叡智の源泉
はるかはるか、遠い世界。
その世界の中心に位置する都には、巨大な書庫が存在していた。
魔術院アルス・マグナ――――あらゆる魔術の秘奥を記した"魔導書"を収蔵する、魔術養成機関である。
長きにわたる研究によって蓄積された叡智は、全てここに存在するといっても過言ではない。初歩的な魔術の指南書から、世界を破滅へと導く禁術が記されし書物まで、ありとあらゆる書物を抱えるその書架は、世界の記憶そのものに等しいとされている。
まさしく禁断の叡智を秘める書庫と言っても過言ではないアルス・マグナ。
利便性と同時に多大なる危険性を孕むその書庫の存在が世間に容認されているのは、ひとえに厳重な開架区分が設けられているためであった。
アルス・マグナでは、魔導書の危険性によって、保管階層が二つに大別される。
一つは、"
もう一つは、"
天輪層には、危険性が極めて少ない魔術――――基礎魔術や回復魔術、魔法史等に関する書物が収蔵されている。
この層の特徴としては、魔術師のみならず、一般市民の書物閲覧も許可されている点が挙げられる。魔術をより多くの人々に親しんでもらうための試みとして始まったものだが、これが功を奏し、今では平日・休日問わず、多くの人々がこの階層に足を運んでいる。
ただし、一般市民への貸し出しは禁止されているため、故意に持ち出そうとした市民に対しては、厳重な罰が下される。
かたや冥輪層には、危険性が高い魔術――――黒魔術や呪術等、他者に危害を加えかねない魔術に関する書物が収蔵されている。
まず前提として、この階層へと立ち入ることができるのは、アルス・マグナに利用登録されている魔術師のみである。だが、利用登録をしていれば全ての階層を行き来できるというわけではない。
冥輪層に配架されている魔導書は、下層に収蔵されているものほど危険性が高く、それに付随して強い閲覧制限がかかるのだ。特に、最下層にして禁書の巣窟とされる地下五階へと立ち入るためには、アルス・マグナの管理者である最上級魔術師の認可が必要となる。このように冥輪層は厳重な警備によって守られているため、魔術師の中では、立ち入りを許可された冥輪層の層数が実力を計る指標となっており、最下層への立ち入りを許可されている魔術師は、周囲から一目置かれるという。
アルス・マグナの中央玄関には、このような文が彫られた石碑が置かれている。
――――己が欲望を飼い慣らせ――――
一口に魔術といっても、膨大な種類が存在しており、その一つ一つを善か悪かで測ることは極めて難しい。
現にアルス・マグナでの開架区分は"危険性"を指標にしており、結局のところ、その魔術をどのように扱うかは魔術師次第ということになっている。
だが、探究の果てに魔術の魅力に憑りつかれ、禁術にその身を堕として破滅した魔術師は決して少なくない。
魔術師とは魔術を御する者であり、決して魔術に弄ばれてはならないのだ。
故に、アルス・マグナに人々は集う。
善悪の境を知るために。
己の欲望と向き合うために。
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