第22話 ユートVSルリシア(5)

 俺はルリシアさんの部屋から逃げ出した後、屋敷内にある庭へとたどり着いた。


「やれやれあのお嬢様は何を考えているんだ。完全に俺のことを子供だと思っているぞ。まあ実際見た目は子供だけど。とにかく勝負は既に三分の二は終わってる。もう少し頑張ればルリシアさんの護衛になれるんだ」


 そして庭にあるベンチに座ると、着替えたルリシアさんがやってきた。


「もう逃げないでよ」

「今、僕とルリシアは勝負をしているので、逃げるのは普通だと思います」

「可愛くない反応だなあ。さっきは慌ててて、凄く可愛かったのに」


 あの状況で慌てない二十二歳がいたら教えてほしいぞ。


「ルリシアさん。淑女は男性に肌を晒したらダメだよ」

「ユートくんはいいの。男の子だから」


 ダメだ。俺の話を全く聞いてくれないな。こうなったら実は俺が異世界転生をした成人男性だって、教えてやろうか?

 まあでも、そんなこと言っても信じてもらえないと思うけど。


「それでルリシアさんは僕に何の用ですか? 勝負をしにきたならいつでもいいですよ」

「ううん。今は違うの」

「違う?」

「どうしてユートくんがそんなに強いか知りたくて」

「僕がですか?」

「そうだよ。教えてくれる?」

「いいですよ」

 

 ルリシアさんは俺の隣に座る。


「でも何から話せばいいか⋯⋯」

「それじゃあ家族のこととか、どこに住んでいるか教えてくれる?」

「わかりました。僕が住んでいるのはセレノアの東にある森の中で、お父さんは物心着く前に天国に行っちゃって。お母さんは五歳の時に⋯⋯」

「ちょっと待って! ごめんね⋯⋯私聞いたらいけないことを⋯⋯」

「大丈夫。もう五年前のことだから」

「ユートくん⋯⋯ユートくんはすごいね。私だったら立ち直れないかも⋯⋯」

「血が繋がってないけど僕には妹がいたから⋯⋯」


 俺が四歳の時に母親がトアを連れてきた。初めは突然異世界に転生させられて、自暴自棄になっていたこともあって、トアとは仲良くなかったけど。まあそのことは言わなくてもいいよな。


「それに⋯⋯わっぷ!」


 俺は続きを話そうとしたら、突然ルリシアさんに抱きしめられた。


「うぅ⋯⋯ユートくんは辛い人生を送ってきたんだね。でもこれからは私がいるから」


 ルリシアさんは涙を流して、俺のことを心配してくれている。

 初めて会った時から思っていたけど、ルリシアさんって良い人だよな。他人のために泣ける人なんて、そうはいないぞ。

 だけど俺の顔を胸に埋めるのはやめてほしい。柔らかくて気持ちいいけど、中身は大人だから何だか申し訳なくなってくる。


「ありがとうルリシアさん。だけど僕には本当の家族はいないけど、トアやセリカさん、ソルトさんがいたから。セリカさんは剣の腕が良くて、僕は五歳の時から習ってたんだ。それで――」


 俺は屋敷でのこと、セリカさんのこと、ソルトさんのこと、そしてトアの病のことを話す。


「ボルゲーノさんが、ルリシアさんならトアの病を治す方法知ってるかもって言ってたけど本当なの?」

「う~ん⋯⋯病を治す方法はわからないかな。ごめんね」


 ダメなのか⋯⋯一縷の望みをかけていたけど、その糸も途絶えてしまった。だけど挫けている暇などない。トアの病は、今こうしている内にも身体を蝕んでいるのだから。


「ううん。ルリシアさんが悪い訳じゃないから」

「でも病気で、身体の筋肉が動かなくなった人を治す方法があった気が⋯⋯」

「本当ですか!」


 俺はルリシアさんの予想外の言葉を聞き、思わず両肩を掴んでしまう。


「ユ、ユートくん!? そんなに近くで見られると恥ずかしい」


 気がつくと、ルリシアさんの顔と俺の顔の距離が、二十センチ程になっていた。

 散々恥ずかしい姿を見せてきた人が、何を言ってるんだとツッコミたいが、今はそれどころじゃない。


「それでトアを治す方法は? 何かの薬ですか!?」

「私も以前、病気とか色々調べたことがあって⋯⋯確かお城の書庫にある本に乗っていたと思う」


 お城とはウィンセント帝国の城のことか? だけど城は、限られた人しか入ることが出来ないと聞いたことがある。


「いいわよ。私が調べておいてあげる」

「ルリシアさんありがとう!」


 トアの病を治す道が繋がった。後はルリシアさんが本の内容を教えてくれれば、トアの筋力の低下を防げるかもしれない。

 現状、一番危険な症状は筋力低下だ。治療することが出来れば、他の症状を治す時間を稼げるはず。

 俺は嬉しくてルリシアさんを抱きしめてしまう。


「あん⋯⋯急に積極的になっちゃって」

「ごごご、ごめんなさい!」

「いいの。嬉しくて仕方なかったのよね」


 俺は慌ててルリシアさんから離れる。

 ルリシアさんは気にしていないようだけど、俺が気にしてしまう。


「トアちゃんの病気、必ず治そうね」

「うん」


 俺は嬉しくて子供のように無邪気に頷く。

 ここに来て本当に良かった⋯⋯ん? これってもしかして、ルリシアさんがトアの治療方法を調べてくれるなら、護衛になる必要はないんじゃないか?

 だからルリシアさんとの勝負は⋯⋯負けてもいいのかと頭に過った時。

 皇帝時間インペリアルタイムが発動するのだった。


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