偶像の秘密

 はるかはるか、遠い世界。

 その世界では、様々なオーパーツが発掘された。

 オーパーツとは、それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や工芸品などの総称で、我々が住む世界に存在する黄金スペースシャトル、水晶髑髏クリスタル・スカル等もその一例である。

 しかし、数多の世界には他にも謎に包まれたオーパーツが存在している。

 今回はその中のひとつ、"アニュラス"と呼ばれている偶像について注目してみよう。


 アニュラスとは、高さ約一メートルほどの偶像の総称で、現在四種類が発掘されている。

 形状はいずれもバラバラなのだが、その四種全てがとある特徴を持っており、オカルト方面の専門家による研究が日夜続けられている。

 その特徴というのが、「存在する場所の天候を局地的に変える」というもの。

 発覚したのは、二体目のアニュラスが発掘された時だった。二体目のアニュラスは雪を降らせる力を持っていたようで、出土と同時に調査区域が記録的かつ季節外れの豪雪に見舞われたのだ。そこから、先に出土していた一体目との関連性が疑われ、「天候を変える謎の像」としてアニュラスは扱われるようになった。

 それでは、現在発掘されているアニュラスたちについて見ていこう。


 "白夜びゃくやのアニュラス"は、女性を象った橙色の偶像だ。

 ウェーブがかった髪を肩のあたりで切り揃えており、穏やかな表情で目を閉じている。両手を合わせ、何かに祈りをささげるようなその姿はさながら聖女のようで、見た者を敬い慎む気持ちにさせる。なにより目を引くのは、像の背にある大きな後光だ。このアニュラスが存在する場所には暖かな陽光が差し込み、あらゆる生命に活力を与えるという。

 次に、悪魔を象った青色の偶像が、"黒雨こくうのアニュラス"だ。

 大きな黒翼を広げ、手足を折りたたむようにかがんでいるその姿は、見る者に重圧感と恐怖を与える。何かを威嚇しているのか、顔は憤怒の表情で歪んでいる。このアニュラスが存在する場所には豪雨が降り注ぎ、恵みと災厄を同時にもたらすという。

また、最初に発掘されたアニュラスであり、出土時には酷い雨が降ったようだ。

 "雲翳うんえいのアニュラス"は、とぐろを巻いた龍を象った灰色の偶像だ。

 鱗のひとつひとつが丁寧に彫られており、近くで見るとその緻密さに圧倒されるだろう。また、こちらを睨み付けるような龍の表情は、威圧感の中に気高き風格を感じさせ、見る者の心に尊敬と畏怖を呼び起こす。このアニュラスが存在する場所はたちまち曇天となり、耐え難い閉塞感がもたらされるという。

 二人の子供が象られた白い偶像は、"氷霧ひょうむのアニュラス"。

 薄手の白い服に身を包んだ少年が背中合わせとなっている像であり、双方とも愛らしい姿をしている。だが、一方は笑みを浮かべているのに対し、もう一方はその顔に悲しみを湛えており、二人の表情が対比となっている。また、双方が同じ背格好かつ同じ服を着ているため、専門家の間では双子説と同一人物説で解釈が分かれている。

このアニュラスが存在する場所には大雪が降り、瞬く間に一面を白銀の世界へと変えてしまうという。


 誰がどのように作ったのか、偶像たちが秘める力はどこから来たのか。

 未だ多くの謎に包まれている偶像、アニュラス。

 真にその謎を解き明かすことができるのは、彼らを作りし者のみ、かもしれない。

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