輪廻転星

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界では、星が滅びを迎える時、それを見届ける二柱の神がいると伝えられている。

 一柱は、世界を眩き黄金の光で包み、世に幕を引く白き神。

 純白の衣をその身に纏う、柔和な雰囲気を持つ女神。

 神ではあるが、信徒はいない。

 それも当然である。

 崇拝に意味はない。

 女神オクが現れた世界は、終焉の地と化すのだから。

 女神の前では、崇拝する生命そのものが消え去ってしまうのだから。

 もう一柱は、世界を黒炎で包み、大地を灰へ帰す黒き神。

 その身を黒衣に包む、大柄で屈強な男神。

 神ではあるが、信者はいない。

 それも当然である。

 信仰に意味はない。

 男神フルが現れた世界には、破滅がもたらされるのだから。

 男神を信仰する間もなく、世界そのものが滅んでしまうのだから。




 白き黎明の女神たるオクが星にもたらすものは、いわば世界の再構築だ。

 世界が悪しき存在に侵され、滅びをまぬがれない時。

 白き女神は世界を分解、再構築し、原因そのものを取り除く。

 この神の御業は、その原因が生まれる以前までの世界に戻す、という生半なものでは断じてない。

 生命が知性を獲得しはじめる原初の世界にまで、彼女は星を浄化する。

 そうして、赤子同然となった星に発生する生命が、正しき道を歩むことを期待し、再び世界を見守るのだ。

 これは、現世を生きる生命にとって"世界の終焉"と同義であろう。

 それでもオクは世界を浄化し、そこに生まれた生命の正常な進化を促すのだ。

 しかし、何事にも例外はある。

 幾度となく星を再構築したとしても、世界が誤った道に進んでしまう場合はどうなるのか――――

 黒き黄昏の男神たるフルが世界を終わらせるのだ。

 黒炎は星の全てを焼き尽くし、数多の生命が織りなす世界を絶滅させる。

 残るものは、そこに世界があったという痕跡すら残らない、完全なる虚無。

 黎明の女神と黄昏の男神。

 幾星霜の時を過ごし、幾度となく世界の滅びを目の当たりにする神々の胸中は、いかなるものであろうか。

 それは、消えゆく者たちに知る由もない。

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