第4話 正体

僕がダイニングルームで夕食を取っていると、背中から血をぽたぽたと垂らしているリチャード先生が慌ててこちらへと走ってきた。僕はリチャード先生を見るなり

「どうしたんですかリチャード先生⁉その背中の傷と言い、大丈夫ですか?」

と、僕はリチャード先生の体を支えながら、そばにあった椅子に座らせて話を聞いた。

「それは大変でしたね。後ろから急に切り付けられるなんて。お怪我の具合はもう大丈夫なんですか?」

と、僕は背中の血が止まったところを見て言った。

「ああ。だいぶ痛みは楽になりました。

それよりもですよ、解けたんです。塔の謎が。

それと侯爵を襲った謎の仮面の男と、私を切りつけた謎の者の正体も。

それを今ここで皆さんに話しますね」

と言い、リチャード先生は得意げに話し始めた。

 何者かに背中を切り付けられ私は必死でリビングへと向かったが、リビングには誰もいなく、私は背中からくる痛みに耐えながら侯爵がいる部屋を探した。

「ダイニングルームからおいしそうな食べ物が匂いがする。もしや」

そう思った私は、ダイニングルームへと急いで向かった。

ダイニングルームにつくと、侯爵が驚いた様子で私に

「どうしたんですかリチャード先生⁉その背中の傷と言い、大丈夫ですか?」

そういい背中の傷のことを心配してくれた。

私は椅子に座り、侯爵にいきなり切りつけられたことを話した。

しばらく時間がたつと、背中の血は止まり、だいぶ痛みも楽になった。

そこで私は侯爵や、一緒に食事をとられている執事の方々に今解いた謎の説明を始めることにした。

「まず初めにお話しすることは、塔の謎についてです。

侯爵。あなたは私が初めて塔のことを質問した時怪盗ファントムが西の塔のことを立派な塔と呼ぶことを疑問に思いましたよね?」

そう私が聞くと侯爵は

「え?あ、はい。確かに少し疑問に思いましたがそれはただの私の思い込みでしょう」

「いやそれが結構重要なのですよ。

私も侯爵から聞いたときに確かにおかしいなと、思いました。なので私はこのお屋敷にある図書館やここらの町の図書館でこのお屋敷のことをいろいろと調べてみました。

するとこんなことが分かったんです」

そう言って私は上着のポケットから手帳をだし、侯爵に見せた。

その手帳にはこのように書いてある。

『ファントムが西の塔のことを立派な塔と呼ぶ理由。それは、西の塔ではなかった』

これを見て侯爵は首をかしげたが、私は急いで侯爵に説明をした。

「ええっとですね侯爵。西の塔ではなかったとは、そもそも、ブルーベル・ルビーが隠されている塔が西の塔ではなかったということです」

「では、西の塔ではないなら一体どの塔のことをファントムは指しているんですか

?」

「ファントムが指している立派な塔とは、西の塔の反対の、北の塔のことです。

北の塔は、このお屋敷のすぐ近くに立っている塔のことで、西の塔の真反対にある塔です。正確には、ブルーベル・ルビーが隠されているのは西の塔ですが、西の塔へたどり着くためには、北の塔から向かう必要があったのです」

そういいながら私はいったん興奮している自分を冷静にさせるため、いったん深呼吸をして、また話の続きを話し始めた。

「これにはちゃんとした理由があるのですが、私がこのお屋敷の図書館でこの謎に関係がありそうな本を探していると、『お屋敷の謎』という本を見つけたんです。

私はこのお屋敷の謎が解けるかもしれない!

