第48話 誰に似てる?

「⋯⋯お主達はまさか⋯⋯いやそんなはずはない」


 竜は何かを呟いたが、何を言ってるのか聞こえなかった。


「お主らはヴィンセント帝国の皇族の者じゃな⋯⋯初めて見る顔じゃが新しい皇帝の御披露目にでも来たのか」


 一言喋るだけで威圧感が半端ない。

 竜の体躯が大きいからそう感じているのかもしれないけど。


「私はルリシア・ウィル・デ・ヴィンセントと申します。突然で申し訳ありませんが、本日はお願いがあり⋯⋯」

「帰れ」

「えっ?」

「帰れと言ったのが聞こえんのか?」


 竜はルリシアさんが話している最中に割り込み、有無を言わさず帰れと言ってきた。


「あの! 僕はユートです! 話を聞いてもらえませんか?」

「⋯⋯⋯⋯やはり違うな」


 えっ? なに今の間は? 滅茶苦茶気になるんですけど。しかも違うって何? けど今はそのことよりトアの病について伝えたい。


「人間の願い事⋯⋯などろくなものがない」


 ん? 今一瞬顔を歪めなかったか?

 相手は竜だからなんとも言えないけど、俺には何かを痛がっているように見えた。


「五十年程前にも皇帝になりたいから⋯⋯対抗馬を殺してくれじゃと⋯⋯お主らの身勝手な言い分には呆れるばかりじゃ」


 五十年前って確か後継者争いが起きた時だよな?

 誰だかわからないが、本当に余計なことをしてくれたようだ。


「少しは初代皇帝のランフォードを見習え」


 竜は初代皇帝陛下に助けられたと聞く。どうやら今でもその時の想いはなくなっていないようだ。


「ともかく帰るのじゃ。我は人間の争いには巻き込まれとうない」

「待って下さい! 私達がここに来たのは争いのためではありません」

「どういうことじゃ?」

「ユートくんの妹のトアちゃんが、不治の病にかかっていて、その治療方法を教えて頂きたくここを訪れました」

「⋯⋯⋯⋯話だけは聞いてやる」


 全く聞き耳持たなかった所が、話だけは聞いてくれることになった。これはルリシアさんが必至に訴えてくれたおかげだ。

 そして俺はトアの症状を竜に伝える。


「筋力の低下か⋯⋯ルセリアも同じようなことになっていたような」

「ルセリア?」

「初代皇帝の奥さんよ。どうかルセリア様を治療した方法を教えてくれませんか。お願いします!」

「お、お願いします!」


 ルリシアさんは帝国のお姫様なのに、トアのために頭を下げてくれている。そのようなことをさせて申し訳ない。だけどその気持ちが嬉しくて、感謝してもしきれない。

 だけど竜にルリシアさんの、俺の気持ちは伝わるかわからない。俺達は頭を下げたまま竜の返答を待つ。


「⋯⋯だめじゃ」


 しかし俺達の思いは伝わらなかったのか、竜からはノーの返答を受ける。


「どうしてか教えてもらってもいいですか?」


 俺はどんな理由で断られたのか知りたかった。それに竜が何故断ったのか原因がわかれば、そのことを解決することで、トアの病を治す方法を教えてくれるかもしれない。


「⋯⋯人はすぐに忘れ、自分達が困った時にだけ助けを求めてくる。それに今の帝都の現状は我も知っておる。また皇帝の座を狙って争いが起きているのじゃろ? もう我はかかわりとうない」


 全くもって正論だ。

 竜は俺達人間より長生きなため、強さも経験も遥かに持っている。長い時間の中で、その力を何度も人間に貸してきたのだろう。だけど困り事が解消されると人は竜を忘れる。そしてまた何かあれば、今の俺達のように助けを求めてくる。そんなことを何回も繰り返していたら、人間に不信感を持つのは当然なのかもしれない。

 それにしても、何でサハディンやデルカルトのことも知っているんだろう? 何か竜にしか出来ない力で情報を仕入れているのか?


「私はあなたに助けて頂いたことは一生忘れません! でもこんなことを言っても信じてもらえないですよね」

「⋯⋯⋯⋯」

「だから私にもあなたのことを助けさせて下さい!」

「なんじゃと?」

「今困ってることはありませんか? なければこの先困ったことがあったら必ず私が助けてみせます! だから今はトアちゃんの病を治す方法を教えて下さい」


 ルリシアさんは真っ直ぐな瞳で、竜に問いかけた。

 俺はルリシアさんの人となりを知っているから、この言葉が嘘ではないと確信できる。でも初めて会った人でも、今のルリシアなら信じられると思わせる程、清廉に見えた。


「⋯⋯お主はそっくりじゃな」

「えっ?」

「ルセリアにそっくりじゃ。澄みきった瞳、そして優しさの中に品格が感じられる」

「初代皇后様に似ているなんて光栄です」

「それにそのユートも⋯⋯初代皇帝、ランフォードそっくりじゃ」

「ぼ、僕が!?」


 ルリシアさんはルセリアさんの血を引いているから、似ていることはあり得るかもしれないけど、俺は初代皇帝とは縁もゆかりもないからな。雰囲気とかが似ているのだろうか。

 もしかして最初に会った時、竜に戸惑いが見れたのはそのためか。


「わかったのじゃ⋯⋯もう一度だけ人間を⋯⋯そなたら二人を信じてみよう」

「「ありがとうございます」」


 これでトアの病の一部を治すことが出来る。俺は心の中で喜びを爆発させる。


「それでお主らにやってほしいことがあるのじゃが⋯⋯」

「何でも行って下さい。出来る限りののことはやらせてもらいます」

「この姿だと説明しにくいから、少し姿を変えさせてもらうぞ」


 竜がそういうと、突然身体が光出し、目を開けられなくなる。

 そして光が収まった後、竜がいた場所にいたのは⋯⋯人間の女の子だった。

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