守護者の加護

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界では、神代じんだいが終わり、人間が世界を統べる時代となって長い年月が経っていた。

 数多の神々は地上から去ったとはいえ、姿かたちを変えながら人間と世界を見守っており、今でも神の存在を信じ続けている人々は多かった。


 ある辺境の地。

 そこには、その地に住む人々が古くから信仰する土着神が祀られていた。

 大きな白翼を広げ、輝かしき光を放つ盾を持ちし神々。

 彼らは人々から、"守護者"と呼ばれている。

 その地に住む人々の中には、守護者の姿を見たり、声を聞いたりした者が僅かばかりだが存在している。

 絵に描かせるとその姿は様々なのだが、いずれの絵にも共通して翼と盾が描かれており、自分が見たものは間違いなく守護者だったと彼らは断言する。

 それらが身にまとう神聖な雰囲気と暖かな光は、自分が心に思い描いていた神そのものであったと語るのだ。

 また、声を聞いたという者が言うには、実際に言葉として聞こえたのではなく、その言葉の意味が直接頭に入ってくる感覚だったという。

 そして、どんな時に守護者の姿を見たり聞いたりしたのかと尋ねると、彼らの答えは不思議と一致する。

 己の罪や弱さを懺悔し、加護を願った時である、と。

 守護者の姿を見た誰しもが、その後の出来事を鮮明に覚えていないと語るが、気づいた時には"神が見守ってくれている"という安堵感で全身が満ち足りていたという。

 彼らの話を、にわかには信じがたいと語る者たちもいる。

 神代は、とうの昔に終わりを告げたのだから。

 それでも守護者の存在は、今でも多くの人々に信仰されているのだ。



 また、この辺境の地には、守護者が祀られている神殿が存在する。

 この神殿がいつから建っていたのか、今では知る者もいない。

 古びてはいるが、神官たちによって手入れが行き届いた状態が保たれている。

 神聖かつ荘厳な雰囲気を発するこの神殿には、毎日多くの信徒が集う。

 この地における聖域と言っても過言ではない神殿。

 その隠されし最奥部には、神である守護者の像があるという。

 そして、その内部に出入りできるのは、ごく一部の上位神官と聖女のみだ。

 神殿の聖女――――守護者からの神託を得る者である。

 彼女はある時期を境に、誰かの"声"が頭に流れ込んできたという。

 数回にわたる検証を経て、その声は守護者のものだと神官たちは断定した。

 日々その力を用いて、聖女は人々に救いの神託を授けている。

 


 聖女は人々を統べる者ではない。

 神託を人々に正しく伝え、人々を厄災から守る役割を担う者である。

 その確かな力と人々との結びつきが、聖女という存在を後世まで引き継がせているのだ。

 聖女はその力によって、これからも神々と人々を繋いでいく。

 人々を絶えず見守り続ける、神々の名代として。

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