第9話 人を傷つけると言うこと



 私は、杉田が転校してくる少し前に友達に怪我をさせたことがある。


 それは不可抗力で、事故だった。


 河原で一緒に『水切り』という石を水面に投げる遊びををして、一緒にいた仲良しのキヨミちゃんことキューちゃんに、誤って石をぶつけてしまったのだ。


 私が川に向かって投げようと振りかぶった石が、手をすっぽ抜けて後方にいたキューちゃんの眉のあたりにぶつかった。


 キューちゃん額は切れて、血がいっぱい出た。


 私が、泣きながら謝ってハンカチで傷口を抑えても、ハンカチが血で染まるだけでなかなか止まらなかった。


「ごめんね。キューちゃん。こんなにいっぱい血が出て、キューちゃんが死んじゃうよぉ」


 私は、怖くなって泣きじゃくった。


「蘭ちゃん。このくらいじゃ死なないって。おでこは怪我すると血がいっぱい出るんだよ」


「でも、でもっ!!」


「お兄ちゃんが野球で切ったときもそうだったから、大丈夫だって。泣かないで」


 キューちゃんは自分が怪我をしたのにへらっと笑って、私の心配をしてくれた。


 私が両親と一緒に謝りに行ったときも、キューちゃんもその両親も『気にしないでまた遊んでね』と許してくれた。


 私だったら、傷が残るような怪我をさせられて許せたかどうか分からない。

 その難しいことを、キューちゃんはさも当然のようにしてくれた。


 それは、とても難しいことだと思う。

 

 誰もが、キューちゃんのように許してくれるわけではない。


 私はキューちゃんのように許せる人になりたいと思った。

  

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