秩序の監視者

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界では、現世を滅ぼす可能性がある悪しき存在が現れた際、世界の秩序を維持するため、時空の果てから抑止力たる存在が遣わされるという。

 手にする武具、身に纏う衣。

 その一切が純黒に満ちており、機械のように淡々と力を行使する秩序の監視者。

 彼らに名など無い。

 平和を求める人々の願い、苦しむ民衆の悲痛な叫び、憐れな子供が流す涙。

 それらが届いた時、抑止力たる監視者は時空の壁を突き破って現れる。

 人々の前に顕現する抑止力の姿は様々である。

 ある者は精悍な青年の姿を見た。

 また、ある者は妖艶な女性の姿を見た。

 中には猛々しい戦士や、愛らしい少女を見たという者もいる。

 しかし、誰がどんな姿で現れようと、その使命は変わらない。

 彼らは悪しき存在を殲滅すると、何も残さずに去っていく。

 愛嬌は意味を持たない。

 彼らが棲むのは、時空の狭間。

 救った人々に再び会うことなど、絶無に等しい。

 秩序の維持という崇高な使命の前では、私情は障害でしかない。

 世界と世界の狭間にて、今日も彼らは秩序を見守っているのだ。



 




 抑止力たる監視者たちは絶対的な力を持つが、時には彼らでも攻めあぐねるほどの悪が現れることがある。

 相手が強大だった場合、彼らは秩序の維持を諦めるしかないのか。

 答えは否である。

 時空の狭間の最奥には、厳重に封印されている扉が存在する。

 扉の内に眠るのは、神秘の力を秘めた三つの武具である。

 万物全てを断つ剣。

 災禍を跳ね除ける盾。

 瞬く間に傷を癒す首飾り。

 これら全てが世界を滅ぼしかねない力を持つため、強大な敵が現れた時にのみ、扉の封印は解かれる。

 監視者はこれらを身に着けることで、混沌を滅する秩序の代行者と化す。

 神秘の武具に身を包んだ彼らは、悪に対して一切の慈悲を持たない。

 その邪悪が世から完全に消滅するまで、彼らの進撃が止むことはないだろう。

 






 監視者たちは長く現世に留まることはできない。

 肉体と精神を維持したまま世界に留まるには、膨大な魔力が必要となるためだ。

 それ故に、悪しき存在を滅ぼした後、その身体は瞬く間に塵となって消えさり、彼らは時空の狭間へと帰還する。

 時空を超えて秩序を維持する彼らの戦いに終わりはない。

 監視者たちは常に願っている。

 世界が平穏であることを。

 そしていつの日か、自分たちのような抑止力を必要としない世界が訪れることを。

 そんな日々が来ることを祈り、彼らは今日も世界を見守る。

 ありとあらゆる時空の中で、救いを求める人々のために。

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