第47話 竜への道
竜へと続く道を進み始めて三十分程が過ぎた。
「前に進んでいるのかわからないね」
「うん」
ルリシアさんの言いたいことはわかる。
関所からここまで、前方の景色がほとんど変わらないのだ。
森には竜の結界が張られているらしいから、もしかして落雷以外に同じ所をグルグル回る効果もあったりして。
そんな不安も抱えつつ俺達は前へと進んでいく。
「竜っておっきいのかなあ」
「本で見た竜は大きな身体、剣を通さない硬い皮膚、角が生えてて鋭い牙を持ち、爪は大地を引き裂き、炎を吐くらしいです」
「ユートくんよく知ってるね。物知りだ」
前の世界の竜と特徴が同じだったからね。
とりあえず怒らせてバトル的な展開は避けたい所だ。俺なんか一瞬でやられてしまうだろう。
「竜に会うの楽しみだね」
「僕は少し怖いかな。機嫌が悪いって言うし」
もしかして竜が激昂する逆鱗にでも触れたのだろうか。そうだとしたらどうやって怒りを静めればいいのかわからない。
とにかく竜を怒らせてしまったら、トアの病を治すことも出来なくなる。
言葉は慎重に選んだ方が良さそうだ。
「ユートくん私がついているから大丈夫よ」
ルリシアさんはそう言うと、俺の手を取る。
「何があってもユートくんは私が守るから」
「あ、ありがとう」
普段は抱きつかれているから手を握られてびっくりしてしまった。
少し照れくさいけど、子供のユートだったら振り払うことはしないので、このままの状態で進む。
ん?
ルリシアさんと手を繋ぎながら歩いて、十分程が経った頃。
俺は周囲の景色の異変に感じた。
「ルリシアさん止まって」
「どうしたの?」
「何かがおかしいよ」
前方を飛んでいた蝶が突然消えたのだ。
何かに攻撃された気配はないし、蝶が地面に落ちたり上空に飛び去った訳ではもない。本当に目の前から消えたのだ。
「私には全然わからないけど」
「僕もわからない。でも飛んでいた蝶が消えたんだ」
「蝶が?」
前方には変わらぬ一本道が目に映っている。
わからない。いったい何が起きているんだ。
「どうするのユートくん。進んでみる?」
「いや、何が起きているのかわからないのに進むのは⋯⋯」
俺だけならともかく、ルリシアさんを危険な目に遭わせる訳にはいかない。だけど前に進まないとトアの病を治す方法が⋯⋯
現状俺に対して何か攻撃を仕掛けられているわけじゃない。もし俺を狙っているなら
とにかく何が起きているのか状況を把握しないと、これ以上進むことは出来ない。
俺は地面に落ちている石を手に取る。
そしてさっき蝶が消えた所に投げてみた。
すると⋯⋯
「「消えた!」」
やはり蝶が消えたのは見間違いじゃなかったんだ!
「どど、どういうこと? 石が消えるなんて⋯⋯」
「わからない。でも僕達も進んだら消えちゃうのかな」
これは益々先に進むことが出来なくなった。これは竜がやったことなのか?
ルリシアさんもこのことは知らなかったようだ。
もし竜の仕業なら皇帝陛下も事前に教えておいて欲しい。結界のことも一言も言ってなかったしな。
それともこの消える現象はイレギュラーなものなのか?
俺とルリシアさんは、これ以上足を前に進めることが出来ないでいた。
だがその時。
「前に進むのじゃ」
どこからか声が聞こえてきた。
「えっ? 誰?」
俺は剣を手に取り、左右を見渡すが誰もいない。
今の声は女性のように感じたが、視認出来ないし気配も感じない。どうする? 声に従って前に進むか? だけどもし罠だとしたら⋯⋯
前にも後ろにも進めず時間だけが過ぎていく。
「我の結界の力で認識出来ないようにしているだけじゃ。我としてはこのまま帰ってもらっても問題ないが」
結界? 結界ということはこの声はもしかして⋯⋯
「竜⋯⋯ですか」
ルリシアさんも俺と同じ結論にたどり着いたようだ。
それにしても竜は喋るのか。だけどこれで意志疎通が出来るので、トアの病を治す方法を聞くことが出来る。
「行こう。前に進もう」
「うん」
俺とルリシアさんは手を繋いだまま、足を前に進める。
すると石が消えた辺りを過ぎると、突然景色が変わり、目の前には人の数十倍はありそうな赤い竜の姿が見えた。
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