第17話 可憐な暴走少女?
炊き出しが終わった後。
俺はバッツ達と別れ、ボルゲーノさんと共に屋敷へと向かっていた。
「ユ、ユート。逸る気持ちはわかるが、もう少しゆっくり歩いてくれ」
「ご、ごめんなさい」
いかんいかん。トアの病が治るかもと考えていたら、いつの間にか早歩きをしていたようだ。
「私の屋敷に到着する前に、伝えておかなくてはならないことがある」
ボルゲーノさんが神妙な表情で語りかけてくる。
これまで話していると圧を感じていたが、今はその圧がさらに強くなった。それだけ重大なことなのだろう。
「ユートにはこれからある方に会って頂く。その方がユートの護衛を許可しなければ、この話はなしだ。そして私の屋敷であったことは全て忘れてもらう。いいな?」
「わかりました」
いくらボルゲーノさんが認めてくれても、その方という人が認めてくれなくては護衛の件はなしということか。望むところだ。
必ず俺のことを認めさせて、トアの病を治す方法を聞き出してみせる。
「本当は女性が望ましいが、ユートなら問題ないだろう」
「どういうことですか?」
「申し訳ない。今のは失言だった。気にしないでくれ」
気にしないでくれって言っても気になる。
女性の方が望ましい? どういうことだろう。
普通に考えると護衛対象が女性だから、女性がいいということなのか?
まあ俺としてはとにかくその人に気に入られ、トアの病を治す方法が聞けるよう務めるだけだ。
そして屋敷へと到着すると応接室へと通された。
さて、ボルゲーノさんが言うその方とはどんな人なのか。良い人だといいけど、テンプレのようなわがまま貴族は出来れば勘弁してほしい所だ。
俺はドキドキしながら待っていると、不意にドアが開いた。
「失礼します。あなたが私の護衛を⋯⋯えっ!」
部屋に入ってきたのは長い綺麗な髪を持った、可愛らしい少女だった。まあ少女と言っても俺より年上だけど。
それより何故俺の姿を見て驚いたのか気になる。
「子供じゃない!」
少女は声を上げるとこちらに駆け寄ってくる。
「ボルゲーノ、あなたこんなに小さい子に私の護衛をさせるつもりだったの!?」
「ルリシア様、この子供は⋯⋯」
「言い訳を聞きたくないわ。ごめんね⋯⋯突然こんな所に連れて来られて怖かったよね。もう大丈夫だから」
そして何を思ったのか、少女は少し屈むとさらに接近してきた。
少女の両手が首の後ろに回され、俺は抱きしめられる。
「んん⋯⋯」
えっ!? どういうこと!?
俺は少女に問いかけようとするも、顔が大きな胸に包まれ喋ることが出来ない。
「君のお家はどこかな? すぐに帰してあげるから安心してね」
それよりまずは離してほしいぞ。
柔らかい胸の感触が俺の空気と理性を奪っていく。
見た目は十歳でも中身は二十二歳だからな。さすがに意識するなというのは無理な話だ。
だけど会話を聞く限り、このルリシアという子は暴走気味ではあるが、俺の心配をしてくれているので、悪い人ではなさそうだ。
とりあえず分析するのは後にして、今はここから脱出しないと。でもこの子、中々力が強くて抜け出せない。
まずい⋯⋯このままでは息が⋯⋯
「ルリシア様! このユートは見た目は幼く見えますがBランクの冒険者です。先日一人でグリフォンを倒した報告を受けています」
「えっ? こんなに可愛い子が? うそ! 信じられない」
「事実です。ですからそろそろユートを離してあげて下さい。死んでしまいます」
「えっ?」
ルリシアさんはボルゲーノさんの言葉を聞いて、慌てた様子で俺を離す。
く、苦しかった。ルリシアさんみたいに可愛い人に抱かれながら死ぬのは本望だけど、今はまだその時じゃない。
「え~とユートくん? 大丈夫?」
「なんとか」
「ごめんね」
「大丈夫です」
「次はもう少し優しく抱きしめるから」
ルリシアさんは舌を出して可愛らしく謝罪してくるが、そういう問題じゃないと思う。この人、少しずれてるな。
「それでルリシア様、ユートを護衛として雇いたいと考えていますがよろしいでしょうか?」
俺としてはトアの病を治すためにも、雇ってもらわないと困る。
しかしルリシアさんの返答は俺の望むものではなかった。
「でも私のために子供のユートくんが傷つくのは⋯⋯」
「僕のことは気にしないでください」
「そんなこと出来ないわ。私を守ってくれた人を気にするのは当然じゃない。それに私なら護衛がいなくても大丈夫。こう見えてお姉ちゃんは強いのよ」
確かにさっき俺を抱きしめた時の力は強かった。だけどそれだけで、襲撃してくる者を倒せるという訳じゃない。
「ルリシア様は子供が傷つくのを見たくないということですね。わかりました。ですが護衛がなしというのは⋯⋯他の護衛を準備することで了承して下さい」
えっ? それは困る。
でもボルゲーノさんは最初の条件で、ルリシアさんの許可を得られたらと言っていた。
このままではトアの病を治す方法を、教えてもらえなくなってしまう。
俺はルリシアさんに護衛を受けてもらう方法を考える。
先程の会話を聞く限り、ルリシアさんは自分の力に自信を持っているようだ。それなら⋯⋯
そして一つの案にたどり着き、俺はルリシアさんに提案するのであった。
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