第3話 本気の蹴りを食らうと息がつけなくなる



 男子は、杉田に蹴られても蹴り返したり、殴り返したりできる。


 できない子がいても、長井くんという酒屋の息子のやたらでかい男子がいて、その子がかわりに杉田にやり返してくれていた。

 

 私は、長井くんとは一緒に遊ぶほどの仲ではなかったが『弱い者いじめはダメだ』とハッキリ態度で示せるところは、好感を持っていた。

 

 そうして、杉田は男子からハブられるようになった。


 自業自得だ。


(仲良くしたい素振りが少しもないんだもん。当然だよね。

 それに、杉田は理由もなく暴力を振るうし、誰も友達になんかなりたくないよ)


 杉田は、男子から無視されてもその態度を改めなかった。



 そうして、ボスの長井くんが杉田を押さえた結果どうなったか?




 困ったことに、杉田の暴力は男子にではなく、女子や下級生に向かうようになってしまった。


 目が合ったり、そばにいるだけで押されたり、蹴られたりするのだ。


 本当に、どうしようもない。

 近寄らないようにはしても、狭い教室だ。

 班活動や掃除当番が一緒になれば、否応なく話しかけなければならない。


 私も「ちゃんと掃除をして欲しい」と言っただけで蹴られた。

 気の弱い子などは、突き飛ばされただけでびっくりして泣いてしまう。

 そうなると、私や数人の気の強めの女子は間に入って抗議するしかない。


「どうしてこんなことするの! ユウちゃんに謝りなよ!」


 そう言われて大人しく謝る杉田ではない。


「るっせー、バカブスは引っ込んでろ!」


 そう言って、囲んだ女子をまたつき飛ばしたり、蹴ったりするのだ。


 それが、生半可な蹴りではない。


 

 たぶん、格闘技の経験のない人に言っても分からないだろうが、人間は蹴られると息がつけなくなる。


 それは、腹を蹴られたときだけでなく、背を蹴られたときもそうだ。

 漫画で『ヴッ……』とうめいて前のめりに倒れると言う場面があるが、まさにあれだ。

 一瞬、呼吸が止まり、膝から崩れ落ちそうになる。


 私は、杉田にそういう蹴りをされたことがあるから分かるが、女子にしていい蹴りではない。



 杉田がやっていることは喧嘩ではなく、明らかな『暴力』だった。



   *



 担任の教師は、とても優しい年配の女性教師で私のことをとてもよくかわいがってくれて、私は大好きだった。


 宮下先生は、勉強があまり得意ではない私のことも、挨拶が元気がいい、周りの面倒をよく見る、人がいないところでも善行をしていることをクラス内でいつも褒めてくれた。

 そう、テストの点が悪くとも宿題を忘れずにやって、礼儀正しくすることを尊いこととして高く評価してくれた。


 そういう先生だからこそ、勉強がいくらできても他人を傷つけてはダメだと根気よく穏やかに杉田に注意をしてくれたし、その保護者にも学校での様子を話し、家庭でも気を配るように伝えていた。


 そのおかげで、杉田の暴力は少し減ってはきたが、それはあくまで先生たちがいる前だけで、子供同士になると度々暴力沙汰があった。

 

(杉田はどうしてこんなひどいことをするのだろう?)


 杉田のことは大っ嫌いだし、許せないヤツだったが、どうしていつもイラ立っていて、周りに暴力を振るうのか私はいくら考えても分からなかった。

  

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