第8話 ギルドマスターの洗礼

 冒険者ギルドに戻ると、俺はサラさんの案内によって応接室のような部屋へと通された。


「ユートくん、ここで待っててもらってもいいかな?」

「は、はい」


 俺はサラに促され、ソファーに座る。

 何故俺はこんな所に連れて来られたのだろうか。

 何かやってしまったのか?

 思わず不安になり、どもってしまった。


 そして数分経った後、サラさんと身長が高い筋肉質の中年男性が部屋に入ってきた。

 誰だこの人? 冒険者か?

 男性は荒々しく対面のソファーに座ると、ジロジロと値踏みをするように、視線を向けてきた。


「ふん⋯⋯このガキがグリフォンを? 何かの間違いじゃねえか」

「いえ、おそらく間違いではないと思います。本人からギルドカードを確認してもいいと言われているので」

「高ランクの祝福をもらったって訳だ」


 目の前の男は不遜な態度を取っている。

 どうやら俺のことを好ましく思っていないらしい。


「お前に一つ良いことを教えてやろう」

「何ですか」

「俺はジョブに頼ってイキってる奴が嫌いなんだよ」


 その気持ちはわからないでもない。過去にプラチナランク以上のジョブをもらって英雄になった人もいるが、調子に乗って犯罪者になった人も多くいる。

 もし身近にそういう人がいたら、この男性がジョブランクが高い人を嫌う気持ちもわからないでもない。


「僕は別にジョブだけに頼っているつもりはないですよ」

「ほう⋯⋯口だけならなんとでも言える⋯⋯ぜ!」


 男性が突然モーションなしで、右拳を放ってきた。

 しかしこの人は何かやりそうな雰囲気だったので、俺は用心していたこともあり、左の掌でその拳を受け止めた。

 ん? 確か攻撃を受ける前、またはバトルが始まる時は必ず皇帝時間インペリアルタイムに突入するんじゃなかったのか?

 いや、もしかしたら最初から当てるつもりはなかったのかもしれない。


「いきなり何をするんですか」

「まさか子供が俺の拳を止めるとはな。しかもこれは⋯⋯」


 普通初対面の子供に殴りかかってくるか?

 こんなに危ない人を何でサラさんは連れてきたんだ?


「ギルドマスター何をしているんですか!」


 どうやらサラさんも男性の行動がおかしいと思っているのか、注意している。

 それにしても今サラさんはギルドマスターって言ったよな? まさかこの乱暴な人がこの冒険者ギルドのトップなのか? なんか嫌だなあ。


「すまんすまん。だけどこいつ、俺の拳を止めたぞ」

「止めたぞじゃありません! ユートくん大丈夫?」

「大丈夫です。何となく何かしてくるだろうなと思っていましたから」

「ほう⋯⋯危機察知能力も高そうだ。グリフォンを倒したのも本当っぽいな」


 ギルドマスターは笑顔を浮かべながら俺の隣に座る。

 そして突然肩を組んできた。


「気にいったぜ。俺はガーランドだ。よろしくなユート」

「よろしくお願いします」


 本当はいきなり手を挙げられて抗議したい所だが、冒険者ギルドのトップを敵に回すと色々不都合がありそうなので、黙ることにする。それに俺が言わなくても⋯⋯


「気にいったぜじゃありません! 私、前から言ってますよね? すぐに暴力を振るうのをやめて下さいって!」

「悪い悪い。次からは気をつける」

「それって絶対に気をつけないパターンですよね」

「ユートにはもうしねえよ。まあ他に気にくわない奴がいたらわからねえけど」

「ほらやっぱり! ん? でもユートくんにはもう変なことはしないって⋯⋯」

「ユートはジョブに頼った奴じゃねえってわかったからな」

「先程ギルドマスターの攻撃を受け止めたからですか?」

「ああ」


 いきなり殴られそうになってビックリしたけど、ガーランドさんに気にいられるという対価があったようだ。


「でもさっき僕は何かジョブのスキルを使って避けたかもしれませんよ」

「例えそうでもお前は努力している奴だってわかったからな」

「そんなことないよ」

「えっ? えっ? どういうことですか?」


 ガーランドさんはニヤリと笑い、サラさんは困惑していた。


「サラ、お前ユートと握手しろ」

「えっ? 突然何を」

「いいからやれ」

「わかりました。私としても望むところ⋯⋯いえ、何でもありません」


 何だか今、不穏な空気を感じたが気のせいか?

 握手するのが少し嫌になってきたぞ。

 だけどガーランドさんが、早くしろ的な目でこっちを見てきたので、仕方なく右手を差し出す。


「握手をすると何かわかるのですか? 柔らかくてスベスベな手が私を⋯⋯えっ? 硬いです!」

「だろ? これは日頃から鍛練をしてないとこうはならねえ。まさか十歳のガキが、熟練の剣士のような手をしているなんて驚きだぜ」


 どうやらガーランドさんはさっき拳を止めた時に、俺の掌の形を感じとったようだ。


「どうすればこんな手に⋯⋯でも幼い少年が影で努力をしている⋯⋯それはそれでなかなか萌える気が⋯⋯」


 サラさんが俺の手を余すことなく触れてくる。

 何だか恍惚した表情をしていて怖いぞ。

 俺は身の危険を感じて、手を引っ込めた。


「あっ!」


 サラさんが声をあげるが、とりあえず無視しよう。


「それでグリフォンとハーピーの素材はどうする? 売るならそのままギルドで買い取るが。特にグリフォンの爪は高く売れるぜ?」


 素材かたくさんあっても運ぶのに困るだけだ。それなら⋯⋯


「爪だけ頂いてもいいですか?」

「わかった。金は明日用意する。爪の方は加工して渡すからからまた後日取りに来てくれ」

「わかりました」

「それとお前はBランクにしてやる」

「ええっ!」

「なんだサラ。そんなに驚くことねえだろ。ユートはBランクのパーティーでやっと倒せるグリフォンを一人で倒したんだ。むしろAランクでもおかしくねえだろ?」


 いきなりBランク。そんなこと出来るのか? いや、そういえばサラさんがギルドの裁量でAランクまでは上げられるって言ってたな。


「本当はAランクにしてやりてえけど、戦闘以外の能力がわからねえからな。いくつか依頼をこなして問題なかったらAランクにしてやるぜ」


 それはとてもありがたい。ランクが高くなればそれだけ高額な依頼を受けることができる。それにトアの病を治す情報も入ってくるかもしれない。


「一日でBランクなんて⋯⋯しかも十歳の子に。そんなこと前代未聞ですよ」

「知ってるか? 記録ってやつはいつか破られるものなんだ」


 ガーランドさんはサラさんの問いに対して豪快に笑い飛ばした。


 こうして俺は魔物倒したことで、僅か一日でFランクからBランクの冒険者になってしまうのであった。


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