空を駆ける傭兵団

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界では、飛行技術が目覚ましく発展し、空路がひとつの移動手段といて用いられるようになっていた。

 特に世に広く普及したものが、天翔ける箱舟――――"飛空艇"である。

 飛空艇の登場は、世界の物流に大きな革命をもたらした。

 他の交通手段とは比較にならない速度で移動でき、多くの貨物を一度に運ぶことができる飛空艇は、いつしか人々の生活に欠かせないものとなっていった。

 しかし、魔物や賊といった脅威に襲われることは、陸路や水路と変わらない。

 空中を飛び回る翼竜を刺激してしまい、飛空艇が攻撃されたという事例もあれば、小型の飛空艇を用いて略奪を働く"空賊"に襲撃されたという事例もある。

 利便性と危険性を兼ね備える、飛空艇での輸送。

 驚くべきことに、それらの問題を解決したのは、飛空艇を所持した傭兵団だった。

 傭兵団の飛空艇は小型であり、もっぱら戦地に赴く為の手段として用いられていたのだが、その機動力に目をつけた商業ギルドが、飛空艇による貨物輸送の護衛団として彼らを雇用。

 武装した傭兵団が飛空艇の周囲を巡回することで、魔物や空賊に襲撃されるトラブルに見舞われたとしても、貨物の運送を無事に行えるようになったのだった。

 この画期的なアイデアは瞬く間に世界に知れ渡り、各地の傭兵団は、空中専門の輸送警備団へと華麗なる転身を遂げ、様々な商業ギルドと契約を結ぶようになった。


 人を傷つける技術を、人を守る技術へと昇華させた傭兵団。

 血生臭い戦場から、風が絶え間なく吹きつける船上に戦いの舞台を移した彼らの目には、再び光が灯るようになった。

 もはや彼らの目に映るものは、人々の鮮血ではない。

 感謝と共に向けられる、人々の笑顔であった――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る