第29話 父親は娘を溺愛する生き物
「カードとなりて我が手に集え」
俺はカードにするキーワードを放つ。
すると十秒程経つと皇后様から光が発し、俺の手には一枚のカードが握られていた。
ポイズンスネークの毒(⭐2)⋯⋯ポイズンスネークの原液の毒。飲んだり身体に振りかかった場合は筋肉の麻痺、しびれ、呼吸困難がおきて、やがて死に至る。
さっきグラスの薬を見たときは、遅効性という文字があったけどなくなっていた。
少量でも毒の症状が出るから、もし飲んだり身体にかかったりしたら即死しそうだな。
だけど今は毒のことより皇后様だ。
「今身体の中にある毒は全て取り除きました。後はちゃんとしたお医者さんに見せてあげて下さい」
「えっ? えっ? お母様の身体の中には毒はもうないの?」
「うん」
「バカなことを言うな! そんなこと出来るはずがない!」
「僕は本当のことを言ってるだけだよ」
デルカルトがこれ以上ない程取り乱している。
「おい医者! 毒を取り除く方法などあるわけないだろ!」
「わ、私もそのような方法は聞いたことがありません。ですが皇后様の顔色が良くなっていることは確かです」
「くっ!」
デルカルトは悔しそうな表情を浮かべ、部屋から出ていく。
あの偉そうな奴に一杯食わせることが出来て、胸がスッとした。
後は皇后様の容態が良くなってくれればいいけど。
こればっかりは俺には何も出来ない。後はちゃんとしたお医者さんにお願いするしか⋯⋯
「うわっ!」
俺は安堵のため息をついていると、突然ボルゲーノさんが抱きついてきた。
「ユート! お前はすごいぞ! さすが私の見込んだ男だ!」
ボルゲーノさんが普段とは違うテンションで抱きついてきた。
ここまで喜んでくれるなんて、皇后様の毒が消えたことが余程嬉しかったんだろうな。
でも力が強くて、ちょっと痛いし苦しいからそろそろ離して欲しい。
「ボルゲーノ! ユートくんが嫌がってるわ。離れなさい」
「すまんユート⋯⋯つい嬉しくて我を忘れてしまった」
「ううん⋯⋯大丈夫だよ」
ここで痛いなんてやぼなことを言うつもりはない。
だけどルリシアさんのお陰で助かったよ。
「やっと邪魔者が消えたわ。ユートく~ん」
「うわっ!」
今度はルリシアさんが抱きついてきた。顔が胸に埋もれて、ボルゲーノさんの時とは別の意味で苦しいぞ。
まさか自分が抱きつくためにボルゲーノさんをどかしたのか?
「お母様を助けてくれて本当にありがとう!」
そう言ってルリシアさんは俺の頬にキスをしてきた。
おいおい。一国の姫がそんな軽々しく頬とはいえキスをしてもいいのか?
「ル、ルリシア様何を! ハレンチですぞ!」
やはり案の定というか、ルリシアさんはボルゲーノさんに叱られていた。
「でもお母様の命の恩人よ。頬にキスくらいじゃ足りないわ」
「た、確かに⋯⋯これは今日という日を記念日として、国民の休日に――」
何やらボルゲーノさんが不穏なことを口にし始めたぞ。本気でやめて欲しいんだけど。
とにかく高揚している二人を元に戻さないと。
「ル、ルリシアさん、皇帝陛下の所に案内して下さい。あのおじさんの話からすると、皇帝陛下も毒を盛られている可能性がありませんか」
「そ、そうね。お父様も体調が悪いって言ってたわ」
「ユート! 急ぎ陛下の元へ向かうのだ。皇后様のことはわたしに任せてくれ」
良かった。どうやら二人共正気に戻ったようだ。これで休日云々の話を忘れてくれるといいけど。
俺は皇后様の部屋を後にし、ルリシアさんに連れられて皇帝陛下の部屋へと向かった。
「ルリシア? ルリシアなのか? 何故ここにきた。危険だからボルゲーノの屋敷に隠れていろと⋯⋯ゴホッゴホッ」
「お父様大丈夫ですか!」
「す、すまん。最近身体が動かず、呼吸が上手く出来なくてな。私もそろそろ死期が近いという訳か」
ベッドに横たわっているのが皇帝陛下か。
痩せ干そっていて、顔色も悪い。これはポイズンスネークの毒の症状に似ている気がする。
「来てしまったことは仕方ない。私より⋯⋯ゴホッゴホッ⋯⋯母さんの所に言ってやれ。おそらく母さんはもう⋯⋯」
「お父様! 何を弱気なことを言ってるのですか! お母様は毒を盛られていましたが無事です」
「何! 毒だと⋯⋯ゴホッゴホッ」
「ユートくんお願い」
「うん」
俺は皇帝陛下の手を握る。
「なんだこの小僧は。皇帝たる私の手を握るなど無礼だぞ」
「お父様は黙ってて下さい!」
「は、はい⋯⋯」
どうやら家庭内では皇帝陛下よりルリシアさんの方が強いようだ。お陰で毒をカードにする作業を邪魔されなくて済む。
俺は皇后様の時と同じ様に、皇帝陛下の体内にある毒をカードにした。
「な、なんだこれは⋯⋯回復魔法なのか? 急に身体の調子が良くなってきたぞ」
「お父様も毒を盛られていたのです」
「私が毒を⋯⋯まさか薬か!」
さすがは一国を束ねる王といった所か。毒と聞いてすぐに原因にたどり着いた。
「私に毒を飲ませるとは。サハディンの仕業か!」
「そのとおりです。ですが先程デルカルトの手によって命を奪われました」
「デルカルトが? 信じられん」
「毒が消えたとはいえ、お父様のお身体は完全に治った訳ではありません。しばらくは養生して下さい」
「わかった」
これで皇帝陛下と皇后様を毒から救うことができた。
だけどまだデルカルトと、ボルゲーノさんが気をつけろと言っていたジクルド騎士団長は健在だ。何が起こるかわからないから、油断はしない方がいいだろう。
だがこの時、再び俺の頬に湿った感触がした。
油断していた訳ではないけど、またルリシアさんにキスをされたようだ。
「ユートくんお父様を毒から救ってくれてありがとう。大好き♥️」
そしていつものように抱きしめられる。
ルリシアさんは本当に抱きつくのが好きだな。俺も嫌いではないけど今は状況が良くないかな。
何故なら目の前にいる皇帝陛下が、ワナワナと震えながらベッドから立ち上がり、どこに持っていたのか剣を抜き始めた。
「き、貴様! ルリシアの唇を奪うとは何事だ! そこに直れ!」
「別に奪った訳じゃないよ」
むしろルリシアさんの方からキスをしてきて、俺の頬を奪っていきました。
だがそんなことを言ったら、火に油を注ぐことになるだろう。
「私だってここ十年、頬にキスをされたことがないのに⋯⋯」
俺はつい少し前にもされました。
「例え命の恩人でも貴様のことは許せん! 死ね!」
皇帝陛下が鬼の形相で迫ってくる。
この人滅茶苦茶元気じゃないか? ほんと勘弁してほしいぞ。
しかし仮にも相手は一国の王。投げ飛ばしたりしたらどんな罰を受けるかわからない。
こうなったら⋯⋯
皇帝陛下が襲いかかってきた時、
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