忘却の炎都

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界には、忘れられた都があった。

 間断なく煮えたぎる溶岩を抱く火山のふもと、そんな大自然のぬくもりに満ちた秘境に、かつて存在していた都市。

 都市の名は、フェーゴ。

 地熱を用いた高度な技術によって発展し、火山と共生した独自の文明で栄華を誇った都であった。

 しかし、突如として発生した未曾有かつ大規模な噴火活動に見舞われてしまい、都市は広範囲に噴出した溶岩によって飲み込まれ、壊滅。

 活気あふれる炎の都は、一夜にして、絶えず炎上する死の都と化したのだった。




 そして現在。

 かつて繁栄を誇ったそこは、"プロクス"と呼ばれる炎の民の安住の地となっていた。

 炎の身体を持つ妖精であるプロクスたちは、平和を愛するおさに従い、密かに、穏やかに、この炎上都市の中で生き続けている。

 プロクスたちは踊りを愛した。毎日欠かさず平和を祈る踊りを行い、日々の生活の安全を願う。まだ幼い子供のプロクスたちも、多くの大人たちと共に真剣にその役割を果たしている。

 古来よりプロクスは、火種となる地を求めて様々な土地を巡る流浪の民だったと伝えられている。土地で出会った人々に力を貸す代わりに、住処すみかを提供してもらう。彼らの踊りや文化といったものは、そうした長い生活様式の中で磨き上げられていったものなのだ。

 では、なぜ彼らはこのフェーゴに棲み続けるのか。

 流浪の民だったプロクスがこの土地にこだわる理由。

 それは、フェーゴの人々が彼らに大きな愛情を注いだためであった。

 もとより地熱を用いて生活し、火山と共生していたフェーゴの民。炎を崇める彼らにとって、炎の精であるプロクスの来訪はとても喜ばしいことだった。

 住処を与えるだけでなく、プロクスと共に狩り、プロクスと共に踊り、プロクスと共に生活したフェーゴの民。

 プロクスたちにとって今まで利用されるだけだった関係とは異なり、出歩くたびに声をかけてくれるフェーゴの人々は、単なる共生相手ではなく、さながら家族のような存在だった。

 故にフェーゴが滅びし現在、彼らの愛に応えるため、プロクスたちは今日も平和を祈って踊り続けるのだ。



 プロクスたちは、いつまでもこの都で暮らし続けるだろう。

 炎と共に生きた、フェーゴの人々を忘れぬように。

 家族のように扱ってくれた、フェーゴの愛を忘れぬように。

 たとえ世界が忘れても、自分たちだけは忘れない。

 自分たちが生きることこそが、炎の都が栄えていた証なのだから。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る