第49話 ルビー

「お、女の子!?」


 竜が女の子になっちゃったよ。

 いくらファンタジーな世界でもこれは衝撃的な出来事だ。

 しかも女の子は⋯⋯


 突然俺の視界が真っ暗になった。


「み、見たらダメェェっ!!」


 背後からルリシアさんの叫び声が聞こえると共に、両手で目を隠された。

 なぜそんなことをされたのか理由は簡単だ。竜は人間になったのはいいが、服を着ていないのだ。


「絶対に目を開けたらダメよ。ユートくんわかった?」

「うん」

「もし目を開けたら針を一万本飲んでもらうから」


 こわっ! 普通千本じゃないの!?

 でも何故女の子の裸を見てはいけないんだ?

 もちろん倫理的に見てはならないのはわかるけど、今までルリシアさんは俺が風呂に入ってる所に乱入して、散々裸を見せつけてきたじゃないか。

 それなのに何故竜の女の子の裸をダメなのだろう。

 俺はルリシアさんの言動の意味が理解出来なかった。


「人間とは面白い生き物じゃな。こんな脂肪の塊のどこがいいのか理解できん」

「ちょ、ちょっと自分の胸を揉んでないで早く服を着て!」

「わかったわかった。うるさいのう」


 そして竜の気配がここを遠ざかっていく。


「ユートくんまだよ。まだ目を開けちゃダメだからね」

「うん」


 俺はイエスしか許されない答えに頷く。

 数分経つと竜が服を着て戻ってきたため、俺の目も解放された。


 それにしても何でこの竜は服を持っているんだ? もしかして度々人間の姿になっているのか?


「どうしたんじゃ? これのことか?」


 俺がじっと見つめてたためか、竜はクルリと回ってモデルのように服を見せつけてくる。

 短いスカートに少し肌を出しているトップスで、どこからみても綺麗な女の子といった所だ。これが竜だなんて誰も信じないだろう。


「帝都にはたまに行くんじゃ。どうもここだと美味しい食べ物がなくてのう」


 帝都で買い食いしているのかこの竜は。何だかシュールな光景だ。

 人間嫌い的なことを言っていたけど本当は好きなんじゃないか?

 もしかして帝都に来ている時に、サハディン達のことも知ったのだろうか。

 だけど今はそのことより竜の頼み事だ。


「それで竜様の願いとは何でしょうか」

「竜様はやめい。我はルビーじゃ」

「ルビー様ですか。それは失礼しました」

「様はいらん」


 宝石のルビーから取っているのか? ルビーは赤く輝く宝石で、赤い竜のルビーさんにはお似合いかもしれない。

「我の願いじゃが⋯⋯」


 ルビーさんはクルリとこちらに背を向ける。そして髪をかき揚げ、首筋をこちらに見せてきたが⋯⋯


「なにこれ!」


 ルリシアさんが悲痛の叫び声をあげる。

 無理もない。ルビーさんの首筋はざっくり切れており、骨が見えていた。

 しかも奇妙なことに血が流れていない。

 そもそも竜には血がないとか? いや、そんなことないよな。

 それにしてもこれは酷すぎる。ルビーの身体は大丈夫なのだろうか。


「数日前に背後から突然襲われたんじゃ」

「ルビーを⋯⋯竜を襲うなんていったい誰が⋯⋯」

「わからん。一瞬のことじゃったから。じゃが邪悪な気配だけは感じた」


 邪悪な気配? 魔物のことを言ってるのか?

 だけどただの魔物が、最強種の竜に襲いかかるのか疑問だ。

 それに人間だって邪悪な気配を持っている奴がいるかもしれない。

 もしそうだとしたら、ルビーさんが俺達を警戒していたのも頷ける。


「我にも油断はあった。竜の皮膚を貫ける訳がないと⋯⋯じゃがその結果がこの通りじゃ。今は我の力で血が出るのを止めているが、限界も近い。もしお主らがこの傷を治すことが出来るなら⋯⋯」

「ユートくん! 最上級ポーションをちょうだい」


 ルリシアさんはルビーさんの怪我の状態を知り、急ぎ最上級ポーションを要求してくる。


「お主ら最後まで話を⋯⋯」

「うん。アーカイブ」


 俺はルリシアさんの言葉に従い、直ぐ様古文書より最上級ポーションのカードを取り出した。

 今はバトル中ではないので、カードを犠牲にしなくても使えるはずだ。


「早くルビーの傷を治してあげて」

「わかった」


 俺は最上級ポーションのカードを取り、ルビーへと投げる。

 すると最上級ポーションの効果なのか、ルビーの身体は光輝くのであった。




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