第2話 ローキックは誰の為?

 

 私はその頃、刑事ドラマや時代劇、そしてアニメの正義の美少女戦士に憧れていた。


 可憐な女子でいながら、正義と愛を貫くヒロインを模し、私はいつもスカートを翻し駆け回り、ローキックを繰り出していた。


 暴力はよくない。


 分かってはいるが、誰も反撃しなければそれがいけないことだと分かってもらえないから仕方がない。


 大人しい女友達が意地悪な男子に泣かされたら?

 スカートめくりをされたら?

 男子に、突き飛ばされたり蹴られたりしたら?


 それは、やり返すのは当然だと私は思っている。



 復讐というわけではない。


 少し乱暴な男子は、ほとんどがそれをされたことがない子が多い。

 特に、女子はやわっこくてやられると痛いんだと言うことを、反撃と言葉で突きつけてやる必要がある。


 だから、私のローキックは自分から放つことはなく、あくまで反撃のためだけだった。

 

 そういう態度のせいか、私は気がつけば女友達からはリーダー扱いされ、男子からはあまり女子扱いされない男友達枠のようになっていた。

 

  *


 小4女子の私は、なぜか頻繁にローキックを繰り出していた時期がある。


 誰に?

 何のために?


 疑問に思うのはもっともだと思う。


 小4にもなれば、女の子はもっと大人っぽい。

 女子同士で群れになって遊ぶし、おしゃれにも気遣う。母性もあって小さい子の面倒を見たりもする。

 男子もそうだ。興味のある女子にいたずらをしたりはするが、取っ組み合いのような喧嘩は、そうそうない。


 大半は、暴力は悪いことだと分かっているし、私もできればしたくない。

 

 けれど、そうせざるをえない事情がひとつだけあった。


   *


 それは小4の時に、転校してきたある男子のせいだった。


 そいつは杉田といい、割と背が高くイケメンだった。


 頭も大変良く、お受験の勉強をすでにしているとかで、もう中学生の勉強をしているということだった。

 授業中に『因数分解でやった方が簡単だ』とか、その時の私には理解できないことを言っていた。


 別に頭がいいのはかまわない。それを鼻にかけてクラスメイトを馬鹿にするのはいただけなかった。


 でも、まあいけ好かないくらいなら別によかった。

 放っておけばいいからだ。


 特に、女子の私は一緒に遊んで楽しくない男子と無理に遊ぶ必要もない。

 

   *


 そうして、静観していたのだが杉田は、頭がいいことを鼻にかけるだけでなく、暴力を振るう奴だった。


 気に食わないことがあると、机やイスやらの物にあたる。

 

 そして、クラスメイトに向かって、


「そんな問題もできないなんて、愚かだな!」

「バカがうつるから寄るな!」

「愚図はムカつく!」


 などと暴言を吐いて、周りを馬鹿にした挙句に、つき飛ばしたり、蹴りを入れてきたりするのだ。


 はっきりいって杉田は、イカれた奴だった。

 

 その普通じゃない態度に、男子の間でも次第に嫌われてしまった。 

  

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