから怯えながら森を眺める他にどうすることもできなかった。


 その翌日、村の一人が死んだ。

 原因不明の病気だそうで、首の辺りに黒いアザをいくつか残して死んでいった。


「......おいっ!!小娘っ!!出てこいっ!!」

「お前のせいだぞっ!!お前のせいでっ!!」


 後に、その貧乏な娘を探しだそうとしても見つからなかった。






「薬を飲んでたら、治ってたかもしれない。」


「薬?あぁ、その原因不明と判断したのは、薬屋だよ。それから数人原因不明の病気にかかり死んでいった。貧乏な女の子と一緒に、消えていったわけだよ。」


「見てきたように、話すんですね!随分と....」


 剣の柄に手を添えるカツミお姉ちゃんに、はあ...とため息をついたフラスカ。


「全部、事実だよ。」


「そうですかっ!!」


 お姉ちゃんは、剣を一気に引き抜く。

 よく研がれた光り輝く剣先が、風を切り裂いてフラスカさんに向かう。

 僕は、次起こる悲惨な自体を想像して目を閉じる。


「........これは、なにかな?喧嘩売ってる?」


 静かな怒りの声が耳に届いた時、僕はそっと目を開いた。目線の先で剣を摘むフラスカは、その切っ先を見つめながら問いただした。


「....っ、まさか、そんな方法で止められるなんて思わなかった。」


「マグレよ。ただの感」


「スレスレで止めるつもりだったのに...あなた、なにもの?」


「狩人は、動物がたまに石を投げてきたりするから、反射神経が鋭いの」


「そう....ですか」


 悔しげに、それでいて安堵したように剣をしまう。


「なんで...斬ろうとしたの?」


「ん?ファク、怖がらせちゃったね!ごめんね!魔女なら、魔法を使うかな...って、ちょっと賭けみたいなものだったけどね!」


「魔女なら、魔法を使えるけど、体術は持ってない。そういうことでしょ?」


「正解。アクタ凄い。」


 僕は、呆気に取られてしまった。本当に斬ってしまうんじゃないか?って怖かった。


よし、という声が聞こえたような気がしたけど、気のせいか。


「プラスカさん。あなたの言うことを私は信じます!でも、魔女の仕業なら許せない。」


「........分かったわ。私が魔女に伝えておくわ。もしも、あなたの仕業なら、作物を育たないようにさせるのは、やめてって」


「うん!ありがとうございます!」


「いいのよ。困った時は、お互い様だから」


「じゃあ、帰ろっか!」


 僕は、カツミお姉ちゃんが話を上手くまとめてくれたようで、ほっとした。そのまま、剣を鞘に差し込むと、村へと歩き出した。

 一緒に、進もうとしてふと、フラスカさんの様子を振り返った。


「.........」


 凍えるような瞳。

 まるで、そこら辺に飛んでいる羽虫を見るように、感情の篭ってない視線が、お姉ちゃんに向かっていた。


 ゆっくりと、僕に目線が向く。


「お姉ちゃん、待ってよっ」


 変な汗が、背中に流れる。

 僕は、なにを見てしまったんだろう。

 一体、フラシスカさんはなんなのだろう。

 なんで....あんな瞳で....


「どうしたの?ファク、顔が真っ青だよ。」


「え?そ、そうかな。」


「ファク君と二人とも」


 背後から落ち着いた透き通る声がした。

 数秒後に、肩に手が触れる。その手が、妙に冷たくて、まるで、血が通ってないかのような...


「こんな夜の森の中じゃ危ないでしょ?私が、送ってあげるから」


「え?いいんですかっ!ありがとうございます!」


「いいのよ。いいのよ。ね?ファクくん」


「そ、そうですね。」


 風が少しだけ強くなったような気がした。

 さっきから、プラスカさんの足音が全くしない。

 時折、葉が足元に落ちているのに、まるで地面を見ているのかのようにいや...葉の方が吸い付くかのように歩く。


 遠吠えが響いてくる。


「あれ、全然森を抜けない。」


「おかしいわね...あなたたちの村はこの方角であっていたのかな?」


「はい!合っていたと思います。」


「そう。」


 冬でもないのに、歯ぎしりが止まらなくなりそうなのをグッと堪える。

 もしかしたら、プラスカさんが魔女なのではないだろうか?それとも、幽霊?あの冷えた手は、明らかに生命のようなモノを感じなかった。


 触れられる幽霊?まさか...そんなのがいたら、もはや幽霊でもなんでもない。


「こんなところに、湖なんて合ったっけ?」


「私たち、湖なんか通ってないよっ!!どこ!ここ」


「んー?そうなの?ちょっと困ったなぁ....」


「とにかく、先に進まないと!この方角であってるはずなんだから」


 顔が、異様に白いような気がするのは気のせいだろうか。そんなに寒くもないのに、服を五枚重ねてきている。あれも、異常に体温が低い性?それに、あの目線...僕達になにか危害を加えるつもりなら...


