第30話 側にいることが一番安全だ
皇帝陛下のご乱心から逃れた後。
とりあえず逃げたのはいいけど、ここがどこだかわからない。
参ったなあ。まさか皇帝陛下があそこまで親バカだったとは。
だけどルリシアさんみたいな可愛らしい人が娘なら、その気持ちもわからないでもない。
「ユートく~ん」
そして城の中を彷徨っていると、廊下の向こう側からルリシアさんの声が聞こえてきた。
「ルリシアさん」
「会えて良かった。このお城広いから迷子になっちゃうよね」
「そうだね。だけどかくれんぼとかしたら楽しそうだよ」
「そうね。今度やってみようか」
たまに子供っぽい所も見せないとな。
やれやれ⋯⋯某探偵アニメの主人公の気持ちが少しわかるぜ。
「城でかくれんぼなどしてはなりませんぞ」
そしてルリシアさんの後ろにはボルゲーノさんの姿があり、俺達に苦言を呈してきた。
「ルリシア様、お転婆なのは程々にして頂かないと困ります。陛下と皇后様が動けない今、あなたがしっかりしないでどうしますか」
「少しくらいいいじゃない」
「ダメです。以前から私が申し上げているように――」
ボルゲーノさんの説教が始まってしまった。最初にかくれんぼと言い出したのは俺なので、何だか申し訳なくなってきた。
ここはルリシアさんに助け船を出そう。
「そういえば皇后様の具合はどうなの?」
「皇后様の具合? もちらん良い方向へと向かっている。今はまだ眠っているが、いずれ目が覚めるだろうというのが医者の見解だ」
「良かった」
ボルゲーノさんが皇后様の側を離れているので、大丈夫だろうとは思ったけど、言葉として聞けて安心した。それと話を逸らしたことで、ルリシアさんへの説教も終わったようだ。
「大きな声では言えませんが、サハディンが倒れてもまだデルカルトとジクルドがいます。ルリシア様もお気をつけ下さい」
「わかってるわ。それじゃあユートくん、私の部屋に行きましょう。今夜は一緒に寝ましょうね」
「「えっ?」」
それはまずくないですか?
嫁入り前のお姫様が、男と同じ部屋に寝るなんてアウトだろ。
「それはいけません! 子供とはいえユートは男ですぞ!」
良かった。どうやらボルゲーノさんは俺と同じ意見のようだ。道徳的な問題もあるけど、もしルリシアさんと同じベッドで寝たら、あの親バカ皇帝が何をしてくるかわからないぞ。
「ルリシア様はまだ子供だからわかりませんが、男は狼です。こう見えてユートも欲望の牙を持っており、いつルリシア様に襲いかかろうか虎視眈々と狙っているに決まっています」
人を性犯罪者のように言わないで欲しいが、ボルゲーノさんの言うことは間違ってはいない。
「でもさっきボルゲーノも言っていたでしょ。気をつけてって。一人だと不安で夜も眠れないわ」
「そこは護衛をつけるので安心して下さい」
「でももし部屋の中に侵入されたらどうするの? それにユートくんがいれば突然襲われても大丈夫だし、毒を飲む危険性もないわよね?」
「むむ⋯⋯確かにその通りですが⋯⋯」
ボルゲーノさんがルリシアさんの説得に押され、迷い始めた。
普通に考えるとルリシアさんの考えがおかしいように見えるけど、もし万が一何かあったらと考えると俺も強く言えない。
「ボルゲーノお願い」
そしてとどめと言わんばかりに、ルリシアさんが上目遣いでウルウルとした瞳で願いを口にする。
「わ、わかりました。しかし姫様にお仕えする臣下の身としては、お止めしなければなりません。私は今のお話を聞かなかったということにして下さい」
「わかったわ。ありがとうボルゲーノ」
そしてボルゲーノさんはここで何もなかったかのように立ち去っていく。
どうやらこの交渉劇はルリシアさんの勝利のようだ。
「さあユートくん行きましょう」
そして俺の意思は関係なく、ルリシアさんの部屋へと連れ去れてしまうのだった。
「ユートくん今日は疲れたでしょ」
「うん」
城に来てサハディンやデルカルトと出会い、皇后様と皇帝陛下の毒をカードにした。普段ならそこまで疲れる内容ではないが、初めての場所ということもあり、疲労が溜まっているのがわかる。
「先にお風呂に入ってて」
「わかりました」
ルリシアさんの部屋にはお風呂がついている。
うちの屋敷にもあるが、個人の部屋にある訳じゃない。さすがは皇族の部屋といった所か。
俺は脱衣所で服を脱ぎ、浴室の中に入る。
「すごいなこれは」
壁一面が大理石のようなもので出来ており、お風呂の中ではライオンの口から常にお湯が出ている。そして浴室のスペースも広く、軽く十人くらいは一緒に入れそうだ。
「とりあえず身体を洗うか」
俺は石鹸を使って身体を洗い、次にシャンプーで髪を洗おうとするが、七種類もあって、どれを使っていいのかわからない。さすがはお姫様が使うシャンプーだ。
「どれでもいいのかな?」
俺は適当に一番左にあるものに手を伸ばす。
「男の子にはこっちのシャンプーの方がいいと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
俺は振り返り礼を言うと、そこには一糸まとわぬ姿のルリシアさんがいた。
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