精霊の名代

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界は、四つの要素によって構成されている。

 すなわち、地・水・火・風。

 世界に存在するありとあらゆる生き物が享受する四大元素。

 それらは全て、四体の精霊によってもたらされていた。





 地水火風の力が均衡している時、世界は平穏そのものである。

 しかし、世界に生きる生命によってそのバランスが崩された時、元素を司る精霊たちが姿を現すのだ。

 精霊たちにとって世界への顕現とは、乱れた力を戻すための修復作業にしか過ぎないのかもしれない。

 しかし、元素の体現たる精霊は、もはや存在そのものが災害に等しい。

 不運にも彼らの通り道となった場所は、例外なく壊滅的な被害を受けていた。

 古代の人々は、度々引き起こされる災害を鎮めるため、四つの神殿を建造。

 天変地異を起こさぬよう、精霊たちに祈り続けた。

 だが、精霊たちはその願いを理解する機能を持ち合わせていない。

 ところが人々の祈りは、およそ数百年の時を経て、奇跡的に届いたのだった。

 それは、ようやく願いを聞き届けた精霊たちによる計らいなのか、それとも単なる精霊たちの気まぐれだったのか。

 精霊たちは、四人の人間を選び、それぞれに自らの権能を授けた。

 精霊の名代となり、四大元素の力を制御する存在となった彼らは、いつしか"現神あらがみ"と呼ばれるようになった。

 

 






 現神の出現以降、再び精霊たちが姿を現すことは無かった。

 もはや精霊の顕現は過去の出来事として語られるようになったが、それはひとえに現神たちの弛まぬ努力によるものである。現神たちは、今日も神殿の最奥にて、世界に満ちる元素が暴走しないよう、常にその力を制御しているのだ。

 例えば、世界中で火災が多発し、火の元素が暴走寸前だったとしよう。

 その場合は、世界中に雨をもたらす等、水の現神が様々な方法で火の元素の力を抑える。

 このように、一つの元素が過剰となった際は、対極に位置する元素の力を増大させることで、現神たちは力の均衡を保っているのだ。






 現神は精霊の権能の一部を継承しており、超常的な力を行使できる存在である。

 だが、その力を振るうことで自らが神であるかのように思いあがってはならない。

 自己を戒め、自己を鍛え、そして世界のためにのみ自己の力を使う。

 それこそが、精霊に代わる調停者である彼らの正しい在り方なのだから。

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