第15話 信頼こそ何より大切だ

 ◇◇◇


 そして時はボルゲーノ邸の庭へと戻る。


「これは干し肉ですね」


 俺がカードを投げた場所には、箱に入った干し肉の山が積まれる。

 そして俺は次のカードを手に取り、地面に向かって投げた。


「これは卵」


 先程と同じ様に、箱に入った卵の山が現れる。


「バカな! 何もない所から干し肉と卵が出てきたぞ!」


 依頼した荷物が次々と現れる様を見て、ボルゲーノさんは驚きの表情を浮かべる。


「そのスキルは何だ! 君のジョブはいったい⋯⋯まさか! 昨日カードを使った子供がグリフォンを倒したと報告があったが、それは君のことか!」

「「「グリフォン!」」」


 昨日のことがもう伝わっているのか。冒険者ギルドに聞いたのか? いや、冒険者ギルドには確か守秘義務があるから、そう簡単には漏れることはないと思う。

 まあ普通に街中で戦っていたから、誰か見ていた可能性の方が高いか。


「グリフォンって確かBランクのパーティーが対処する魔物だよな?」

「それじゃあ冒険者になって一日目で倒したってこと!」

「それだけではないぞ。彼はセレノアの冒険者ギルド史上最速でBランクになっている」

「「「Bランク!」」」


 本当に詳しく知っているな。だけど何故そこまで調べているのか気になる。少なくともこの人に対して油断しない方がよさそうだ。


「ユートはそんなすごい奴だったのか!」

「冒険者の心得を教えてやるって偉そうに言ってたけど、あんたが教わった方がいいわよ」

「⋯⋯カリンの言うとおり」


 そういえば初め会った時に、バッツがそんなことを言ってたな。何だか黙っていたのが申し訳なくなってきた。


 そして俺は八枚のカードを具現化して元の姿に戻し、ボルゲーノさんの依頼は終了となるのであった。


「まさか君達のような子供が私の依頼を達成できるとはな。これはその報酬だ」


 ボルゲーノさんは金貨二枚を手渡してくる。


「それともお前達は四人だから、大銀貨二十枚の方がいいか」

「そうしてもらえると助かります」


 報酬を四等分に分けるから、金貨二枚ならどこかで換金しなくちゃならないしな。


「その必要はねえ」


 しかしボルゲーノさんの好意をバッツが止める。


「どういうことだ? お前達は四人いる。分けるなら大銀貨二十枚の方が都合がいいだろ?」

「いや、二人とも話したんだが、今回の依頼料は受け取らない」

「えっ? それってどういう⋯⋯」


 バッツの言い出した言葉が理解出来ない。アルニアでも金が必要だと言っていたのに。


「確かに金貨二枚は大金だ! 滅茶苦茶欲しい! だけど今回の依頼で俺達は何もやってねえ。依頼を達成出来たのはユートがいたからだ」

「別に僕は気にしてないよ。それにアルニアでは荷物を分けてくれたじゃないか」

「そんなこと今回の依頼料をもらう程じゃねえよ」

「でも⋯⋯僕だけでお金をもらうなんて出来ないよ」

「これは三人で決めたことだ。何を言われようと考えを変える気はねえぞ」


 どうやらバッツ達の意志は固いようだ。これは何を言っても無駄な気がする。だけど俺だけ依頼料をもらうのもな。


「わかった。ではこの報酬は君に渡そう」


 俺はボルゲーノさんが差し出して来た二枚の金貨を受け取る。

 そうだよな。この人に取っては依頼が達成されれば、誰が報酬を受け取ろうが関係ないもんな。

 俺は何だかもやもやした気持ちを残したまま、報酬を受け取ることになった。

 しかしボルゲーノさんの話はまだ終わっていなかった。


「それでユート。この荷物を運んで欲しい所があるんだが」

「わかりました。どこに運べばいいですか?」


 確かに庭に食料品や衣類を置かれても困るだろう。そのため、俺はボルゲーノさんのお願いを聞くことにする。


「では大銀貨五枚で頼む」

「えっ?」


 俺はボルゲーノさんの言葉に思わず声を出してしまう。


「お金はもらっているし、タダでいいですよ」

「それとお前達三人もちょっといいか」


 しかしボルゲーノさんは俺の話を聞いてくれない。


「俺達のことか?」

「ああ。これから炊き出しをやるんだが、手伝ってくれないか。そうだな⋯⋯報酬は大銀貨十五枚でどうだ?」

「炊き出しで大銀貨十五枚!?」

「そんな高額な依頼聞いたことがないわ!」


 もしかしてまた依頼に裏があるのだろうか。いくらなんでも報酬が高すぎる。そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。


「もしかしてまた何か無理難題な依頼なのか?」

「いや、今回は普通の依頼だ。お前達に頼みたい」


 バッツ達はボルゲーノさんの問いになんて答えるか迷っている。普通と言われても最初の依頼があれだったからな。


「答えられないのも無理はない。だがこれだけは言わせてくれ。荷物運搬の依頼では、困難なものを用意して申し訳なかった」


 ボルゲーノさんが俺達に向かって頭を下げてきた。

 容姿や屋敷を見る限り、かなりの権力を持っていそうだが、そのボルゲーノさんが、子供に向かって謝罪するなんて驚きだ。


「実は私はある理由で、信頼でき優秀な者を探しているのだ。そのためなら多少の支出もやむを得ないと思っている」

「だから意地悪な依頼を出していたんですね」

「おいバカカリン! 正直に言うなんて失礼じゃねえか!」

「あっ! す、すみません!」


 いや、今のバッツの言い方も失礼だけどね。


「私にはやらねばならぬことがある。そのために非難を受けるのは覚悟の上だ」


 ボルゲーノさんから強い意志を感じる。

 その理由が気になるけど、軽々しく聞ける雰囲気ではなさそうだ。


「だけど俺達はユートみたいに強い訳じゃねえぜ」

「まだ冒険者になってから十日しか経ってないしね」

「確かに優秀であるなら他にも人がいるかもしれない。だがね⋯⋯信用出来る者はそう簡単には見つからん。先程自分達は役に立ってないと正直に話したこと、そして大銀貨十五枚の依頼を出した時に、金に目が眩んで依頼を受けなかったお前達を、私は気に入った。ちなみに大銀貨十五枚の依頼は本当だから信じて欲しい」


 確かに信頼というものとても大切だ。特にこの世界は前の世界の日本と比べて、容易に生き死にが行われている。

 何かの拍子で裏切られたら、簡単に死に直結するからな。


「へっ! そこまで言われたら仕方ねえな。その依頼受けてやるよ」

「何であんたはいつもそんなに偉そうなの! 失礼な態度を取って申し訳ありません」

「はは⋯⋯失礼なことをしたのは私の方だ。気にしないでいい」


 どうやら依頼の話がまとまったようだ。

 確かにバッツは失礼な言動が多いが、真っ直ぐな奴だ。信頼出来るというのも頷ける。


「では四人共炊き出しの手伝いを頼む」


 俺達はボルゲーノさんの言葉に頷く。

 それにしてもこの世界の子供達はドイズといいバッツ達といい、なかなかやるじゃないか。正直出会いはどうかと思ったけど、みんな根は良い奴で大したものだなと俺は感心するのであった。








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