第25話 不穏な報告
「騒がしいぞ! 何事か!」
「申し訳ありません。こちらは皇后様の使いの者から預かった手紙です。至急中を確認して欲しいと」
ボルゲーノさんが手紙を受け取り、ルリシアさんへと渡す。そしてルリシアさんは手紙に目を通すと、次第に表情が険しくなってきた。
「何が書かれていたのですか?」
「⋯⋯お母様の⋯⋯お母様の容態がよくないみたい。このままの状態が続くと持って数日だと書かれています」
容態が良くない? ルリシアさんのお母さんは病気なのか?
そういえばさっき、以前病気とか調べたことがあるって言っていたな。もしかしてそれはお母さんのためなのか?
ルリシアさんは震えながら俺を抱きしめてきた。
「しかしまだ皇后様の病気を治す薬は見つかっていません」
「でもお母様が⋯⋯とにかく私は一度城へと戻ります」
「それはなりません! ルリシア様は命を狙われているをお忘れですか?」
「どちらにせよ隠れていたこの場所は把握されてしまいました。それに私の命が狙われているからこそ、ユートくんを護衛にしたんでしょ?」
「確かにユートは強いが、突然襲われでもしたら、ルリシア様の命を守りきることが出来ないかもしれません」
お母さんに会いたいルリシアさん、ルリシアさんの命を何より優先してるボルゲーノさん。二人の意見は相容れないものとなっている。このままでは話は平行線だ。
だけど俺は危険があるかもしれないけど、ルリシアさんがお母さんの元へ行けるようにしてあげたい。
話を聞くともしかしたら皇后様は亡くなってしまい、ルリシアさんはお母さんの死に目に会えないことになるかもしれないからだ。
そんなの可哀想じゃないか。
それにトアの病を治す方法は城の書庫にある。ここで足止めをされる訳にはいかない。
「ボルゲーノさん」
「何だユート。まさかお前もルリシア様の味方をするつもりなのか? 私は命に代えてもルリシア様を行かせるつもりはない」
「先程突然襲われたらと話していたけど、僕に奇襲攻撃は通用しません」
「どういうことだ?」
「僕は自分自身に危機が迫るとわかるスキルを持っています。だから奇襲を受けても、食べ物に毒を入れられても大丈夫です」
「食べ物に毒? もしかして昨日睡眠薬入りの水に気づいたのは⋯⋯それにさっき後ろから攻撃されてもユートくんは対応していた」
なるべく秘密にしておきたい能力だけど、今ここで時間を取られる訳にはいかなかったので、二人に話すことにした。
後はボルゲーノさんが納得してくれるかだけど⋯⋯
「そんなバカげたスキルがあるものか⋯⋯」
ボルゲーノさんは否定しながら、僅かに殺気が漏れていた。
そのため
するとボルゲーノさんが、ルリシアさんが、世界が時を止める。
俺は現れた裏表示のカードに手を伸ばす。
ボルゲーノさんはおそらく俺が
だから攻撃する標的は俺ではなくルリシアさんに向いている。それにしても俺が護衛対象だと認めたから、ルリシアさんの危機に
ルリシアさんは俺に抱きついているため、とりあえず引き剥がす。
ルリシアさんの前に立ち、俺はボルゲーノさんの攻撃に備える。
そしてカードを四枚引きセットすると、時が再び時が動き出した。
ボルゲーノさんの右の拳がルリシアさんの顔面に迫る⋯⋯はずだったが、そこにはルリシアさんはいない。いるのは俺だ。
「何!?」
ボルゲーノさんは目の前の事態が飲み込めていないのか、驚きの声をあげる。
まあその気持ちはわかる。一瞬にして対象がいなくなってしまったのだ。
ボルゲーノさんにとっては俺やルリシアさんが、瞬間移動したように見えているのだろう。
俺は迫りくる拳を左手で受け止める。そしてカウンター気味に右の拳をボルゲーノさんの顔面に放った。
「これで奇襲は効かないとわかってくれた?」
「み、見事だ。先程の話は本当だったのだな」
もちろん俺はボルゲーノさんのことは殴っていない。顔面まで後数センチという所で拳を止めていた。
「あれ? ユートくんに抱きついていたはずなのに⋯⋯あれれ?」
ルリシアさんも突然腕の中にいた俺がいなくなって、少し混乱していた。
「ルリシアさんはお母さんに会いたがってるよ。会わせてあげて」
「ユートくん⋯⋯私のためにありがとう」
ルリシアさんが今度は背後から抱きついてきた。おかげで背中に柔らかいものが当てられている。
「わかった。ルリシア様が城に行くことを許可しよう」
「ボルゲーノありがとう」
「ですが私も行かせて頂きます。こう見えて私は以前騎士団の副団長をしていたのだ。ルリシア様を守る者は多い方がいいだろう。それといくらユートが強くても、ルリシア様の暴走を止められないと思うからな」
「暴走って何よ。失礼しちゃうわ」
「それではさっそく城に向かいたいと思います。今からここを出れば、暗くなる前に城に着くことができましょう」
「わかりました。でも⋯⋯」
「わかっている。ユートの家の者には数日帰らぬことを伝えておく」
「ありがとうございます」
こうして俺はルリシアさんをお母さんに会わせるため、ヴィンセント帝国の城へと向かうことになるのであった。
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