太陽神の使徒

 はるかはるか、遠い世界。

 この世界には、古くから信仰される一柱の神がいた。

 太陽神アーフターブ。

 世界を遍く照らす光をその身に宿し、紅炎を纏って顕現する偉大なる神である。

 乾いた風が吹き、砂漠が広がる炎荒の地において、この太陽神崇拝は太古の昔から続いており、信仰はその土地の人々の生活に強く根付いていた。

 また、その地に住む人々の中には、神を下界へと降臨させる力を持つ神官がいた。

 歴代の神官たちは例外なく強い神通力を持ち、神聖な儀式に則った祈りを捧げることでアーフターブを顕現させ、様々な奇跡を起こす。

 神の敬虔な信徒であるこの地の人々は、その力に尊敬と畏怖を抱き、やがて神官の一族を中心として巨大な神像を祀った。

 神への愛を忘れず、日々祈りを捧げる砂漠の民。

 過酷な環境で生きる彼らにとって、神の存在は救いとなっていたのだが――――



 




 それは、何の前触れもなく訪れた。

 突如として現れた強大な魔物によって、村が激しい災禍に包まれたのだ。

 村を守るために戦士たちは立ち向かい、神の力によって悪しきものを祓うべく、当代の神官もその力で太陽神を顕現させる。

 しかし、災いをもたらす魔の力は、当代の神官が呼び出した神の力をも上回っていたのだった。

 かの太陽神の力でも及ばず、村は未曾有の危機に襲われる。

 もはや村を守るためには、未来の神官となりうる資質を持った少女に望みを託すしかなかった。

 この絶望を覆す可能性を持った、一縷の望み。

 神へと声を届かせる祝詞も、供物も、音楽も舞もなく。

 燃え落ちる村の中で、少女はただひたすらに、一心不乱に願う。

 どうか、この村を救う力を――――

 彼女の全身全霊を注ぎ込んだ救済の祈りは、やがて天に届くまでに至った。

 少女が秘めし神通力は、かつてない光炎と神秘に包まれた太陽神を呼び覚ます。

 黄金の炎を纏いし太陽神は、その力によって瞬く間に里を包み込む災禍を退けたのだった。






 あれから多くの月日が流れた。

 平穏を取り戻した村では、今日も太陽神を信奉する神事が執り行われている。

 儀式を執り行う神官たちの中には、かつて危機の中で希望を託された少女の姿もあった。

 以前よりもやや大人びた面持ちになった少女は、再び訪れるやもしれぬ災禍の日に備え、日々の務めに励んでいる。

 平和を願う心を胸に、若き神官は今日も祈りを捧げるのであった。

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