第11話 同年代の子供の考え
「俺の方が先に依頼を取ったよな?」
隣に俺と歳が同じくらいの少年がいた。
「タイミング的に同時だったと思うけど」
「そんなことないよな?」
少年は後ろを振り向き同意を求める。
「⋯⋯僕の目に同じに見えたけど」
「バッツ! また問題を起こしたの? いい加減にしてよね」
どうやら仲間が二人いるようだ。
そして何故か少年は仲間の一人である女の子に叱られていた。
「ちげえよ! ただ依頼書を同じタイミングで取っただけで問題起こした訳じゃ」
「⋯⋯自分で同じタイミングって認めたね」
「ごめんなさい! このバカが迷惑をかけて」
三人だけで話が解決してしまった。まるでコントを見ているようだ。
「ううん、タイミング的には同時だったから」
「ほらみろ! 別に俺は悪くないだろ!」
「あんたは自分が先だって押しきろうとしてたじゃない!」
「そ、それは⋯⋯」
また言い争いが始まってしまった。
これはいつまで続くのだろうか。
だがどうやら女の子がこのパーティーで権力を持っているようで、話はすぐ終わった。
「さっきは悪かったな」
「私からも謝ります。迷惑をかけてごめんなさい」
「⋯⋯ごめんなさい」
三人はこちらに向かって頭を下げてきた。
「気にしてないよ。それよりこの依頼どうする? 君達が受ける?」
素直に謝罪されたなら、ここは年長者として依頼書は譲るべきだろう。
「それなら一緒に受けねえか?」
「一緒にですか?」
「ああ。これも何かの縁だ。それにそっちの方が面白そうだ」
「面白いってあんた⋯⋯いつも勝手に決めて苦労するのは私達なのよ」
この子達と一緒に依頼を受けるのか。確かに面白そうだ。
実際にこの世界の子供達がどんなことを考えているのか、どれくらいの実力があるのか確認してみたい。
俺は今までトアとセリカさん、ソルトさんとしか関わってなかった。だからこの世界のことを知るために、こちらとしても望む所だ。
「いいよ。依頼を一緒に受けよう」
「えっ? 本当にいいの? 絶対バッツが迷惑をかけるわよ」
「何だと!」
「大丈夫です。僕もバッツくんと同じで皆さんと依頼を受けるのが、面白そうだと感じたので」
「さすがわかってるじゃねえか。お前名前は?」
バッツは自分の味方をしてくれる人がいて嬉しかったのか、肩を組んでくる。
いきなり馴れ馴れしいな。これがこの世界の子供達の基準なのか?
「僕はユート」
「俺はバッツだ。そしてこの赤髪の気が強くてうるさいのがカリン」
「誰がうるさいよ! あんたのせいでしょ!」
どうやら気が強いは、否定しないらしい。
「この体格がいいボーッとしているやつがテットだ」
「⋯⋯よろしく」
「それでユートは何歳だ?」
「昨日十歳になったばっかりだよ」
「なるほど。それなら俺達の方が先輩冒険者だな。冒険者の心得を教えてや⋯⋯」
「あんたバカなこと言ってるんじゃないわよ!」
バッツが胸を張って先輩面しようとしていたが、カリンさんに頭を叩かれる。
「いてえな! 何するんだよ!」
「私達だって祝福をもらったばかりで、冒険者になったのも十日前でしょ!」
「た、確かにそうだが、初めて出来た後輩だぞ。少しくらい浮かれてもいいだろ」
「もうバッツは黙ってて! これ以上私達に恥をかかせないでよ」
十日前ということは俺と同じ歳か。
それにしてもよく冒険者になったばかりで先輩面出来るな。今の子達はこんな感じなのか?
そういえばドイズも無駄に自信ありげだったな。
「うるせえな。そんなことより依頼内容を見てみようぜ!」
「そんなことじゃないけど依頼内容は気になるわね」
バッツが手に持っている依頼書を俺も横から見る。すると中にはとんでもないことが記載されていた。
Eランク⋯⋯アルニアにある荷物を本日午後五時までに、ボルゲーノ邸まで届けること。ただし、時間を過ぎれば依頼料はなしとする。
ここまでは良くある荷物運搬の依頼だ。
だが依頼料が通常ではありえない金額だった。
依頼料は金貨二枚とする。
「金貨二枚だと!」
「アルニアの街は歩いて二時間くらいよね? これなら私達でも出来そうだわ」
バッツのパーティーは依頼料の高さに沸く。
だけどこの依頼怪しくないか? 遠くの街ならともかく、隣街でこの金額はおかしすぎる。だって日本円にすると二百万だぞ。
「でも少し怪しくないかな。荷物運搬で金貨二枚って」
「別に依頼料が高いのはいいことじゃねえか」
それにまだおかしいことがあるけど、バッツ達は気づいていない。
「何でこの依頼が残ってたのかな? こんなに良い条件の依頼が残ってるなんておかしいと思うけど」
「確かにそうね」
「⋯⋯気づかなかった」
普通なら一番になくなってもいい依頼だ。
「何言ってんだ。これはチャンスだぞ。チャンスは最大限いかせっていうだろ」
それは某アニメの名台詞では? 何故バッツが知ってるんだ。
だけどバッツの言うことも一理ある。
せっかく高待遇の依頼が残ってるのに逃す手はない。
「とにかくこの依頼は受ける! いいな?」
カリンさんもテットくんも頷きはしなかったけど、否定もしなかった。
そのため、バッツは受付へと依頼書を持っていき、俺達も後に続く。
「サラのねーちゃん。この依頼受けてもいいか?」
「はい? バッツくん達とユートくん。もしかして同じ依頼を受けるの?」
「そのとおりだ」
「わかりました⋯⋯! この依頼を本当に受けるんですか? 私としてはやめた方がいいと思いますけど⋯⋯」
サラさんの表情が暗くなる。
やはりこの依頼には裏があるようだ。
「依頼主のボルゲーノさんはその⋯⋯無理難題を仰る方で⋯⋯そのため今までボルゲーノさんの依頼は誰も達成したことがなく⋯⋯」
なるほど。だから依頼書には達成できなければ金は支払わないと書いてあったのか。
「誰も達成出来ない依頼か⋯⋯おもしれえ。それなら俺がその依頼を達成してやるよ!」
だがサラさんの話を聞いて、逆にバッツのやる気に火が着いたようだ。
「ええっ! あんた本気!?」
「ああ。仮に達成出来なかったとしても一日無駄になるだけだ。それならやるしかないだろ?」
確かにバッツの言う通りだ。ダメだったとしてもお金を取られる訳じゃないから、どんな依頼かわからないが、やるのはありだな。
「ユートくんもやるの?」
サラさんが最終確認なのか、問いかけてくる。
「バッツくん達がやるなら」
「う~ん⋯⋯そっか。ユートくんがいるならもしかしてボルゲーノのさんの依頼を達成出来るかも」
神妙な顔をしてボソッと呟く。
「わかりました。それではバッツくん、カリンさん、テットくん、ユートくんでこの依頼を受注するということで。詳しい内容はボルゲーノさんに直接お聞き下さい」
「任せとけ!」
こうして俺は出会ったばかりのバッツ達と依頼を受けることとなり、冒険者ギルドを後にするのであった。
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