第44話 決闘の儀が終わって
「ユートくん!」
審判の終了の合図と共に、ルリシアさんが駆け寄ってくる。
そしてそのままの勢いで抱きついてきた。
「勝った、勝ったよ!」
「うん! 勝ったね」
今回の勝利は本当に嬉しいので、俺もルリシアさんに抱きつき返して、共に喜びを分かち合う。
これでデルカルトもおしまいだ。
後は皇帝陛下が処理してくれるだろう。
「おめでとうルリシア」
「お母様! 私、勝ちました!」
「見てたわよ。二人の初めての共同作業を」
「共同作業? そうですね。ユートくんと頑張りました」
ルリシアさんは俺から離れ、皇后様と抱き合う。
何かその言い方嫌だな。絶対フィリアさんは別の意味を頭に思い浮かべているよな。
そして皇帝陛下はデルカルトの元へと向かう。
「残念だ。皇族の血を引くお前がこんなことをするとは」
「⋯⋯」
「そこまで皇帝になりたかったのか、お前とサハディンは」
「初めから継承権第一位のあなたにはわからないでしょうね」
「皇帝になってお前は何を成すつもりだったのだ? 金か? 地位か? 名誉か? 下らん。本当に大切なものは、他にあるのではないか?」
「そんなものはない。金があればどんなことも出来る。地位や名誉があれば相手を屈服させることができる。これ以上ほしいものはないだろう」
「そんなものより大切なものがあることがわからないのか」
「そんなものだと?」
「それは家族だ⋯⋯お前が率先して切り捨てたな」
「家族? それは皇帝になるために不要な存在だ」
「そうか⋯⋯わからないか。己を優先するお前にはそもそも皇帝など無理だったよ。私は⋯⋯私の大切なものに手を掛けようしたお前が許せん。よってこの場で処罰を下す」
皇帝陛下は腰に差した剣を抜き、天高く掲げる。
デルカルトは皇帝陛下と皇后様を殺害しようとしたことを認めたのだ。この場で処刑されても仕方ないだろう。
「あの世にいってサハディンに詫びるがよい」
そして高く掲げた剣を振り下ろすと血飛沫が辺りを舞い、デルカルトの命が散るのであった。
これで皇家の揉め事は終わったんだな。
「ルリシア、よくやってくれたぞ。サハディン親子やジクルドの野望を止めることが出来たのは、そなたのお陰だ」
「いえ、お父様。全てはユートくんのお陰です。もしユートくんがいなかったらお父様とお母様を毒から救うことができず、私も刺客に命を奪われていたかもしれません」
「う⋯⋯うむ⋯⋯」
皇帝陛下は、俺のお陰っていうことを認めたくないオーラを発している。
「そしてこの決闘の儀で、傷一つつくことなく勝てたのもユートくんがいたからです」
「くっ!」
皇帝陛下は苦虫を噛み潰したような表情をしている。
そんなに俺のことが嫌いなのかと問いかけてみたい。
「あなた⋯⋯約束を覚えているわね?」
「約束? 何のことだ。私は考えてやると言っただけで、実行するとは言ってない」
「この後に及んで見苦しいですよ。それでも帝国の皇帝ですか」
「私は皇帝であると同時に、ルリシアの父親だ。そう簡単に認めてやるわけにはいかない」
そういえばルリシアさんが無傷で勝ったら、結婚を認めるとかそんな話があったな。冗談だと思っていたけど、冗談じゃなかった。
「ねえユートくん。お父様とお母様は何の話をしているの?」
「さ、さあ⋯⋯僕には何のことか⋯⋯」
「そう⋯⋯それならお母様に聞いてみるね」
「あっ!」
ルリシアさんはフィリアさんの元へと向かってしまう。
「お母様、いったい何の話をしているのですか?」
「え~と⋯⋯それはねえ――」
フィリアさんが決闘の儀の前で起こったことを話始める。
「ユユユ、ユートくんとのけ、結婚!」
「そうよ」
フィリアさんの話を聞いた瞬間、ルリシアさんの顔が真っ赤になる。
「そそ、そんなお母様! まだ私には早いです!」
まだ早い? それは結婚自体が早いのか、俺との結婚が早いのかわからないな。
「そうだよ。僕はまだ十歳だし」
いくらこの世界が前の世界と比べて早婚でも、さすがに十歳は早い。それに結婚なんてしたら、トアの病を治す方法を探しに行けなくなるかもしれない。
「そうね。お母さん毒で死にかけたから、少し焦りすぎちゃったみたい。今の話は忘れて」
「そうだ。気にしないでいい」
「うん⋯⋯わかった⋯⋯」
あれ? ルリシアさんは元気がないように見えるが気のせいか?
