第24話 ユート、護衛をする
「さっきこちらで大きな物音がしたぞ! ルリシア様!」
どこからかボルゲーノさんの声が聞こえる。
どうやら先程の戦闘に気づき、こちらに向かっているようだ。
俺は抱きしめているルリシアさんの手から逃れる。庭で抱き合っている所を見られたら、また変な噂が流れてしまいそうだからだ。
「えっ? 何で離れちゃうの?」
だけど俺の意図はルリシアさんには伝わらなかった。
「ボルゲーノさんに何があったか報告しないといけないですからね。それにしてもこの人達は何者ですか?」
早朝から人の屋敷に入って襲ってくるなんて、普通じゃない。相当ヤバい人達だということはわかる。
「これは大岩だと! ルリシア様ご無事ですか!」
「ええ⋯⋯大丈夫よ。ユートくんのおかげでね」
「ユートが!? さすがは私の見込んだ男だ。感謝する」
「いえ。一応二人気絶させておきましたがどうしますか?」
「もちろん尋問にかけるつもりだ。警備兵! この者達を連れていけ」
ボルゲーノさんが指示すると、四人の警備兵が黒ずくめの男達を連れていく。
「ルリシア様。ご無事で何よりです。まさか日中から襲ってくるとは」
「それだけ焦っているのか、もしかしたら何かあったのかもしれません」
「そのことも大切ですが、私からお聞きしたいことが一つあります」
「なに?」
「どうしてルリシア様が外に出られているのですか? 私は何度も外に出るなとお話しましたよね? 万が一外に出る時も必ず護衛をつけるようにと」
「も、もちろんわかっています」
「いいえ、わかっておりません。ルリシア様はいつも――」
ボルゲーノさんのお説教が始まってしまった。
今回は俺が部屋から逃げ出したから、ルリシアさんは追いかけて来たんだ。少しだけ俺の責任もあるので、ルリシアさんに助け船を出そう。
「ボルゲーノさん。ルリシアさんを怒らないであげて下さい」
「ダメだ。今、ルリシア様の身には危険が迫っている。何かあってからでは遅いのだ。不自由にさせるのは申し訳ないが、どこに行くにしても必ず護衛をつけて頂かないと」
「それならルリシアさんは怒られるようなことはしてないよ」
「そんなことはない。現にルリシア様は、護衛を付けずに外にいるではないか」
「護衛ならいるよ」
「どこにそのような者がいる」
「ここに」
俺は自分のことを指差す。
「なんだと? だがユートはルリシア様と護衛になるための勝負をしているはずでは⋯⋯」
「さっき護衛として認めてもらいました」
「それは本当か?」
「うん」
護衛になったのは黒ずくめに襲われた後で、多少前後するがオッケーだろう。嘘は言ってないし。
「なるほど⋯⋯ルリシア様申し訳ございませんでした。真実を確認せず一方的に攻め立ててしまって⋯⋯かくなるうえはこの命を持って謝罪とし⋯⋯」
「そ、そこまでしなくていいわ。わかってくれればいいの」
「その寛大な処置に感謝致します」
ボルゲーノさんが剣を抜き、切腹しようとしていたぞ。
思わず武士か! とツッコミそうになった。
「今からユートはルリシア様の護衛となった。それでルリシア様のことで一つだけ伝えなくてはならぬことがある」
「もしかしてルリシアさんがお姫様だってこと?」
「知ってたの!」
「昨日わかりました」
「どういうこと? ひょっとして隠しきれぬ気品でバレちゃったのかな」
「ううん⋯⋯違うよ」
「そんなハッキリ言うなんてユートくんひどいよ」
ルリシアさんがいじけてしまった。泣いたり笑ったり、この人感情表現が豊かだなあ。
「ルリシアさんは、親しみやすく可愛らしいお姫様でしょ」
「そ、そうかなあ。そうだよね」
隅でのの字を書いていたルリシアさんが、一瞬で復活したぞ。
けど今のは俺の嘘偽りのない気持ちだ。
「話が脱線してますぞ。それでユートはいつルリシア様が我が帝国の姫だと気がついたのだ」
「それはジョブで正体がわかっちゃうって言ってたから。ルリシアさんは剣を使うから多分ジョブは姫騎士かなって」
「そのとおりだ。ユートは強さだけではなく、やはり頭も良さそうだ。さすが私が見込んだことだけはある。それにしても、ルリシア様は迂闊でしたな。これからは御自分の言動に気をつけて下さい」
「ごめんなさい」
「あっ! でも⋯⋯もう一つあって。ボルゲーノさんって貴族だよね?」
「何故そう思う」
「身なりがいいし、話し方も普通の人とは違うなって。後は所作が綺麗だから。貴族のボルゲーノさんが敬語で話す人って誰だろうって思ったら、皇族の人かなって」
「ふふ⋯⋯ボルゲーノ、迂闊でしたね」
「⋯⋯申し訳ありません」
ボルゲーノさんも自分と同じことを指摘されて、ルリシアさんは嬉しそうだ。
「それではユート。これからルリシア様の護衛を頼む。依頼料金は一日大銀貨五枚でいいか?」
日本円にすると一日五十万か。さすがは皇族の護衛といった所か。
「わかりました。それと僕もこれからルリシア様って呼んだ方がいいですか?」
「ううん。ユートくんは今まで通りでいいわよ。それともルリシアお姉ちゃんって呼びたい?」
「ルリシアさんでお願いします」
「⋯⋯ルリシアお姉ちゃんが良かったのに」
何やら小声で聞こえてきたが、無視しよう。何が悲しくて年下の子をお姉ちゃんって呼ばなきゃならないんだ。
「それとルリシア様。今後はユートの側を絶対に離れないようにして下さい。いいですね?」
ボルゲーノさんが念を押すように、ルリシアさんに問いかける。
「わかっているわ。これからユートくんにくっついていればいいのね」
そしてルリシアさんは俺のことを抱きしめる。
すると甘い匂いと柔らかい胸の感触が、俺を襲い始めた。
う~ん⋯⋯ルリシアさんは抱きつき癖でもあるのか? まだ出会ったばかりなのにもう何回抱きつかれたか。そしてその姿を見てボルゲーノさんは頭を抱えている。
そういえばボルゲーノさんはルリシアさんの護衛をするなら、女性が望ましいと言っていた。
初めは護衛対象者であるルリシアさんが、若い女性だからと思っていたけど、本当はこの抱きつき癖があったからなのか? 確かにお姫様が男に抱きつくのは外聞が良くないよな。真相はわからないけど、俺は子供だから見逃されたということか。
「ルリシア様、ユートを困らせないで下さい」
「わかってるわ」
しかし一向に抱きつくのをやめないルリシアさんを見て、ボルゲーノさんはまたため息をつく。
そして俺はルリシアさんに抱きつかれたまま、屋敷の中へと戻る。
「ルリシア様! ボルゲーノ様大変です!」
しかし屋敷に入った途端、突如血相をかいた兵士が俺達の前に現れるのであった。
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