「ファクくん。大丈夫?」


「え....あれ?カツミ姉ちゃん?アクタ?ど、どこ行ったの!!」


「ファクくん。大丈夫だから落ち着いて。ね?」


「ひ...こ、来ないでください。来ないでください。お願いします。」


「はぁ....ふふ、ようこそ歓迎しよう。ファクくん。私の家だ。」


 光が満ち溢れる。目の前の視界から、白い霧が消え、木でできた小屋が現れる。『welcome』と書かれたボロボロの看板が立っていた。

 古びれた煙突から、モクモクと白い煙が立ち上り、周りには見たことのないような渦を巻いた葉や、赤い薔薇が生えている。


「私が、まともな人を招待するのなんていつぶりだろうか。歓迎するよファクくん。あの剣士の女の子でもよかったんだけどね。どうにも、やりにくくて仕方ない。」


「僕をどうする気ですか。」


「ん?あー、気になっちゃう?気になっちゃうかぁ....そうだよねぇ」


 手を差し出すと、小降りの杖を持ち、僕の前で振るう。


「お、おぁ....」


 突然に、体が引っ張られ、家の中へと招かれる。

 真っ暗な暗闇の中に、閉じ込められる。光が少しだけ入っている方へと目線を向けると、窓から微笑んだ魔女が映る。


「私が、なんで麦を育たないような石を撒いたと思う?」


「.........わ、分からないよ」


「そうだよね。ファクくんには、分からないよね。じゃあ、教えてあげるよ。」


 僕をその生気のない目で、覗きこむと深い笑窪を作ってにっこりと...