「小僧! ルリシアに聞いたが、貴様は皇家の墓に行きたいらしいな」
「はい。許可をもらえませんか?」
「あの場所に入っていいのは皇族だけだ。そして⋯⋯」
「竜がいるんですよね?」
「そうだ。前回三年前に皇家の墓に行った時は何故か竜は機嫌が悪かった。竜の怒りを買うと食い殺されるかもしれんぞ。それでもいいのか?」
竜と言えば、多くのファンタジー小説では最強種と言われている。いくらカードマスターの力があっても勝てる可能性は低いだろう。
だけどやっとトアの病を治す方法の一端が見つかったんだ。怖気づいている暇はない。
「はい。どうしても竜に会いたいので教えて下さい!」
俺は頭皇帝陛下に頭を下げる。
皇帝陛下が許可をくれないと、皇家の墓に行くことは出来ない。
俺はどうしても竜に会いたいんだ!
「⋯⋯わかった。今回世話になった礼だ。許可してやる」
「ありがとうございます!」
良かった。
皇帝陛下はルリシアさんのこともあり、俺のことを嫌っていた。
意地悪して許可しないという可能性もあったけど、どうやら杞憂だったようだ。
だけどもし許可を得ることが出来なくても、隠れて向かってたけどな。
こうして俺は決闘の儀で勝利することができた。そして皇帝陛下から皇家の墓に入る許可を得ることが出来たのであった。
そして俺達はルリシアさんの部屋へと戻った。
部屋に戻ると、ルリシアさんは机の引き出しや、クローゼットの中をごそごそと探し始めた。
「何をしてるの?」
「ちょっとユートくんにあげたいものがあって。以前お父様からもらったものがどこかに⋯⋯」
「皇帝陛下に?」
「うん。国宝級の物だったから使えなくて部屋に置いておいたの」
「こ、国宝級!」
さすがは親バカ皇帝陛下だ。国宝級の物を娘に与えるとは。いったいいくらくらいの物をあげたのだろう。
「あったよ! ほら、これよ」
ルリシアさんの手には三つの瓶が握られていた。
「これは?」
「最上級ポーションだって。どんな傷も治すみたい」
確かにそんなもの気軽に持てないし使えない。
んっ? ちょっと待て。もしかしてそれを俺に渡そうとしているのか!
「私が持っていても使わないし、ユートくんならカードにして持っていけるでしょ?」
「た、確かにそうだけど⋯⋯」
「私は後二本持っているから、護衛してくれたお礼にもらって」
この最上級ポーションがあれば、冒険の役に立つ時がくるかもしれない。だけど国宝級かあ⋯⋯躊躇してしまうな。
「お願い⋯⋯もらって」
ルリシアが無理矢理俺の手に最上級ポーションを握らせてくる。
これは断れないな。
「ありがとうルリシアさん。大切に使うよ」
「うん」
そして俺は最上級ポーションを三枚のカードにする。
すると最上級ポーション(⭐4)を手に入れた。
一枚にまとめてもいいけどバトル中咄嗟に使う時に、カードとして使用したら、三つ一編に使うことになってしまうからな。
「アーカイブ」
俺はカードを古文書にセットしようとするが、この時古文書の表紙に記載してあったⅦがⅩに変わっており、さらに二つの機能が解放されていた。
それは今まで開くことが出来なかった、三ページ目と四ページ目が開けるようになっていたのだ。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます