第10話 一夜にして小金持ちになってしまった
翌日早朝
眠りから目覚めた俺は、すぐに身支度を整えトアの部屋へと向かう。
セリカさんから何も言われていないので大丈夫だとは思うが、トアの容態が気になる。
トントン
俺はトアの部屋に着くとドアをノックした。
「ユートくんどうぞ」
部屋の中からセリカさんの声が聞こえてきた。
どうやら俺がトアの部屋を訪ねることが、バレているようだ。
「おはよう」
俺は挨拶をしながらドアを開けると、ベッドに横たわるトアとキュアキャット、それとカーテンを開けているセリカさんの姿が目に入った。
「おはようございますユートくん」
「お兄⋯⋯ちゃん⋯⋯おはよう」
挨拶が出来たということは、トアの容態が悪化していないということか?
とりあえずトアの姿を見れて、俺は心の中で安堵する。
「トアの調子はどう?」
「悪くはないですね」
悪くないか。裏を返せば良くもないということか。
キュアキャットではトアの病を治すには至らないということだ。
「でも容態は安定しているし、ここ最近では一番調子がいいと思います」
俺が表情を暗くしたせいか、セリカさんが明るい話題を話してくれる。
そうだ。今はトアの命が助かったことを前向きに考えないと。
「これもユートくんとキュアちゃんのおかげですね」
「キュアちゃん?」
「この猫ちゃんのことです。トアちゃんと二人で名前を決めました」
キュアキャットだからキュアちゃんか。
「可愛い名前だね」
「ユートくんもそう思いますか」
「うん」
トアも喜んでいるから、俺からは何も言うことはない。今まで動物に触れることがなかったから、本当に嬉しそうだ。
トントン
「トア様、セリカ⋯⋯食事をお持ちしました」
ソルトさんがカートに朝食を乗せて部屋に入ってくる。
セリカさんの朝食は普通の食事だが、トアの朝食は消化を良くするため、ペースト状にしたものだ。
トアの看病をしてくれるセリカさん、食事を作ってくれるソルトさん⋯⋯この二人には本当に感謝しても感謝しきれない⋯⋯そうだ!
「今日は冒険者ギルドで、昨日倒した魔物の素材を換金してくれるんだ。だからそのお金をお世話になってる二人に⋯⋯」
母さんが五年前に亡くなってから、少なくとも給与はもらっていないはずだ。だから二人には報酬をもらう権利がある。
しかし⋯⋯
「ユートくんのお母様⋯⋯マリア様から給金は頂いてますから」
「そのお金はユート様がお使い下さい」
二人はお金を受け取ることを拒否した。
「でも二人がいたから僕達は生活出来てる訳だし⋯⋯」
「気にしないでいいのよ。お金はあって困る物じゃないから。トアちゃんのためにも取っておきなさい」
確かにいつどこでお金が必要になるかわからない。もしかしたらトアの身体を治す薬が、お金で買えるなんて可能性もある。
でも二人に感謝の気持ちを伝えたい。それなら⋯⋯
俺はあることを思いつき、二人にお金を渡すことを諦める。
「わかった。もらったお金は僕が使うよ」
「それがいいと思います。あっ! でも無駄遣いしちゃダメですよ」
「わかってるよ。それじゃあ僕は冒険者ギルドに行ってくるね」
俺は魔物の素材の報酬を貰いに行くため、トアの部屋を後にする。
そして冒険者ギルドに辿り着くと、再びサラさんの案内により応接室へと通された。
「今報酬をお持ちするので、少しここで待ってて下さい」
「わかりました」
サラさんが部屋から出ていって二分程経った。
するとサラさんは手に大小の袋を持って、戻ってきた。
「これが今回の報酬になります」
テーブルの上に三種類の硬貨が置かれた。
銀貨七枚に大銀貨五枚、金貨が四枚だ。
ちなみに日本の通貨と比べると⋯⋯
銅貨は百円。大銅貨は千円。
銀貨は一万円。大銀貨は十万円。
金貨は百万円。大金貨は千万円。
白金貨は一億円。大白金貨は十億円となっている。
だから日本円にすると今回の報酬は、四百五十七万円になるということだ。
冒険者は危険があるとはいえ、一夜で小金持ちになってしまった。
「これだけの大金⋯⋯スリや強盗には十分気をつけて下さい」
サラさんが心配する気持ちはわかる。
中身は二十二歳でも、見た目は十歳の子供だからな。
大金を持ってると知られたら、金を奪おうとする者がいてもおかしくないだろう。
だけど⋯⋯
「大丈夫ですよ」
「えっ?」
俺は金貨四枚を手で掴み、口を開く。
「カードとなりて我が手に集え」
すると十秒程経つと金貨から光を発し、カードへ変わる。
俺は金貨四枚(⭐1)のカードを手に入れた。
「こうすれば誰にも持っていかれません」
そして古文書の最後のページにセットするが、この時以前と違うことに気づいた。
最後のページの枠が二つ増えてる。もしかしてジョブレベルが上がったからか。
「そ、そういえばユートくんには、物をカードにするスキルがあったわね。それじゃあこっちの物もカードにしておいた方が良さそうですね」
サラさんは大きな袋からグリフォンの爪を取り出す。
「そうですね。持ち歩くのも邪魔ですから」
俺は先程と同じ様に、グリフォンの爪もカードにする。
グリフォンの爪(⭐3)のカードを手に入れた。
そして古文書の最後のページにセットする。
これで十二枚中六枚が埋まったという訳か。しかし今の二つのカードは戦闘では使えないな。
「本当にカードマスターは規格外のジョブですね」
「そんなことないですよ」
「ユートくんならすぐにAランクになれると思います」
そういえばガーランドさんは依頼をこなせばとか言ってたな。せっかく冒険者ギルドに来たのだから一つ依頼を受けていこうかな。だけど先に金貨とグリフォンの爪を屋敷に置いておこう。
「そうなれるよう頑張ります」
「頑張ってね。ユートくんには私も期待しています」
俺はサラさんと別れ、一度屋敷へと戻る。そして金貨とグリフォンの爪を置いてから、冒険者ギルドの依頼が貼ってある掲示板へと向かった。
冒険者になってから初めての依頼だ。どんなものがあるか楽しみだ。
そして掲示板の前に到着するが、貼ってある依頼書は一つしかなかった。
「今日は依頼事態が少ないのか、それとも他の冒険者が持っていってしまったのか」
俺は唯一ある依頼書を手に取るが⋯⋯
「「あっ!」」
俺と同時に依頼書を掴む人がいて、思わず声を上げてしまうのだった。
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