第6話 カードマスターの力

「パワーブースター!」


 俺がカードを手に取り宣言すると、自分の身体能力が劇的に上がったのがわかった。


「これは予想以上だな」


 俺は今まで感じたことのない風圧を受けながら、疾風のように駆け走る。


「ちくしょう⋯⋯もうダメか」


 だけどカードの能力に浮かれている暇はない。ドイズはハーピーの攻撃で剣を失い、地面に膝をついている。

 このままだとどうなるか想像に容易い。


 だが魔物の思い通りにはさせないぞ。


 俺は背後から二匹のハーピーを剣で切り裂く。

 するとハーピーは頭から真っ二つに身体が分かれ、地面に落ちる。


「なっ!」


 ドイズが驚きの声をあげた。

 だがその気持ちはわかる。自分が苦戦していた魔物が一瞬で消えてなくなったのだ。


「お、お前は⋯⋯没落貴族!」


 この後に及んでこいつは⋯⋯

 一瞬俺の中で見捨てるという選択肢が浮かんできた。


「い、今のはお前が倒したのか?」


 俺は頷く。


「ありがとう。まじで助かった」


 なんだ。ちゃんと礼を言うことは出来るのか。それなら助けてやってもいい。


「後は僕がやるから君達は東側に逃げて」

「お前一人で? それは無茶だ! あのデカイ化物が見えないのか?」


 ドイズがいうデカイ化物はグリフォンのことだろう。

 グリフォンはハーピーが殺られたというのに、変わらずこちらの様子を窺っていた。

 だがそれはこちらにとっては好都合だ。今のうちにハーピーを倒す。

 だからここでドイズと問答している暇はない。


「不遇職のお前に何が出来る。俺も戦う」

「その怪我で? 僕は君が苦戦したハーピーを二匹倒している。それに君にとって一番大切なことはなに?」

「そ、それは⋯⋯」


 俺の言葉にドイズはネネちゃんに視線を向ける。

 誰も頼る人がいない状況ならわかるが、今は生き残る方法を取るのが最善だ。

 命を失ったら何もならないからな。


「くっ! 屈辱だがここは任せていいのか」

「もちろん。君はネネちゃんとおじいさんを連れて東側に逃げて下さい」

「わかった。じいさんもいいか!」

「わ、わかった」


 幸いなことにハーピーは仲間が殺られて戸惑っているのか、こちらに攻撃をして来なかった。

 俺は剣をハーピーに向けて、三人が退避出来るよう牽制する。


「ユートくん⋯⋯ありがとう」


 ネネちゃんの声が聞こえた後、程なくして背後から三人の気配が消えた。

 さて、後はこの魔物達を倒すだけだ。

 それにしてもハーピーは何故攻撃をして来なかったのだろう。

 その答えはすぐにわかった。

 手元をよく見るとハーピーは震えていた。

 おそらく仲間が瞬時に殺され、俺に恐れをなしているのだろう。


 俺は一歩前に出ると、二匹のハーピーは飛び上がり西側へと逃げていく。


「命拾いしたな」


 あのまま向かってきたら、叩き斬る自信はあった。

 本能で悟ったのかわからないけど、逃げたのは正解だと思う。

 しかし未だに逃げない魔物もいる。

 それは先程からこちらの様子を窺っているグリフォンだ。

 これだけ大きな魔物は今まで見たことがない。

 確か冒険者ギルドでは、Bランクのパーティーでやっと倒せるレベルの魔物だと聞いたことがある。

 だがパワーブースターで強化された俺なら、倒せない相手ではないはず。


 俺はグリフォンに向かって殺気を放つ。

 するとグリフォンは翼を使って、ゆっくりと上空へ飛び上がり始めた。


「逃げるのか?」


 しかし俺の予想とは違い、グリフォンは上空五メートル付近でホバリングをしていた。

 何だ? 何をするつもりだ?


 俺はグリフォンの動きを警戒し、身構える。

 するとグリフォンは口を大きく開けてきた。


「まさか俺を食うつもりなのか? だが近づいた時がお前の最後。先程のハーピーのように、真っ二つに切り裂いてやる」


 パワーブースターの恩恵が大きいため、どんな攻撃が来ようと、降りてくれば倒せる自信があった。

 しかしグリフォンは、俺の予想に反した行動を取ってくる。

 大きく開けた口から炎を放ってきたのだ。


「くっ!」


 俺は向かってきた炎をひらりとかわす。

 だがグリフォンは次々と炎を放ってきたため、防戦一方になってしまう。


「厄介なことを」


 パワーブースターで力や素早さが増しているから、ジャンプして届かない距離ではない。だけど宙に浮いている最中は無防備なため、軽々しく行動に移ることは出来ない。

 そしてそれがわかっているから、グリフォンは宙に浮いたまま俺に攻撃を仕掛けて来ているのだ。


 グリフォンの炎は家屋を焼き払い、ドイズが持っていた鉄の槍を容易に溶かしている。


「これは一撃でも食らえば、俺もただじゃ済まないな」

「キェェッ!」


 グリフォンは、一方的に攻撃することが出来て気分がいいのか、けたたましい声で雄叫びを上げる。


 俺が魔法の一つでも使えれば、グリフォンを宙から叩き落としてやるのに。だけど残念ながら俺は魔法は使えない。

 だけど俺にはカードマスターのジョブがある。

 調子に乗っているグリフォンに、目に物を見せてやる。


 俺は古文書から一枚のカードを引く。

 そしてそのカードをグリフォンの上空へと、投げるのであった。


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