そう思いその本を手に取って読んでみると衝撃なことが書いてあったんです」

そういいながら私は侯爵に『お屋敷の謎』という本を渡して特定のページを開き見せた。

それを読み侯爵は驚いた様子で私に問いかけた。

「こ、これは本当のことなんですか⁉これが本当なら今すぐにでも北の塔へ向かいましょう」

そういって侯爵は今にでも北の塔へと向かおうと支度を始めた。が、私は侯爵に

「侯爵、まだ話の最中ですので、北の塔へ向かうには、全ての話が終わってからにしましょう」

と侯爵に言った。侯爵は

「そうですね。ちょっと興奮しちゃいました」

と言って、頭をかきながら元居た椅子へと座った。

「最初に私は皆さんにこの塔の話と、仮面の男、私を切りつけた謎の者の話をするといいました。

すでに塔の謎はこの本を頼りに進めば解けるはずです。

では、次に皆さんに話さなきゃいけないことは仮面の男と私を切りつけた謎の者の事です。私はすでにこの者たちの正体はわかっています。

それと同時に、私はこの者たちが同一人物だということも分かっています」

そういうと、侯爵は身を乗り出して

「その者の正体とはいったい誰なんですか⁉」

と、とても興奮した様子で私に聞いた。

私は一回深呼吸をし、覚悟を決めて言った。

「侯爵を襲った仮面の男と、私を切りつけた謎の者の正体は、マルコさん。あなたですね?」

そういい私はマルコのことを指さした。

マルコはとても驚いて

「いやですね~。私を犯人扱いして。

第一に証拠はあるんですか?私が謎の仮面の男やあなたを切りつけた者だという」

と言って首をあきれたをうにふった。それを見て私は胸ポケットにしまってあった紙をこの場にいる全員に見せるように出した。

「この紙にはマルコさん、あなたが今までにしてきた犯罪と、それを裏付ける証拠です。

あなたはたくさんの人にやとわれて犯罪をしていますね。

今回の事件も、あなたはブルーベル・ルビーを手に入れようとしているスフェイル侯爵に頼まれてやったことですね。

その時あなたがスフェイル侯爵に書いた契約書がここにあります。

さあ、これであなたは言い逃れができません。どうしますか?」

そう、私が聞くとマルコは、大きく笑ってポケットから短剣を取り出し、

「私の計画がばれてしまった以上、あなたたちを生かしておくわけには行きませんね」

と言って、近くにいたメイドを短剣で突き殺そうとしたが、その時、マルコはさっきまで椅子に座っていた侯爵に首をたたかれ、気絶してしまった。

それを見て私は

「やはり侯爵が怪盗ファントムでしたか」

と、残念そうにいった。すると侯爵はにやりと不思議な笑顔を見せて、

「気づいたかリチャード先生、いや、リチャード。

やっはり君は僕の変装を見破ることができたか」

と言った。周りにいたものは、何が何だかわからず戸惑っているが、次第に状況を理解し始め、「えっ!」と、驚きの声を上げる者が現れ始めた。

だが、そんなことはお構いなしにファントムは私に近づき

「お見事だったよ、リチャード。君は噂通りの探偵だったね。

立った二日で君がこの謎に解けるとは思わなかったが、僕が上げたヒントのおかげか君もこの謎に気づいたんだね」

と言って、私に拍手をした。

だが、やがてファントムは拍手の手を止め、

「でもなぜマルコが仮面の男だと気が付いたんだい?

あの証拠も揃えるにはだいぶ時間が必要だが、君は一日程度で集めてしまった。

いったいどんな手を使ったんだい?」

と、私に聞いてきた。もう侯爵の変装は解け、ファントム本来の顔を出していた。

私はファントムに、

「まあ私も探偵だ。

依頼主の家に行く前にまず、下調べをしているのだよ。

つまり、この情報は私と、私の友人や仲間に頼んで集めてもらったんだ。

スフェイル侯爵は最初は口を固くして、「そんな者は知らん」っと、しらばっくれていたけど金を目の前にするとすぐに契約書を渡してくれた。

まあスフェイル侯爵には悪いけどすぐ近くに警察を待機させておいたからそのあとすぐに捕まったよ」

と言って、私はもう一度ファントムのことを見た。

「そうか。では最初から私がファントムだったことも見破っていたのか。

やはり君はすごいな」

と、ファントムはまた私のことをほめた。

私はファントムに褒められるたびに、敵ではあるが、なんだかとてもうれしくなった。

「それで、この男はどうするんだい?スフェイル侯爵と同じように警察を呼んで捕まえさせるかい?」

と言って、ファントムは私に聞いてきた。

それを聞いて私は

「それならもう手は打ってある。

もうすでに警察署に電報を送っているからな」

と、ファントムに笑って言った。

それを見てファントムは、

「まさか、僕のことも電報で送ったのかい?」

と、大げさな反応をして笑った。

しばらくの間二人で笑いあった。

が、その笑い声はすぐに消え、私とファントムはお互いをジッと見つめあった。

どちらかが動けば必ず乱闘が始まる。

どっちが先に動くか、私たちはジッと激しく見つめあって、今か今かと待っていたが、先にファントムが口を開き、

「なあリチャード。ここは一時休戦としないか?」

と言った。当然私は

「いやだね。ここでやめたら君は必ず逃げるだろう?」

と言って、ジッとファントムのことを見つめ続けた。

どれくらいの時間がたっただろうか?次第に外から

「ガタガタガタガタ」

という、足音が聞こえ始めた。

私は

「しめた。警察の人たちが来たんだ。これでこのマルコと、怪盗ファントムが捕まるぞ」

と、思っていたが、気づくとファントムはその場にはいなく、どこかへと消え去っていた。

                                   つづく

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