ワンス・アポン・ア・ワールド

大里 易

災い招きし竜

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界には、破壊という概念そのものが形になった存在たちがいた。

 巨大な竜のような風貌でありながら、その堂々たる佇まい、立ち振る舞いは、さながら王のようでもあった。

 人々は彼らを"災竜さいりゅう"と呼んだ。

 災竜たちが何を目的として世界を破壊し続けているのかは、誰にも分からない。ただひたすらに、超常の力を振るい、視界にあるもの全てを無へと帰していく。

 大河を巻き上げ、雷鳴を轟かす。

 文明を燃やし、大地を砕く。

 竜巻を巻き起こし、疫病をばらまく。

 世界は荒れ狂い、災竜たちの猛威に晒された。

 そして破壊するものが無くなると、彼らはさらなる破壊を求め、次なる地へと歩を進めるのだ。

 この破壊を目の当たりにして、恐れを抱かない者はいない。

 それ以前に、そこに居合わせた者は、一瞬で消滅する運命にあるのだが。

 そして、この世界の破壊者である竜たちの中には、首領たる存在がいる。

 他の竜を平伏させるほどの圧倒的な威圧感と、桁違いの力をその身に宿す。

 王の名は、モト。

 夜よりも黒く、深く、そして強い闇の力をその身に漂わせるモトは、それがさも当然かのように、死という概念を世界に撒き散らしていくのだ。



 破壊の化身たる災竜たちの進撃はどこまでも続く。

 いったいどれほどの世界を滅ぼしてきただろうか。

 地震、噴火、津波、病魔。

 ありとあらゆる破壊の形が世界を襲う。

 災竜たちは、進撃しながらも、更なる力を手にし、破壊の限りを尽くしていく。

 その力は生物・非生物問わず、世界を構成する全ての存在に、等しく降り注ぐ。

 災竜たちが破壊しているものを判別できているのか、知る由もない。

 奴らは視界に入り込んだものを、風景もろとも破壊しながら前進しているだけだ。

 ただひたすらに、淡々と。

 しかし、そんな破壊されつくした大地に、天から降り立つ創造者がいた。

 救世主の名は、エール。

 破滅を待つばかりの世界に訪れた、奇跡のような救いだった。

 他の災竜たちよろしく、竜を思わせる風貌だが、燦然と輝き、慈愛に満ちた目で人々を見つめるこの竜を、果たして奴らの内の一頭として数えていいのだろうか。

 エールが降り立った世界は、緩やかに再生を始める。

 草花は緑を取り戻し、鳥は歌い、暖かな風はそよそよと流れ出す。

 柔らかな陽光が差しはじめた世界も、いつかまた破壊の権化たる竜たちに壊される日がくるのだろう。

 しかし、エールは穏やかな眼差しを人々に向け、崩壊した世界を再誕の光で満たしていく。

 これを希望と呼ばずして何というのだろうか。

 人々はこの竜を救いの神と崇め、災竜たちの猛威に耐えるのだった。

 いつか訪れると信じる、災害の終わりまで。

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