「寿命がね。足りないんだ。ファクくん」


 ヒュンという風切り音が鳴る。体が、後ろへ揺れると硬い木の椅子に座らされる。どこから現れたのか分からない木の幹が生えて、僕を縛りつける。


「う....ぁ......」


「痛い?ねぇ、痛い?」


 一瞬で、光りがつく。僕の前の机に、黒いドレスを身にまとった銀髪の女の人が降り立つ。長いロングヘアをなびかせて、音もなく降り立つ。


「見惚れてしまったかい?ファクくん」


「.......ここから、離して」


「全く、エンターテイナーだよ?ファクくん。」


 そっと、僕の前に顔を寄せる。

 片手に持った大きな傘が天井からの輝きを遮る。


「.........目が、チカチカする。」


「んー、それは申し訳ないね。ついでに言うと、これからすることも謝っておこうか。」


「なにを....」


「私の体は、実はこんな綺麗な顔じゃないんだ。もっと汚かった。醜かった。ねぇ、ファクくん、私の顔は綺麗かい?」


 ......顔は、好きだった。って、違う違う。


「離してください。」


「ふーん。釣れないねぇ」


「.......」


 ニヤニヤと不気味な笑みをこぼしていたが、すっとあのとき、カツミお姉ちゃんを見ていたような真顔になる。


「ねぇ、あなたの寿命くれないかしら?」


「ひぃ....」


「あら、ごめんなさい。怖がらせちゃったかしら?」


「........」


「無反応。はぁ....」


 魔女は、おもむろに、片手をあげると、パチリと音を立てた。すると、霧が出てきて、机の上をモヤモヤと覆う。


「its showtimeさ。私は、予言してあげよう。君はこれから喜んで寿命を差し出すとね。」


 再び、パチリと指を鳴らした。


「カツミ姉ちゃんっ!!アクタっ!!」


 机の上に、両手を胸の前に置いた二人がそこにいた。その顔は、若干青白く、目を瞑った二人に感情はなかった。


「美しいわね。この、生きたまま死にかけている顔、私は嫌いじゃないわ。ねぇ、ファクくんもそう思うわよね?」


「ヤダァ....やだよ。カツミ姉ちゃん、やだよ...アクタ....」


 ガタリガタリと、椅子を動かす。しかし、しっかりと地面に固定されており動かない。次第に、ぼんやりと、視界が歪んでいく。


「あら、泣いちゃった。大丈夫よ。私が、生気を返してあげれば死ぬことなんかないんだから」


「本当...ですか。」


「えぇ、本当よ。だから、あなたが寿命を差し出すっていうのなら」


「差し出します。だから、だから...カツミ姉ちゃんを、アクタを」


「あら、予言当たっちゃったわ。」


 パチリと、指を鳴らす。すると、寝ていた二人の姿が消えていく。

 まるで、夢でも見ていたかのように...

 ボタボタと落ちていた涙もすっかり、止まってしまった。


「あぇ...」


「あの子たちは、森の外よ。今頃あなたのことを探してるでしょうね。」


「.....騙したんだな。」


「あらっ?怒った?」


 アハハハハッと甲高い笑い声が、部屋の中を満たす。心底おかしいものでも見たかのように...そして、杖を振るう。黒い渦のようなものが、周り、黒い壁ができる。


『ファクっ!!返事してっ!!』


『どこ行っちゃったのっ、ねぇっ、ファクッ、ファクッ』


「....ぁ.......二人とも」


 フラスカは、そっと僕の隣に立つ。そして、顔を近づけて、まるで面白いモノを見るかのように微笑んで黒い壁を眺めた。



「いい子たちだね。」


「......ごめんなさい。ごめん...なさい。」


「何謝ってるの?あなたは、私が攫ってきた。それだけの話じゃない。」


 次に、親が泣きながら肩をお寄せ合うところが映し出される。

 なんて、なんて残酷なんだろうか...

 ポタリ.....ポタリ.....と、涙がこぼれる。

 言葉は、もうでなかった。


「大丈夫か!?なにかあったのか?」


「.....あ.......」


 ふと、顔をあげると、カツミ姉ちゃんが僕を見ていた。

 なんでだろう。どうして....カツミ姉ちゃんがこんなところに....


「アクタ!こっちに、ファクが....うわっ」


 僕はカツミ姉ちゃんひしと、しがみついた。


「ファク?そんな怖いことでもあったのかな?あ、そうだ。今度、パンケーキを作ってくれるって、お母さんがね!言ってたから、一緒に....」


「カツミお姉ちゃん、少しだけ...このままでいさせて....」


「.....泣いてるの?ファク....」


怖かった。


守ってくれると信じてた。いつも僕を安心させてくれるカツミ姉ちゃんが、そばにいてくれたから...


でも...


僕は、そっとカツミ姉ちゃんから離れた。


「僕、カツミ姉ちゃんみたいな強い剣士になりたい。」


「え...」


「そして、そして....魔女になんか負けないくらい、強くなって、カツミ姉ちゃんを守りたい。」


「ファク.....」


突拍子もないことすぎて、驚きに目が凄いことになっていたけど、すぐに微笑んだ。


「そしたら...私は、ファクのお嫁さんになるのかな」


「え.....」


今まで見たことない意地悪そうな表情と、頬が赤く染まる。そっか、これ、ボクは告白をしてるのかもしれない。


「う、うん。僕が守るよっ!!絶対」


「もぅ!なんで、引き気味なんだよっ!!やっぱりファクはファクなんだっ!!」


「そんなこと....ない。絶対に、お姉ちゃんを超えてみせるよ」


ポカンと、次に来る言葉の予想が外れたとでも言うような表情を作ると、ふふっ!と、笑って、待ってるよ。と、呟いた。




 木の幹が、ファクを包み込む。やがて、シワシワになった彼の体に、黒くて白い魔女がキスをした。


「とても面白かったわ。」


 杖を振るうと、木の椅子が外へと飛んでいく。


「せめて、森の栄養になって頂戴。まぁ、カスにしかならないと思うけど」


 開いた扉から、吹き込んでくる風に目を細めて、小さな欠伸あくびをした。


「さてと、若い男の子を生贄にして、豊か実りができますよ。と....めでたしめでたしだね。」


 心底、退屈そうに杖振るうと重々しく扉が閉まる。

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魔女は不敵に微笑む。 RERITO @rerite

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