第5話 杉田の家の事情



 そんなことがあって、私と杉田は完全に敵対した。


 というか、もう私には打つ手がなかった。

 先生が杉田に注意をしても、杉田の母親に注意をしてもどちらも聞く耳を持たなかったからだ。


 杉田のお母さんは、怪我をさせられた子の親が抗議しても『うちの子は、そんなことしません! 妹の面倒もよく見てくれる優しい子なんですよ。言いがかりはよしてください!』と、事実を認めないらしい。



 

 私は、雪玉の件で杉田と激しい喧嘩をしたことを母親に告げると、母が苦い顔をした。


「やられたらやり返すのはいいわよ。蘭の方が女の子で分が悪いんだから、怪我しない程度なら反撃してもいいんじゃない」


 うちの父も母も、勉強でも運動でも負けて悔しいならやり返せというタイプだ。


「ただ、あの子とはあまり関わり合いにならないで欲しいかな……。ちょっと、家の事情が複雑みたいだし……。

 蘭ちゃんはお姉ちゃんだから教えるけど、凜ちゃんには言わないでね」


 凜ちゃんとは、私の2歳年下の妹のことだ。


「凜ちゃんと同じ学年に、杉田くんの妹がいるの知ってるよね?」


「ひなちゃんだっけ? 小っちゃくてかわいい子。いつもニコニコしてるし、全然、杉田に似てない」


「うん。ひなちゃんは支援学級にいるよね」


「わかるよ。少し“ちてきしょうがい”? っていうのがあるんでしょ? 凜ちゃんよりずっと子供っぽい感じ」


「そうなのよ。杉田くんのお母さんは、妹のことをすごく気にしてかわいがってるのね。で、杉田くんにはひなちゃんの分もいい学校に行って欲しくて期待してるから、いくつも塾に行かせてすごく勉強している。それってどう思う?」


「どうって……」


 杉田は、鼻持ちならないが何もしないで頭がいいわけじゃないということだ。


(努力はしてるんだ……)


 でも、それを振りかざし、他人を蔑み暴力を振るうのは明らかにおかしい。


「家ではいい子っていうのも、たぶん本当のことなんじゃないかなぁ。家では、お母さんを困らせないように我慢していい子にしている分、外ではイライラしてるんだと思うよ」


「だからって、蹴られて許せるわけないじゃん!」


「そうだよね……。でも、知ってどう? おらんちゃんなら、凜ちゃんの分まで勉強がんばれる?」


「凜の方が頭いいじゃん。わかんないよ」


 私は、聞きたくないとプイと横を向いて、テレビをつけた。


 いや、本当は分かってる。


(私はドラえもんで、妹はドラミちゃんだ。

 私は、凜ちゃんの分まではがんばれない)

 

 杉田も私のように妹に対する劣等感があるのかもしれない。



  

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