17話 大見得切る。そして僕はやっぱり途方にくれる。
バックヤードの誰も居ない大道具置き場まで来てからサングラスを外す。
しゃがみこむ。
「言っちまったあ!」
小声で慟哭。
「何してんだ僕は……頭おかしいんじゃないか? 三日? 三週間もらえそうだったのに、三日? アホか? いやアホでありバカだ!」
そこで背中がポンと叩かれた。ビクリと振り向くと。
ハレヤがいた。ひどく怒ってる。
「あなたという男は!」
ロジオンの頬が──ビンタされた。
「す、すみません、ハレヤさん……三日は言いすぎました。反省してます」
ハレヤは首を振る。『そこじゃない』と。
「私なんかのために……ここまでするあなたはバカだ! バカ! 大馬鹿もの!」
どうしてか、ハレヤの瞳には涙が貯まっている。
「ロジオン……ぶってしまってごめんなさい。そして…………ありがとう」
「お安いご用です──って言えればいいんですけど」
ロジオンは再び項垂れた。
「すみません、僕、普通に途方にくれちゃってます」
ハレヤは呆れたように苦笑する。
「こうなってしまえば私も吹っ切れた。全力で協力する。行きましょう」
「はい? どこへです?」
ハレヤに手を引かれ、ロジオンは撮影所の外へ連れ出されたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
そうして噴水公園までやってきた。
撮影所とマンションの中間地点にあたる場所だ。
「ねえハレヤさん。どこ行くんです?」
「緑風草原の決戦を書くのでしょう? なら緑風草原に行く。また運転してほしい」
「取材ってことですか? あのシーンの資料ならもういくらでも」
「ほう、ではその中に、戦闘に参加した者の証言は?」
「あるわけない。そんなのあったら、これまで知られてなかった事実も明らかになるだろうし、もしかしたら、オークを勇者にしても矛盾しないヒントが見つか──」
そこまで言ってロジオンはハッとして、ハレヤに目をやった。
「ふふ、その戦った本人がここに居る。勇者物語の〝原作者〟ともいえる私がだ」
「な、なにかヒントになりそうな事、知ってるんですか?」
「私は物語の作り方などわからない。それでもあの場で起こったことなら、現地に行けば一秒刻みで思い出せる。そこからヒントを見つけ出すのは──」
ハレヤはロジオンを指さした。
「あなたの仕事だ。勇者映画における最高の原作者と、勇者映画の常識を塗り替える脚本家。良いコンビでは?」
言われてロジオンはちょっぴり意地悪そうな笑顔を作り。
「まあハレヤさんが本物だったら、なんですけど」
「だとして自称勇者と、自称大先生、なおさら釣り合ってる」
「あはは、ですね。改めてよろしくおねがいします」
「こちらこそだ。では先ほどお金も入ったことだし、景気付けを──」
噴水の近くにクレープ屋台が出ていた。ワッフル屋台の隣に。
「私はあれが食べたい。あの看板にある『クレイジージャンボチョコバナナクリーム』を」
「そんなことしてる場合じゃないでしょ。三日しかないんだ。早く行こう」
手を引くも、ハレヤは踏ん張って動かず、急にダダをこねる子どもみたいな表情を作って。
「食べたい食べたい食べたーい! 買って買って買ってー!」
「小学生ですか……」
「あなたがそういう設定にしたのでしょう?」
「その設定、便利に使いますね」
「いつもここでワッフルしか買えなかった。隣の屋台がどんな味なのかずっと気になってた。味気ないワッフルをかじりながら、チョコやクリームやバナナを想像して」
恨めしそうにクレープ屋を眺めるハレヤ。
それを見てロジオンは、しょうがないなと苦笑い。
「クレイジー──なんでしたっけ。僕、買ってきますよ」
「よしっ」
ハレヤは嬉しそうに自分でトテトテ駈けてった。
屋台のホビットおじさんへ注文する。
「クレイジーなんたらを、いただきたい」
その後ろからロジオンが付け加えた。
「追加でチョコマシマシ、バナナマシマシ、クリームマシマシにしてください」
「ロジオンッ!!」
と、振り向いたハレヤの目は、キラキラ輝いてたのだった。
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挿絵ファンアート
『チョコマシマシ、バナナマシマシ、クリームマシマシで』
https://kakuyomu.jp/users/Diha/news/16818093076221111585
画:かごのぼっち様
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