第32話 常識しらずのお姫様
お風呂を抜け出し、俺は脱衣所で急ぎ自分の服を手に取る。
だがこの時俺は見てしまった。
俺の服が入っているかごの隣にある白い物を。
「いやいや、無造作に置かないでくれよ」
たたまれているが、ルリシアさんの下着が丸見えだった。
もう本当にこのお姫様は、心臓に悪いことばかりしてくるな。
とにかく早く着替えて、ここから立ち去ろう。
俺はチラチラと隣のかごの中を見ながら着替えを終え、脱衣所から逃げ出す。
こうしてルリシアさんの誘惑から逃れたと思っていたが、まだ試練の時は続いていた。
「さあユートくん。一緒に寝ましょ」
お風呂から出たルリシアさんは、甘い香りを纏いながら、ベッドに誘ってくる。
「床やソファーで寝るのは無しだからね。そうしたら私もそこで寝るから」
俺の逃げ道を塞いできた。
いくらなんでもお姫様をソファーとかで寝かせるわけにはいかない。
「わかってるよ。僕もベッドで寝るから」
ルリシアさんは先にベッドに入り、笑顔で俺を待ち構えている。
何でこのお姫様はこんなに楽しそうなんだ。
まさかショタ好きとかじゃないよな?
俺は疑念を抱きながら恐る恐るベッドの布団に入る。
「もっとこっちに来たら? 寝ている時、ベッドから落ちちゃうよ」
「大丈夫。僕、寝相はいいから」
「そうなの? それじゃあおやすみなさい」
「おやすみなさい」
ルリシアさんが明かりを消すと、部屋の中が暗闇へと変わる。
てっきり抱きついてきたりするのかと思っていたけど、意外にもルリシアさんからは何もして来なかった。
これならぐっすりと寝ることが出来そうだな。
俺は瞳を閉じて心を落ち着かせる。するといつの間にか夢の中へと突入するのであった。
そして夜が明けた。
俺は夢の中でどこかわからぬ場所でもがいていた。苦しい、息が出来ない、動くことも出来ない。俺はこのまま死ぬのか?
嫌だ嫌だ! まだトアの病を治してないのに死ねるか!
俺は手を使い、必至にこの場から逃れようとする。
すると突然柔らかい物を掴み、空気を吸えるようになったことで、夢から覚めた。
「ふう死ぬかと思っ⋯⋯えっ!」
目覚めて目前に見えたものは、寝ているルリシアさんの顔だった。
あれ? 俺は端っこで寝てたはずなんだけど⋯⋯
それにしても可愛らしい顔だ。
改めて近くで見ると、大きな瞳、艶がある唇、顔のパーツの全てが左右対称で整っており、絶世の美少女といっても過言ではないだろう。
やばいやばい。
この距離でずっと見ていたくなる衝動に駆られるが、もしルリシアさんの目が覚めたら、何を言われるかわからない。
脱出を試みるが、ルリシアさんは俺の背中から手を回している。これは簡単には抜け出すことは出来ないな。
俺は掌も使い力を入れる。しかし掌からは今まで触ったことのない柔らかさを感じた。
何だこれは? ルリシアさんに抱きしめられているため、手元は見えない。だけどけして嫌な感触ではないので、何度も揉んでみる。
「あん⋯⋯そこはダメだよ」
突然ルリシアさんが目を開き、艶かしい声を上げた。
「ル、ルリシアさん?」
「昨日は怖じ気づいていたのに、意外におませさんなのね」
「えっ? どういうこと?」
俺はゆっくりとルリシアさんから離れる。
すると俺の掌が何を掴んでいたか露になった。
「ごごご、ごめんなさい! 僕はただ起きようと思って力を入れたら⋯⋯その⋯⋯」
「いいのよ。別に怒ってないから」
俺が掴んでいたもの、それはルリシアさんの胸だった。
手元が見えなかったとはいえ、まさかそんなことをしてしまうなんて。しかも許してくれるなんてルリシアさんは女神か。
「おはようユートくん」
「おはようございます」
「昨日はユートくんがいたから快適に眠れたわ」
「それはよかったです」
俺は息が出来なくてもがき苦しむ夢をみたけどね。あれはおそらくルリシアさんに抱きしめられていたからだ。
「それじゃあ着替えて朝食を食べに行きましょ」
「うん」
俺はベッドから出て着替えの服を手に取ろうとするが、その時とんでもないものが目に入ってきた。
「どうしたの?」
「ルル、ルリシアさん!? 何で服を脱いでいるの?」
「えっ? 着替えるためだけど」
そう。ルリシアさんはベッドの上でワンピースタイプのネグリジェを脱ぎ、昨日脱衣所で見た下着姿になっていた。
「ここで脱がないで下さい!」
「ここは私の部屋よ。それとも廊下で着替えればいいのかな?」
「ぼ、僕がいるから。せめて脱衣所で着替えてよ」
「昨日一緒にお風呂に入った中じゃない。今さらだわ」
このお姫様に取って俺は、やはり小さい子供でしかないのか。俺の言うことを全然聞いてくれない。
「わ、わかりました。僕が脱衣所に行くので、そのまま待っていて下さい。わかりましたね!」
「何? ユートくんは下着姿の私が好みなの?」
ルリシアさんがからかうように言ってきたので、俺は服を持って脱衣所に逃げ込む。
ルリシアさんには羞恥心という言葉はないのか?
俺は着替えをした後、警戒しながら部屋と戻る。
するとルリシアさんは何事もなかったかのように俺の腕を組み、そして食堂へと向かうのであった。
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