第33話 褒賞?

 俺とルリシアさんは食堂で朝食を取り、部屋に戻った。


 トントン


 するとドアがノックされたので、俺が来客に対応する。


「ユート、皇帝陛下が玉座の間でお待ちだ。大至急向かってほしい」

「僕をですか?」


 皇帝陛下からの呼び出しか。何だか嫌な予感しかしないな。

 なにせ昨日は剣を振り回され、殺されかけたし。

 だけど一国の王の呼び出しを断る訳にはいかない。


「わかりました」


 俺は百パーセントNOと言えない選択に頷く。


「お父様はどうしてユートくんを玉座に呼んだのかしら? まだ体調も万全ではないのでしょ?」

「そ、それは⋯⋯褒賞を渡すためだと聞いています」

「お父様もわかっているわね。ヴィンセント帝国の姫を刺客から助け、皇后と皇帝を毒から救ったもの。褒美の四つや五つくらいあってもおかしくないわ」


 四つや五つってそんなに?

 だけど俺は褒賞のことより、ボルゲーノさんの様子が気になる。

 ルリシアさんの問いかけに対して、躊躇いがあった。

 これは何か隠していると考えた方が良さそうだ。


「もちろん私も一緒に行くね」

「あっ! いえ、ルリシア様はその⋯⋯」

「ダメなの? でも今誰かの襲撃を受けたらどうするの?」

「そ、そうですね。わかりました」

「ボルゲーノ何か変よ? もしかして隠し事でもあるの?」

「そのようなことはありません。ルリシア様も同行して頂いても大丈夫です」


 俺とルリシアさんはボルゲーノさんの後に続いて、城の廊下を進む。

 すると一際大きな扉があり、その前には二人の兵が配置されていた。


「ここが玉座の間になる。くれぐれも注意してくれ」

「えっ?」


 注意してくれ? やはりこの呼び出しはただ事ではなさそうだ。


「何か聞こえても入って来なくていい? そして聞いたことは全て忘れろ。わかったな」

「「はっ!」」


 ん? 今ボルゲーノさんは兵士の人達に向かって、とんでもないことを言わなかったか?

 これは絶対嫌なことが起きるパターンだろ。

 益々玉座の間に入りたくなくなってきた。


「ごめんなさい。ちょっとお腹の調子が⋯⋯」

「後にしてくれ。皇帝陛下を待たせる訳にはいかない」


 ですよね。

 これは覚悟を決めるしかないな。


「ユートくん。もしお父様が変なことをしてきたら、投げちゃっていいけら」


 さすがに善人のルリシアさんも、ボルゲーノさんと兵士の人達の会話を聞いて、ただ事ではないと思い始めたようだ。


「本当にいいの?」


 俺は庇護欲を出すために、ウルウルした瞳でルリシアを上目遣いで見つめる。

 

「私が許可するわ。ボルゲーノもいいわね?」

「えっ? いや、それはその⋯⋯」


 皇帝と姫、二人の間に挟まれた中間管理職だな。


「い・い・わ・ね」

「はい⋯⋯」


 そしてボルゲーノさんは、ルリシアさんにイエスかはいを強要され、はいと答えるしかなかった。


「それでは中に入るぞ」


 ボルゲーノさんの命令で、兵士の人達が扉を開ける。

 やばい。こういう時どういう所作をするんだっけ? 前の世界でも経験したことがないからわからないぞ。

 だけど今の俺は子供だ。多少わからないことがあっても許される⋯⋯と思いたい。

 俺はボルゲーノさんの後に続いて玉座の間に入る。

 ん? 誰もいない?

 こういう褒賞を与える時って、左右に貴族が並んでいると思っていたけど。

 いるのは玉座に座っている皇帝陛下だけだった。


 とりあえず俺はボルゲーノさんについていく。そして片膝を床についたので、俺も真似をする。


「余はヴィンセント帝国九代皇帝、ゼノス・ウィル・デ・ヴィンセントだ。ユート⋯⋯面をあげよ」


 俺は皇帝陛下の命に従い、顔をあげる。


「此度はルリシアを刺客から守り、余と皇后をよくぞ毒の脅威から救ってくれた。その働きにより褒美を取らせる」

「ありがとうございます」

「まずは爵位として男爵を叙する」


 ええっ! 爵位がもらえるの! まさか自分が貴族になるなんて思わなかった。だけど貴族のしがらみとかめんどくさいな。そのせいで、トアの病を治す方法を探しに行けないなんてことにならないかな?


「男爵となれば街の代官の任に着くのだが、ユートはまだ成人ではない。代官の仕事は成人してからやってもらう」


 なるほど。それなら後五年の猶予がある。男爵の爵位を受けても問題ないな。それに貴族になれば情報も手に入りやすいし、悪い条件ではない。


「ありがたく、受けさせていただきます」

「うむ。そして爵位とは別に白金貨五枚とこのミスリルの剣を授けよう」


 白金貨五枚!? 日本円にして五億円だぞ。

 もしこれが前の世界だったら一生遊んで暮らせる額だ。


「褒美は余が直接渡してやろう。余の側に来るがいい」

「はい」


 俺は立ち上がり皇帝陛下の元へと向かう。


「これが白金貨だ」


 皇帝陛下が手渡しで白金貨を渡してくる。

 ん? こういうのって手渡しで渡すのが普通なのか? 何かおかしい気がしてきた。

 とりあえず差し出されてものを受け取らない訳にはいかない。

 俺は白金貨五枚を受け取った。


「そしてこれがミスリルの剣だ。受け取るがいい!」


 突然皇帝が剣を抜き、叫び声をあげると、皇帝時間インペリアルタイムが発動するのであった。

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